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メイちゃんが大魔王になるまで  作者: 畑田
2章

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22話 基準とは人それぞれ

 

「メイちゃん、今日は依頼受けない?」


 いつもの様にギルドに来た後、サクラさんはそう言いました。


 今までは、サクラさんのランクが低かったので受けませんでしたが、昨日SSランクに昇格していますからね。


「良いですよ。見に行きましょう」


 そして、私達は依頼掲示板を見に行きます。依頼を受ける場合、普通は朝早くに行かなければ良い依頼は残っていませんが、今の私達にはあまり関係ありません。Sランクの依頼は簡単には取られませんし、SSランクの依頼は選び放題です。まぁ、依頼数も少ないですけどね。


「討伐系は…。ドラゴン、ドラゴン、ドラゴン、クラーケン、ドラゴン…。どれが良い?」


 …何でしょう、この選択肢の無さは。依頼自体は意外と沢山ありますが、ドラゴンばっかりです。ここは、あえてのクラーケンと言いたい所ですが、クラーケンは海の魔物。私達では相性が悪すぎます。


 サクラさんの魔法は水魔法なので、あまり効かないでしょうし、私のゴンザリオン・(必殺)ストライク()なら倒せるでしょうが、剣が海に落ちてしまいます。大切な剣なので、無くすわけにはいきませんからね。


「ドラゴンで良いと思います」


「そうね。じゃあ、これで」


 そう言ってサクラさんが選んだ依頼は、ドラゴンの討伐です。


 適正ランクはSSで、生息数は不明。1匹討伐で100万カーラ。増えすぎたドラゴンを出来るだけ減らして欲しいという依頼です。ドラゴンは素材だけでも大金になるのに、それプラスで100万カーラも貰えるのは嬉しいですね。


 そして、私達は依頼を受注してドラゴンの住処に向かいます。場所は、ケルディ領から50キロほど西にある山岳地帯。ケルディ領には闇魔法で行けるので、少しの移動で行く事が出来ます。



 ♢♢♢



「さ、メイちゃん。お友達呼んで!」


「…え?」


 …聞き間違いでしょうか?闇魔法でケルディ領に着いて、私がストレッチを始めようとすると、サクラさんが変な事を言った気がします。


「…走って行かないのですか?すぐそこですよ?」


「…やっぱり、メイちゃんって走るのが好きなのね」


「…そんな事ありませんけど」


 前回とは違い、直ぐ近くです。たった50キロなので、2時間もかかりません。私がおかしいのですか?変人と思われたく無かったので、前回は緑聖龍に乗りましたが、今回の距離は変人と思われるほどの距離では無いはずです。


「…メイちゃん、長距離移動で走るって選択肢は存在しないのよ?」


「はい。ですが、今回は長距離ではありませんよ?」


 確かに、短距離と言うには少し長いですが、疲れずに走って行ける距離ならば、長距離とまでは言わないはずです。


「いやいや、ちょっと待って。私の基準がおかしいの?そんな訳無いわよ?」


 …基準というものは、人それぞれです。カーラと組む前の私と、今の私では違います。そして、今のサクラさんは、バフを掛ければ私以上の領域に居ます。サクラさんは、今の状態で走った事が無いので、そう言うのでしょうね。


「試しに走ってみませんか?走れば分かりますよ」


「…分かったわよ。でも、疲れたらお友達呼んでよね」


 そして、私はサクラさんにバフを掛けます。


 これで、きっとサクラさんの基準は私と同じになると思います。七聖龍に乗って移動するのは、楽ですが怖いですからね。それに、怖いのでゆっくりと移動してもらう事になり、時間もかかりますからね。



 ♢♢♢



「…着いたわね」


「…はぁ、はぁ。…着きましたね」


 …おかしいです。どうして私は、こんなにも疲れているのでしょうか。


 …理由は明確ですね。


 私は、サクラさんのスピードに合わせて走りました。ですが、私が思っていたスピードよりも、大分速かったのです。サクラさんの歩幅は私よりも大きいですし、バフを掛けたサクラさんは私より速く走れます。


 つまり、バフを掛けたサクラさんの移動速度は、私の全力疾走に近いスピードでした。2時間かからないくらいだと思っていましたが、おそらく1時間かかっていません。


「メイちゃんの言った通り、長距離では無かったわね」


「…そうですね」


 …どうしてでしょう。出発する前は、長距離では無いと思っていましたが、今の私は長距離だったと少し感じています。…意見が逆転してしまいましたね。


「さっ、始めましょうか」


「…はい」


 サクラさんは元気ですが、私は戦えるほど元気ではありません。まぁ、戦うつもりは無いので大丈夫ですけどね。


 さて、それにしても多いです。ドラゴンは群れないはずなのですけどね。ポチと行った時もそうでしたが、ドラゴンが群れるほどに大量発生しているという事でしょうか。数が多くなっても、住み良い場所は限られていますからね。


「じゃあ、左半分よろしくね」


「…え?無理ですよ」


 左半分って、10匹以上居るではありませんか。そんなに多いと、都合良く一直線上に並んでくれる訳も無く、私では倒せません。


「え?どうして?」


「近付いたら怖いではありませんか」


 …サクラさんは怖く無いのですかね。前回戦った時も、勇敢にドラゴンを倒していましたし、恐怖というものを感じにくい体質なのかもしれません。私とは違いますね。


「……そう。…しっかりとサポートしてね」


「はい!任せてください!」


 何と頼もしいのでしょう。最近、何故が私も戦える認識になってきていますが、本来は違います。私は、いくらレベルが上がっても支援職なのです。これが、私の正しい立ち位置です。


 そして、サクラさんは近くのドラゴンに向かって行きます。私は、適宜デバフと回復魔法を掛け、サクラさんが絶対に負けないように支援します。まぁ、サクラさんは剣と魔法を上手く使い、負ける要素が見つかりませんけどね。



 ♢♢♢



「ふぅ、終わったわよぉ」


「お疲れ様です。かっこよかったですよ!」


 最後の一匹を魔法で仕留め、無事に勝利です。剣と水魔法の剣舞は、見ていて凄く綺麗ですし、今まで見た戦う人の中で、一番かっこいいと思いました。カーラの場合は、一方的かデバフによる泥試合ですからね。比べるまでもありません。


「そう?結構磨きがかかってるでしょ!レベルも上がったし…おわっ!…は?」


「どうされました?」


 会話の途中でサクラさんは急に叫び、ポカンとしています。思った以上にレベルが上がってしまったのですかね?戦いに集中していて、レベルアップを気にしていなかったのかもしれませんし、改めて見て絶句したのかもしれませんね。


「…メイちゃん、どうしよう」


「大丈夫です。レベルなんて飾りと思えば良いのです」


 私も、レベルが上がってしまう事を気にしなくなってきましたし、サクラさんも直ぐに慣れるでしょう。まぁ、私はランキングに記載されなくなったのが大きいですけどね。


「…違うのよ。…『賢者』って。『賢者』の称号を獲得したって…」


「…へ?」


 …賢者って、あの賢者ですか?勇者、聖女に続く、あの称号ですか?何故ですか?


「メイちゃん、どうして私は『賢者』の称号を得たの?」


「…分かりません。おそらく条件を満たしたのだと思いますが…」


 聖女になる条件は、100レベル以上で初めての回復魔法を勇者に使う事でした。ですが、賢者の条件とは絶対に異なります。聖女と同じ様な条件だったならば、100レベル以上で初めての魔法を勇者に使う事になってしまいます。


 それだと、勇者に魔法を当てる事になりますし、そもそもサクラさんは何度も魔法を使っています。カーラとは何日も会っていませんし、条件が全く分かりませんね。


「どうしよう…。私が賢者って…」


 …私が聖女の称号を得た時と同じ様ですね。自分がそんな称号を得るなんて、想像もしていませんでしたし、私は無かった事にしようとしましたよ。…カーラに直ぐにバレましたけどね。


 ですが、サクラさんが賢者ですか…。意外とピッタリではありませんか?


「サクラさんは魔法の扱いが上手ですし、おかしくは無いと思いますよ」


 私が、『聖女です』って知らない人に言ったら鼻で笑われそうですが、サクラさんは美人でかっこよくて似合っている気がしてきました。


「…そう?まぁ、風魔法と火魔法も使える様になったし、ラッキーと思おうかしら。後でカーラに詳しく聞かないといけないわね」


「そうですね。…明日、帰って来てしまいますもんね」


 嬉しい様な悲しい様な…。カーラに報告したい事は沢山ありますし、早く会いたい気持ちもあります。ですが、私の日常が再び壊れそうで、帰って来てほしくない気持ちも少しだけあります。


 …あぁ。一週間ごとに貴族の社交界あれば良いのですけどね。まぁ、そんな事は不可能なので、素直にカーラの帰還を喜びましょう。



 ♢♢♢



 そして、私達はギルドに戻り、ドラゴンを査定してもらいました。依頼の報酬と合わせて、2億3200万カーラという、訳の分からない代金になり、思わずサクラさんと苦笑いしてしまいました。半分に分けても1億以上…。帰りは闇魔法を使ったので、2時間ほどの冒険でこの額は異常ですね。


 それに加え、私は手持ちのドラゴンも買い取ってもらったので、その分も上乗せです。もう何に使って良いか分からなくなってきますね。カーラがお金が要らないという理由がほんの少しだけ分かった気がします。まぁ、私はどれだけ高額でも、取り敢えずは貰っておきますけどね。



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