17話 空の旅
「メイちゃん、そろそろ離れない?」
空の上、緑聖龍の背中の上…。そんな場所で、サクラさんは悪魔の様な事を言います。
「サクラさんは私を殺す気ですか?」
ここは遥か上空。落ちたら死…にはしないと思いますが、心が壊れてしまうかもしれません。
「もぉ。こちょこちょこちょこちょ!」
「あはっ、はふふっ、ふはっ!!! …はぁ、はぁ、はぁ。急に何するのですか!」
サクラさんは急に私の横腹をくすぐりだし、私は為す術もなく笑ってしまいます。サクラさんは、本気で私を殺そうとしているのかもしれません。
「ほら、大丈夫じゃない」
「…あ。って、そういう問題ではありませんよ!酷いです!」
いつの間にか、私はサクラさんを放し、1人で立っています。確かに、一度立ってみれば、もう大丈夫な気がしてきました。ですが、これは少し許せません。
「メイちゃんが離れようとしないからよ」
「仕返しです!こちょこちょこちょこちょ………。どうして効かないのですか!」
私も同じ様にサクラさんをくすぐりましたが、サクラさんは一切笑う事無く、我慢している様子もありません。
「…防具があるもの。普通は効かないわよ」
「くっ。盲点でした」
そうですよね。防具の上からくすぐった所で、効果はありませんよね。
「そういえば、どうしてメイちゃんは防具を着けていないのかしら?」
「…必要性を感じなくなったので着けなくなりました」
私も最初は着けていましたが、私は自分で戦うつもりがありませんし、戦うくらいなら逃げるので、寧ろ軽い方が良いです。それに、女性用で小さめのサイズの防具って、なかなか売っていないのですよね。
カーラとパーティーを組んでからは、別の意味でも必要性を感じなくなりましたし…。
「サクラさんも、魔法で戦うなら必要ないと思いますよ」
「いや、一応着けておくわよ。剣で戦う事もあるもの」
私がプレゼントした魔剣を使ってもらえるのは嬉しいですが、あんなに魔法が使えるなら必要ないと思いますけどね。そっちの方が安全ですし。
「さっ、そろそろお昼ご飯でも食べましょう。空の上で食べれるなんて、最高じゃない!」
「…マジですか」
確かに昼食時ですが、こんな場所でよく食欲が湧きますね。私には無理ですよ。お腹なんて……空いてきましたね。
そして私達は、持っている食料を食べます。カーラが居ないので、そこまで美味しいものではありませんけどね。カーラが居たら、龍の背中の上でも調理しそうですね。
♢♢♢
それから4時間ほど空を飛び、私達は目的地までやって来たようです。正直、走る方が絶対に速かったですけど、慣れれば案外悪くなかったので、この選択は間違っていませんでしたね。
「ギュアァァァァ!!」
そして、緑聖龍は地面に降り、目の前には1匹の竜が居ます。どうやら、知り合いみたいですね。
「ギュアァァァァ!!」
「ビリャアアアァ!!」
はい。何を言っているか分かりませんが、会話の様なものが始まってしまいました。少し…いえ、大分うるさいですね。こんなに近くに居るのですから、もう少し小さな声で会話出来ないのでしょうかね?
「ギュアァァァァ!!」
すると、緑聖龍が私を見て、何かを伝えたい様に感じます。ですが、全く分かりませんね。
「…メイちゃん、呼ばれてるんじゃない?」
「…まさか」
サクラさんに言われ、私も少しそう感じましたが、そうであってほしくない気持ちがあります。サクラさんは自分の事では無いので、簡単に口に出来たのかもしれませんが、もし本当にそう言っているのならば、私が行かなくてはいけない事になりますからね。
「ギュアァァァァ!!!」
「ほら、絶対に呼んでるわよ。あの竜も抵抗しないみたいよ?」
「…うぅぅ」
確かに、戦わずして終われるなら、これ以上に良い事はありません。ですが、確信が無いのです。会ったばかりの元気な竜に近付かなければならないというのは、恐怖でしかありません。もし、緑聖龍が別の事を言おうとしていたのならば、私は攻撃されるかもしれません。…念のため、直ぐにデバフを掛けられる準備をしておきましょう。
「ビリャアアアァ!!」
「…うぅぅ」
…そんなに大きな声を上げないでくださいよ。怖いではありませんか。…魔力譲渡して大丈夫なのですか?してしまいますよ?文句言わないでくださいね?
ぽわわわわわわ
個体名『雷聖龍』が誕生しました
ぱああああああ
個体名『雷聖龍』をテイムしました
あぁ、良かったです。成功しました。新しいお友達です。氷龍、海聖龍、炎聖龍、緑聖龍、そして雷聖龍。7匹中、5匹もお友達になってしまいました。
そういえば、氷龍だけ魔力譲渡していません。仲間外れみたいで、少し可哀そうですね。ですが、あの場所は寒いので行きたくありません。もし私に会いに来るならば、氷聖龍に進化させてあげますよ。まぁ、そんな事起きないと思いますけどね。
「ビリャアアアァ!!!!」
うぅ。雷聖龍は声が大きいです。もう少し静かにしてくださいよ。
「メイちゃん、お疲れ様。頑張ったわね」
「…頑張りました」
本当に、頑張りました。もう二度とやりたくありません。カーラ、今後は絶対に七聖龍を殺さないでくださいよ。切に願います。
「じゃあ、帰りはこっちの子に乗せてもらう?」
「もちろん、絶対に嫌です!」
そして私達は、闇魔法でギルドに帰ります。結果的に、空の上は気持ち良かったですが、1日に2回も乗りたいとは思いません。もう少し安全が確保出来るなら、再度乗ることも検討するかもしれませんね。




