23話 私は乗りたくありません
「メイちゃん、次はどれを受ける?」
「…え?…まだ受けるのですか?」
ドラゴンの討伐依頼から戻ってきて報酬を受け取って直ぐ、サクラさんはそう言い出しました。
「当たり前じゃない。まだ午前中よ?」
う…。確かに、帰るには少しだけ早い気もしますが、もう1日分は動いたと思います。回復したので疲れてはいませんが、もう1つ依頼を受けたいかというと、受けたくありません。
ですが、私よりも遥かに動いたサクラさんは元気です。2年も冒険者をやっていた私よりも、よっぽど元気です。それほどまでに、受付嬢の仕事は過酷だったという事でしょうか?
「…サクラさんは凄いですね。依頼を終えたばかりなのに」
「え?普通じゃない?」
…はい。私的には普通ではありません。カーラに振り回されたり、無駄な仕事を増やされるのに比べれば余裕という事でしょうか?サクラさんは7年もの間、精神的にカーラに鍛えられていたのかもしれませんね。
はぁ。受けたくは無いですが、私は昨日、明日から本気出すと誓いました。どうせ私は戦いませんし、もう少し頑張りましょう。
「では、どの依頼を受けますか?」
とは言っても、どうせドラゴンでしょうけどね。どのドラゴンの依頼を選ぶのですかね。
「さっきはドラゴンだったから、次はクラーケンにするわ」
「…え?倒せるのですか?」
ですが、私の予想とは違い、サクラさんはドラゴンの依頼を選びませんでした。何か作戦があるのですかね?
「さぁ?やってみなくちゃ分からないわ」
「……」
勝てるか分からないのに、SSランクの魔物と戦おうとするのですか…。何だか、カーラとは違った危険性を感じます。大丈夫ですよね?…考えるのは後にしましょう。きっと、何とかなるはずです。サクラさんですからね。
「…取り敢えず、お昼ご飯にしましょうよ」
「そうね。何食べる?」
こんな時に何を食べるかと聞かれたら、答えは1つしかありませんね。
「甘いものが食べたいです」
「じゃあ、ザラメおじさんね」
「はい!」
甘いものと言えばケーキ。ケーキと言えば、ザラメおじさんのケーキ屋さん。私の好みを理解してくれているサクラさんは大好きです。
♢♢♢
私達はケーキを食べ終え、クラーケンが目撃された場所に向かいます。とは言っても、相手は海の中。簡単には見つける事は出来ません。
「…こんにちは、海聖龍さん」
「ヴゥヲォォォォ!!」
そして私は、少し強引に説得され、海聖龍の前に来ています。サクラさんは、最初からそのつもりだったのかもしれません。策士ですね。
「…えっと。この付近で、クラーケンが漁船を襲っているみたいなのです。退治したいので、居場所とか分かりませんか?」
「ヴゥヲォォォォ!!」
…相変わらず何と言っているか分かりませんが、体を低くして、まるで背中に乗れと言っている様な気がします。案内してくれるのですかね?ですが、私は乗りたくありませんよ?
「メイちゃん、乗りましょう!!」
「…はい」
うぅぅ…。どうしてサクラさんは、そんなに嬉しそうなのでしょうか。私よりもサクラさんの方が、よっぽど海聖龍と仲良く出来ますよ。私のお友達はお友達という事ですか?相手は七聖龍なので、少しくらいは怖がっても良いと思いますよ。私は怖いですから。
「ヴゥヲォォォォ……」
…あ。そういえば、考えた事が伝わってしまうのでしたね。ごめんなさい。そんな悲しそうな顔をしないでくださいよ。怖いですが、嫌いという訳ではありませんからね。怖いと思うのは、人として普通の感情ですから。
「メイちゃん、早く!置いてくわよ」
「…別に、置いて行ってもらって構いませんけど」
寧ろ、置いて行ってほしいです。ダメですか?…ダメですよね。
そして私は、サクラさんに手を引かれて海聖龍に乗りました。緑聖龍よりもすべすべして気持ち良いですが、滑り落ちそうで怖いです。
「海聖龍さん、ゆっくり飛んでくださいね…」
「ヴゥヲォォォォ!!」
♢♢♢
「メイちゃん、あそこ見て!居たわよ!」
「…そうですね」
…何処を見れば良いのですかね。私には、海聖龍の綺麗な水色の背中しか見えません。しがみ付くので精一杯ですから。
「もぅ。ほら!」
「あうっ!!」
そして、またしてもサクラさんは私を引き剥がします。そんな事されても、しがみ付く相手が海聖龍からサクラさんに代わるだけですよ。サクラさんが戦うのですから、私が邪魔になってしまいますよ。
「メイちゃん、あれに近付いてもらって」
「…海聖龍さん、これからはサクラさんの言う事を聞いてください」
わざわざ私を通すのは時間の無駄ですからね。サクラさんなら、海聖龍と私よりも仲良く出来るはずです。私は、そんな事をしている余裕はありませんからね。気を緩めたくありません。
「ヴゥヲォォォォ!!」
そして海聖龍は、サクラさんの言う様に移動します。…いえ、移動していると思います。怖いから目を瞑っているので分かりません。
「メイちゃん、見ててね。さっき覚えた風魔法で倒すから!」
「…はい」
…凄いですね。ぶっつけ本番で使いこなそうと言うのですね。流石です。しっかりと見ておきますからね。心の目で。
♢♢♢
風魔法の音。クラーケンが暴れる音。サクラさんの移動指示。海聖龍の声。
クラーケンはSSランクの魔物という事もあり、それなりにしぶとかった様ですが、どうやら終わったようです。静かになりましたからね。
「メイちゃん、倒したわよ!」
「お疲れ様です。凄かったですよ」
なんと、サクラさんは海聖龍と協力してクラーケンを倒したみたいです。SSランクの魔物を倒すだなんて、凄すぎます。私よりも強いですね。
「見てなかったわよね」
「…はい」
そして、当然ですが、私が目を瞑ったままなのがバレます。ですが、ちゃんと音で凄さは感じていましたから、許してください。まぁ、そんな事はどうでも良いので、早くクラーケンを回収して陸に降りてください。
「じゃあ、クラーケンを回収するわね。あ!そのままギルドまで飛んでくれるかしら?」
「ヴゥヲォォォォ!!」
えええええぇぇぇぇぇ!!!
ちょっと待ってください!海聖龍さん、聞こえていますよね?陸に降りてくださいよ?
「…………」
…あれ?どうして反応してくれないのですか?海聖龍さん?
「…………」
「さ!ギルドまで、ひとっ飛びよ!」
「ヴゥヲォォォォ!!」
ううぅぅぅ…。サクラさんに…。サクラさんに海聖龍の指揮権を取られてしまいました。いや、確かにサクラさんの言う事を聞く様にと言いましたが、私の意見を優先してくださいよ。一応、私がテイムしているのですよ?
「ヴゥヲォォォォ!!」
あぁ…。今の雄叫びは、どういう意味ですかね?
…一直線にギルドの方向に向かっているという事は、そういう事ですよね。
…もう良いです。ギルドに着くまでサクラさんに抱き付いていますから。絶対に離しませんからね。




