2話 魔族領
バキボキッツ!!
「あんた強ぇな!」
「これくらい普通よ」
私は今、竜魔族の案内で町に向かっている。そして、道中魔物が現れ、私が倒した。
「持っていかないのか?金になるぞ?」
「…いいわよ。重いし」
本当は、お金が無いから持っていきたい。でも、邪魔だし面倒。お金は、まぁ。なんとかなるでしょ。
「あぁ、袋をもってねぇんだな。俺が町まで持ってってやるよ」
竜魔族の男は、そう言い、魔物を小さな袋に入れようとする。…そんな小さな袋に入る訳ないのに、馬鹿なのかしら?
ヒュウンッ
「…は?」
絶対に入る訳が無い。だけど、魔物は袋に吸い込まれる様に入っていく。
「何なのよ、それ!」
「ん?アイテム袋を知らんのか?人族領にも有るはずだが」
…アイテム袋?私が死んでから300年の間に出来たって言うの?
こんな小さな袋なのに、私よりも大きい魔物が簡単に入るなんて便利すぎる。…欲しいわね。天界に持って帰りたい。
「ねぇ、その袋ちょうだい」
「ハハハ。欲しいなら自分で買いな。この調子で町まで魔物を倒して行けば、そのお金で買えるぞ」
ちぇっ。まぁ、こんな高価そうなもの、簡単にはやれないわよね。今7匹倒したし、大きな魔物数十匹分くらいかしら?となると、数百万ミザリン…。あ、今は単位が違うわよね。それに、魔族領なら更に違うわね。
「おっと、危ねぇ」
ドゴォォォン!!
「考え事か?ボーっとしてると怪我するぞ?」
「…は?」
…何が起こったの?私がお金の事を考えていると、大きな音がして、竜魔族の男が何かをした。目の前の地面は十数メートル抉れ、その先にドラゴンが倒れている。
「ラッキーだな、あんた。ドラゴンの素材は高く売れるぞ」
…もしかして。…この魔族、私より強い?
…いやいやいや。私のレベルは326よ。私だって、これくらい出来るわよ。…たぶん。
「どうしたんだ?あんた、具合でも悪いのか?」
「…あなた何者?まさか、魔王?」
「ハハハ。魔王様とは恐れ多いぞ。俺は魔王十三天王の一人、ドラディニエル・オッディウスだ」
…は?十三天王?こんなに強いのが、あと12人も居るっていう訳?
「ドラディ……。何だっけ?」
少し驚きすぎて、名前を上手く聞き取れなかった。そもそも、長すぎるのよ。
「呼び方なんて、おっちゃんでもおじちゃんでも何でも良いぞ」
「じゃあ、おっさん。魔王はおっさんより強いの?」
もし、魔王が存在して、おっさんよりも強いとなれば、堕天使どころでは無い。相当強い勇者でなければ勝てないだろうし、人族の危機かもしれない。
「あぁ、とんでもなく強いぞ!先代の魔王様を倒した勇者を、一撃で倒したからな」
「………」
…終わった。この300年の間に、魔族はとんでもなく強くなっていたのね。…私の考えが甘かった。魔族100人くらい敵じゃない?このおっさん1人にも勝てるか分からないのに、私は何を考えていたんだ。
町に着いて敵対されれば、私は確実に殺される。今逃げ帰れば、レミコ様にあわせる顔が無い。…おっさんは、私に『観光か』とか言ってたし、もしかしたら町でも観光客として扱われるかも。…そんな訳無いわね。…適当に情報だけ頂いて逃げよう。
「ねぇ、おっさん。堕天使って知ってる?」
「ん?知らねぇな」
…まぁ、そんな都合よく知らないわよね。はぁ。町でも少し聞いて、ダメだったら逃げよう。
♢♢♢
私は、おっさんに付いて行って町まで到着した。ここは魔族領。一切警戒を解かず、いつでも逃げられる様にしているつもりだ。
「あ、ドラディニエル様!そちらの方は?」
町に着くと、早速1人の魔族が話しかけてきた。今度は獣魔族だ。…こいつも強いのか?
「客だ。人族のマリヤちゃんだ」
おっさんは、隠しもせずに私を人族だと言った。そして道中から同じ呼び方で、私はちゃん付けで紹介される。
ちゃん付けは止めてと言ったが、子供なんだからと押し切られた。おっさんよりは長く生きているんだけどね。まぁ、おばさんと言われるよりは良いから、しぶしぶ認めたけど。
「おぉ!!初めての人族の客だな!何処から来たんだ?やっぱり、ケルディ領か?」
「ふぇ⁈ 天界よ」
…あ。あまりの予想外の反応に、嘘が付けなかった。いくら何でも警戒心無さすぎない?人族とか関係なく、私が女だから?
「天界?人族領には、そんな町もあるんだな!行ってみたいぜ」
「…は?」
何言ってんの、こいつ。天界を知らないのは当然だけど、人族領に行ってみたい?魔族の分際で?
「俺も行きてぇな。今度連れってってくれよ」
「は?…おっさん、魔族が簡単に人族領に入れると思ってるの?」
「ん?マリヤちゃんも人族だけど、魔族領に来てるじゃないか」
…どうも話が嚙み合わない。馬鹿なの?常識を知らないの?
「魔族が人族領に入れば、争いになるわよ」
「まぁ、まだ無理だろうが、数年後には可能になるだろ?」
…は?数年後?このおっさんは、何を夢見てんの?
「…マリヤちゃんは、和平の事を知ったから魔族領に来たんじゃないのか?」
「は?和平?何言ってんの?」
♢♢♢
「…嘘でしょ。あり得ない」
おっさんが言うには、新しく魔王になった奴は人族の血も流れていて、圧倒的な力を見せつけた後に争いを止めると宣言した。そして数日で、魔王は人族の国王と和平を結んできた。
正直、嘘としか思えない。だけど、おっさんが嘘を付いている様には見えない。
「天界って地域には、まだ情報が来ていないんだな?じゃあ、どうしてマリヤちゃんは魔族領に来たんだ?」
「言ったでしょ。堕天使を探しに来たの」
天界に、下界の情報が届くなんて稀。和平だなんて、レミコ様も絶対に知らない。
「そうだったな。じゃあ、ギルドで聞いてみよう。そこで魔物も売れる」
「うん。案内して」
おっさんは、それ以上私に詳しく聞かなかった。私が話したく無い事に気が付いたのか、何かを察してくれたのか。…おっさん。実は良いやつなんじゃないか?魔族なのに。
そして私達は歩き出し、ギルドへ向かう。おっさんに聞くと、ギルドとは何でも屋みたいな場所らしい。私が下界に居た時も、人族領に似たようなのが有ったけど、今はどうなってるかな?
「着いたぞ」
「…うん」
…はっきり言って、ボロい。それに汚い。中は…うん、臭い、汚い。
…無理。
『浄化』
私は、この空間に長居するのは無理だと判断し、神聖魔法の浄化を使った。もちろん、無許可。魔族が汚い場所を好むのなら悪いけど、そんな事ないわよね?
「おぉ!!これは、マリヤちゃんが?凄いな!臭くないぞ!」
…やっぱり、おっさんも臭いと思っていた。
「臭いと思ってたなら、改善しなさいよ」
「そうは言ってもな。ここは魔物の死骸とか、何日も風呂に入れてない兵士とかも来るから、難しいんだ」
うわ…。おっさん…。少しだけ良い奴かもとは思ったけど、そんな不潔な場所だと分かってて私を連れてきたのね。そんな場所だと知ってしまったら、早く出たいわね。さっさと終わらせましょ。
「おっさん、早く換金して」
「おぅ、待ってろ」
そして、おっさんはアイテム袋から魔物を出していく。…本当に、どれだけ入るのかしら。便利すぎるわよ。魔物は、出される度に奥へ運ばれ、屈強な魔族が行ったり来たり。…最初から奥で出せば良いのに。ドラゴンとか、運ぶの大変でしょ。まぁ、普通に持ってるけど。
「さ、待ってる間に聞いてきな」
「うん。おっさんも付いてきてよ」
和平だか何だか知らないけど、私にとっては魔族は敵。…おっさんは大丈夫そうだけど。そして私は、近くに居る魔族に、片っ端から堕天使について聞いていく。
♢♢♢
「…誰も知らない」
「まぁ、そうだろうな。ほら、換金が終わったみたいだぞ」
はぁ。私も、そう簡単に見つかるとは思って無いけど、嫌になる。それっぽい情報に、かすりもしない。まぁ、良いや。取り敢えず、お金。
「合計で、1920万メイになります」
「おおぉぉ!!」
私の知っている単位と違うし、どのくらいの価値か分からない。でも、量を見る限り凄いと思う。
「あ、おっさんが倒したドラゴンの分は?」
そういえば、ドラゴンだけは、おっさんが倒した。ドラゴンって大きいし、価値が高いわよね。半分くらい?
「それに含まれているぞ。貰っとけ」
「良いの?ありがと」
…おっさん、太っ腹。きっと、金持ちなんだろう。
「この後は、どうする?アイテム袋買いに行くか?」
「行く!案内して!」
そして私は、おっさんに付いて行き、近くの店に入った。
『浄化』
臭かった。
♢♢♢
アイテム袋900万メイ。少し可愛い杖、320万メイ。剣、720万メイ。その他、服と食料、2万メイ。
計算が合わない?少しおっさんが出してくれたから大丈夫。
「おっさん、ありがとね」
「おぅ。気にすんな」
おっさんは魔族だけど、優しい。おっさんと居れば、魔族領でも警戒されないし、案内してくれるから便利。
「これからどうする?」
「堕天使が見つかるまで探す。おっさん、知ってそうな人に心当たりない?」
私は魔族領の事なんて分からない。しかも、300年ぶりの下界で余計に。悲しい事に、今頼れるのは魔族のおっさんだけ。
「まぁ、魔王様だろうな。行くか?魔王城。運が良ければ会えるぞ」
「…嫌。それは最後の手段」
別に、ビビってる訳じゃ無い。魔王なんて会いたく無いし、会わないで解決できるなら、それに越した事は無い。まぁ、最悪の最悪の最悪は、魔王が堕天使だって事だけど。魔王の配下のおっさんが知らないから、それは無いと思う。…たぶん。
「じゃ、取り敢えず、残りの十三天王に聞きに行くか」
「うん。それで」
そして、私達の旅が始まった。
♢♢♢
「収穫無し…」
「まぁ、残念だったな」
魔族領に居る十三天王は12人で、おっさんと魔王城に居る1人を除いて全員に会って聞いた。意外と近くに居る十三天王が多く、15日ほどで聞き終わった。
「行くか?魔王城」
「…うん」
はぁ。結局こうなる。誰も知らない訳だから、魔王が堕天使という可能性高くなる。会って確かめないといけないけど、正直会いたくない。『魔王』という称号を持つものならば、勇者と共に何人か倒したけど、今の魔王は私が倒してきた魔王とレベルが違うみたい。
♢♢♢
「テイディウス、魔王様は居られるか?」
私達は、魔王城に来てしまった。おっさんによると、この魔族は魔王城に在住してる十三天王らしい。基本的に、入口で警護しているみたい。
「いや、ここ数日来られていない」
「そうか」
魔王が不在…。数日居ないって、やる気ない魔王?おっさんみたいに、配下が優秀だから丸投げ?
「何処に居るの?」
会いたくないけど、これ以上手掛かりが無いから、会うしかない。
「おそらく、人族領の王都かユリアール領という所に居るはずだ」
…ユリアール領ってのは聞いたこと無いけど、王都なら分かる。たぶん、300年くらいで場所は変わらないと思うし。
「行くのか?」
「うん。おっさんも来る?」
「いや。行きたいが、まだ止めとく。悪いな」
まぁ、流石に来れるとは思って無かったけど、おっさんなら来るかもしれないと思ったから聞いてみた。おっさんはお節介で優しいから。
「じゃあ、行くね。ばいばい、ドラディニエル」
おっさんの名前は、皆が呼ぶから覚えた。最後だから、呼んでみる。
「お!またな、マリヤちゃん。用事が済んだら、また来いよ」
そして私は、おっさんに背を向ける。
また…か。堕天使の事が片付けば、私は天界に帰る。おそらく、おっさんにはもう会わない。
私は、背を向かたまま、おっさんに言う。
「天界ってね、天使が住む場所なの…」
おっさんの返事は聞かない。私は、背中から翼を出し、その場を飛び立った。




