10話 お皿洗い
ズシィィィィン、ドシイィィン…
「皆さん、村を襲ったドラゴンです。ポチとサクラさんが、やっつけてくれましたよ!」
「「「「おおおぉぉぉ!!ポチ様ぁぁ!!!!!」」」」
私達はドラゴンを倒した後、村に戻って人を集めました。集めるとは言っても、畑で仕事をしている人を引き連れながら、空き地に向かうだけで、何事かと皆が集まってきます。田舎なので、遮蔽物がほどんど無く、見晴らしが良いですからね。
そして私はドラゴンをどんどん出していき、歓声が高まります。
まぁ、サクラさんが倒したと私が言っても、村の皆さんはポチ一択ですけどね。殆どポチがやってくれたと判断するに違いありません。それくらい、ポチは崇められているみたいですからね。
…ですが、傷跡を見れば、ポチがやったのは2匹だけだとバレてしまいそうです。ドラゴンには剣の傷がありますからね。私はゴンザリオンをアイテム袋に入れているので、崇められる可能性があるのはサクラさんだけですけどね。まぁ、そうならない内に撤退しますけど。
そう思い、ポチとサクラさんを連れて去ろうとすると、声をかけられてしまいました。
「メイ嬢ちゃん、このドラゴンを村で買い取らせてもらえないか?」
そう言ってきたのは、お歳を召したおじいさん、この村の村長さんです。ですが、名前は分かりません。皆から村長と呼ばれていますからね。
「良いですけど、ドラゴンは凄く高いですよ?」
「分かっておる。これでも村長だ。それなりに持っておるからな」
うーん。村長さんはそう言いますけど、本当に持っているのでしょうか?ギルドに買い取ってもらえば、1億カーラくらいになると思うのですけどね。いくらなんでも、そんな大金を村長さんに払って頂くのは気が引きます。そもそも、このまま村に置いていくつもりでしたし。
「では、今後もポチのご飯のお世話をして頂く事が条件で、1匹1万カーラでどうでしょうか?」
「…は?…ふっ、はっはっは。良いのか?そんな条件出さずとも、この村の皆はポチ様にご飯を持って行くぞ?」
もちろん、私もその事は分かった上での条件ですからね。私はお金が好きですが、村から取ろうとは思いませんからね。
「はい。今後もポチの事をよろしくお願いしますね」
「もちろんだ。ありがとう」
村長さんは笑顔でそう言い、軽く頭を下げます。深い礼では無く、少しだけなのは、同じ村人としての感謝の現れでしょうね。私は堅苦しいのは望みませんし、これでも十分すぎるくらいです。
そして私は、村長さんから8万カーラを受け取り、半分をサクラさんに渡します。本来なら物凄い大金が手に入るはずで、サクラさんには悪いと思いますが、サクラさんは一切の文句を言わずに受け取ります。それどころか、微笑みながら私の頭を撫でてきて、何だか少し恥ずかしいです。
♢♢♢
「ところでサクラさん、どれくらいになりましたか?」
それから家に戻り、昼食を待っている間にサクラさんに聞いてみます。急にドラゴン3匹ですからね。それも、バフを掛けていたとはいえ1人で。爆上がりなのは間違いありません。
「96レベルよ」
あぁ、少し惜しいですね。私は相手がカーラだったとはいえ、組んだ初日に100レベルを余裕で越えましたからね。
サクラさんには凄く申し訳ないとは思いますが、上がってしまったのはどうしようもありません。サクラさんはどう思っているのでしょうかね。
「すみません。成り行きとはいえ、こんな結果になってしまって…」
「え?どうして謝るのよ。嬉しいわよ、私。メイちゃんとパーティーを組んだんだもの。こうなる事は了承済みよ」
…え?そういうものなのですか?私がおかしいのですか?
「ですが、このままいくと、ランキング上位になってしまうかもしれないのですよ?」
「良いじゃない!初めから私の目標は、ギルマス越えよ!」
「…え。マジですか…」
ギルマス越えという事は、ランキング10位以内…。SSランク冒険者の世界ですよ。そんな世界に自ら行こうとするなんて、サクラさんは目立つのが嫌では無いのですね。
「ふふっ、マジよ。だから、メイちゃんはどんどん私を戦わせて良いからね。もちろん、常識の範囲内で」
「分かりました。強くなりましょう!」
サクラさんが強くなれば、私が戦う必要性は少なくなっていくはずです。戦わなくて良いに越した事は無いので、どんどん強くなって頂きましょう。それと、カーラの相手もやってもらいましょう。本気でレベル上げするならば、カーラを倒すのが一番効率が良いですからね。
そして、暫くしてお昼ご飯が出来上がり、私達は頂きます。前回渡した魔物のお肉が消費しきれていない様で、お肉料理がメインです。どれも美味しくて幸せですね。
♢♢♢
「洗い物は私も手伝います」
「あら、ありがとう」
ご飯を食べ終え、お母さんが席を立つと、サクラさんがそれに続くように付いていきます。お手伝いをしようとするなんて、サクラさんは偉いですね。私はのんびりしておきましょう。
「ほら、メイちゃんも来なさい」
「…え?私もですか?」
ですが、のんびりしようと思った矢先、何故か私も呼ばれます。どうしてでしょうかね。
「私が手伝っても、役に立ちませんよ?お母さんがやれば、直ぐに終わるではないですか」
「もう。そういう問題じゃ無いのよ。サクラちゃんが手伝うって言ってくれたんだから、メイちゃんも手伝いなさい」
「う…。はい」
はぁ。本当に役に立たないのですけどね。私が1枚洗ってる間に、お母さんなら全て終わらせるではありませんか。
そして、私はしぶしぶ立ち上がり、台所に向かいます。
「洗って、乾かして、はい終了」
「…え」
ほら、もう終わってるではありませんか。私は来ただけですし、サクラさんはお皿を流しに置いただけです。後は、お母さんが水魔法で洗って、風魔法と火魔法を組み合わせて乾かしていきます。私達の出番などありません。
「…凄い。私も水魔法が使えるけど、こんな事出来ません」
「あら、慣れれば簡単よ。ちょちょいのちょいって」
そう言って、お母さんは水魔法で水球をいくつも作り、お手玉の様に空中でグルグルさせます。本当に器用なんですよね。その上、風魔法、火魔法、光魔法も使いこなしますからね。レベルが低いので、威力はありませんけど。
「あの、私に教えてください!」
「良いわよぉ。特訓しちゃうわよ」
…あらら。サクラさんにスイッチが入ってしまいました。まぁ、あんな芸当を見せられたら、自分のスキルが宝の持ち腐れだったと思うかもしれませんからね。それに、サクラさんはレベルが上がって魔力量が増えているはずです。もっと凄い使い方が出来る様になるかもしれませんね。
ふぅ、サクラさんの修行編の始まりですね。私は何も出来ないので、午後もポチと遊びましょう。




