25話 ケルディ・サイコス 2
「勇者!」
美しい赤い髪、誰よりも美しい整った顔立ち。俺は、ドレスが似合いすぎる勇者に声をかけた。
「…あ、サイコス。久しぶりだね。3年ぶりくらい?」
「毎年会っているだろうが!」
社交界の度に会っているというのに、勇者はとぼけた事を言ってくる。だが、こういう冗談を軽く言ってくれる事は嬉しい。
「…そうだよね。ごめんね」
そして、勇者は一切悪くないというのに謝ってくる。本当に、優しくて心が綺麗な奴だ。
やはり、勇者が魔王と組んでいるなんて、想像できない。
「あ、そうだ。サイコスに渡そうと思って買ったんだけど、サイコスに会う前に魔王が誕生しちゃったから渡せなかったんだ」
そう言って、勇者はアイテム袋を取り出し、そこから変わったデザインのツボを出した。
…相変わらず勇者は常人とは違った感性を持っている様だが、俺の為に用意してくれた物が嬉しくない訳が無い。俺は、嬉しすぎて言葉が出なかったが、勇者からツボを受け取った。そして、万が一にも割れるといけないから、素早く自分のアイテム袋に仕舞った。
あぁ、勇者は何て優しいんだ。こんな勇者を少しでも疑った自分が恥ずかしい。後でソフィーに自慢しよう。きっと、羨ましがるに違いない。
「……じゃあ、ボクはもう行くね」
俺が嬉しさのあまり固まっていると、勇者はそう言ってきた。
「待て、俺はもっと勇者と話したい」
まだ肝心な事を話していないというのに、勇者は俺の前から去ろうとする。だが、勇者の口から真実を聞かなければならない為、俺は少し強引に引き留める。
「…え?そうなの? …嬉しいな」
あぁ、なんて可愛いんだ。さっきまでは気まずそうな顔をしていたというのに、引き留めた途端に笑顔を見せる。そんな顔をされたら、好きが止まらなくなってしまうじゃないか。
「勇者、君が魔王と組んでいたという噂を聞いた。本当の事を教えてくれ」
「え?メイの事?メイとは一緒に住んでるし、ボクの大切な存在だよ」
…は?何故否定しないんだ?それどころか、勇者と一緒に住んで居るだと?なんて羨まし…。
「そいつは魔王なんだろ?どうして倒さないんだ!」
勇者は今、こうして元気に生きている。という事は、勇者が魔王に敗北したというのは、事実とは異なっている可能性が高い。勇者は誰よりも強いからな。負けるとは思えない。
「ふふぅ、メイは凄く強いからね。ボクは一撃で倒されちゃったよ!」
「…は?」
…どういう事だ?勇者が一撃?そんな事可能なのか?
第一、その笑顔は何なんだ!少し不気味だけど、勇者が本当に嬉しい時にだけ見せる顔。勇者は今、その顔をしている。俺やソフィーには滅多に見せてくれなかったというのに、魔王の話をするだけで、その顔をするというのか…。
…本当に勇者は魔王と組んでいるのか? …そんなのダメだ。
「勇者、俺とソフィーも協力する。魔王が生きているのは危険だ。一緒に魔王を倒そう」
「えぇ⁈ そんな事しなくて良いよ。メイは優しいからね」
…魔王が優しいだと⁈ 何を言っているんだ勇者は。
…くそっ!勇者は完全に魔王に操られているかもしれない。魔王が優しいだなんて、絶対にあり得ない。
「魔王…。いや、魔族は危険だ。和平とか言っているそうだが、何か企んでいるに違いない。きっと、油断させて人族を滅ぼす気だ!」
「あははっ。メイがそんな事考えている訳無いよ。メイは和平だって言っただけで、何もしてないもん。和平の事も、国王様達に丸投げだったから」
「…は?」
…つまり、国王様が先陣を切って和平を進めているという事か?魔王が支配するのでは無く、国王様が自らの権限で進めていると言うのか?
…では、本当に魔族との争いが終わったと言うのか?
「サイコス。魔族ってね、種族の違いでしか無かったんだよ。今、ボクは獣魔族のキャルシィとも一緒に暮らしているけど、とっても可愛いんだよ」
「…は?魔王だけではなく、獣魔族も人族領に入っていると言うのか?」
魔王が聖女として人族領に居たのは、人族に近い容姿でバレなかったからだと思われる。だが、獣魔族は一目で魔族だと分かる。そんな奴が近くに居れば、大騒ぎになるだろう。…勇者はそんな事も考え付かないのか?
だが、勇者は続けてとんでもない事を言ってきた。
「キャルシィはギルドで受付嬢の仕事をしているよ。ギルドでも人気なんだよ!」
「…は?」
…今日、何度驚いたか分からない。それほどまでに、勇者の発言は俺の常識と離れすぎている。勇者が言っている事が本当なら、少なくともギルド職員や冒険者は、獣魔族を受け入れているという事になる。
そして、それからも勇者は、嘘の様なとんでもない事を言い続ける。だが、どの話も勇者は嬉しそうに話してくるから、勇者が嘘を付いていない事が分かる。
こんなにも長い時間、勇者と会話出来た事は嬉しくてたまらないが、俺の常識では受け入れられない事が多すぎる。
…勇者からの贈り物を自慢するついでに、ソフィーにも確認しよう。ソフィーなら、より正確な情報を教えてくれるだろう。




