7話 お引越し
「可愛いお部屋ですね!」
「でしょ」
私達は今、サクラさんの住んで居る部屋に来ています。場所はギルドのすぐ近くで、受付嬢専用の寮らしいです。退職するので、1週間以内に退去しなくてはならないとの事でしたが、私がカーラの家に誘ったので、今からお引越しです。
サクラさんの部屋は、女性らしいお部屋で、可愛い家具や置物がいろいろあります。少し狭いですけどね。宿の一室と同じレベルです。ですが、安くて近いので住み続けたらしいです。
「はぁ、7年もここに住んでたのよね。少し寂しいわね」
「…7年」
私も、冒険者になって宿で2年ほど暮らしていましたが、それとは比べ物になりませんね。この部屋で暮らしながら、朝早くから夜遅くまで仕事をし、その仕事ではカーラに虐められる…。私には絶対に耐えられませんね。3日で辞めて、実家に帰ると思います。サクラさんは本当に凄いです。
「じゃあ、メイちゃん。バフ掛けて」
「…え?今ですか?」
…急にどうしたのでしょうか?退寮するのに試練でもあるのですかね?
理由は分かりませんが、私はサクラさんにバフを掛けます。
「ありがとう。助かるわ」
サクラさんはそう言って、アイテム袋に家具をしまっていきます。私が手伝う暇なく、どんどん部屋が広くなっていきます。
…まさか、私のバフをこんな風に利用するとは思いませんでした。確かに便利ですよね。重い物も1人で持てますし。
「ふうっ。バフにアイテム袋…。最強ね。業者要らずだわ」
「…速かったですね」
なんと、サクラさんは2分ほどで部屋の荷物をアイテム袋に入れ終わりました。部屋が狭く、物が少なかったのもありますが、凄く手際が良いと思います。手を止めずに、一気にやってしまうとは…。私だったら、絶対に2分では終わりませんね。
「じゃあ、行きましょうか。でも、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。皆さん優しいので」
カーラが急に連れてきた私を、すんなりと受け入れてくれる家ですからね。それに、魔族のキャルシィだって受け入れてくれる家です。大丈夫に決まっています。きっと!
そして私達は向かいます。いざ、カーラの家に。私達の家に。
♢♢♢
「おかえりなさいませ、メイお嬢様、キャルシィお嬢様。そちらのお嬢様は?」
「サクラお嬢様です!カーラとは長い付き合いで、新しくパーティーを組んだ仲間です」
何度呼ばれても嬉しい響き、お嬢様。キャルシィの事も家族として迎えてくれているので、この執事さんなら大丈夫です。
「おぉ、こちらのお嬢様が、お噂のサクラお嬢様でしたか!カーラお嬢様からは、一番のご友人だと伺っております。カーラお嬢様と仲良くして頂き、誠にありがとうございます。私、ユリアール家の執事をさせて頂いております、ルナールと申します。ユリアール家一同、サクラお嬢様を歓迎させて頂きます。どうぞよろしくお願い致します」
「…はい。よ、よろしくお願い致します」
急に感極まった様に、嬉しそうに話し出す執事さん。というか、ルナールさんと言うのですね。知りませんでしたよ。私には自己紹介してくれませんでしたよね?
そして、一番の友人だと認定されていたサクラさん。戸惑いが隠せない様です。無理もありませんね。きっと、自分が知らないうちに、貴族のユリアール家に知れ渡っているのですからね。
カーラの友人は少なそうですが、ソフィー様や他の冒険者を差し置いて、一番の友人。凄いです、サクラさん。
「余裕で大丈夫でしたね、サクラお嬢様」
「…そうね、メイお嬢様」
大丈夫だと言った私ですが、こうも上手くいくとは思いませんでした。予想外すぎますよね。家族にサクラさんの事を話すカーラ…。容易に想像できてしまいますね。
そして、私達はカーラの部屋に向かいます。
「ここがカーラの部屋です。サクラさんも自由に使ってくださいね」
「…広いわね。寮の4倍くらいかしら。…ん?カーラと同じ部屋?メイちゃん達も?」
「はい、一緒です」
やはり、疑問に思いますよね。こんなに大きな家なのに、3人で同じ部屋だなんて。私がここに住むようになった時、そして、キャルシィが住むようになった時も私は言ったのですが、カーラは別の部屋を用意してくれません。ですが、今回は言うべきですよね。
「…カーラが帰ってきたら、相談しましょうね。それまでは一緒で良いですか?」
「えぇ、もちろん。ベッドもかなり大きいものね」
余裕で3人一緒に寝れるベッドですからね。キャルシィは小さいですし、私もすこしばかり小さい方なので、場所を取りませんからね。ですが、サクラさんはカーラと同じくらいなので、カーラも加わると狭く感じそうです。それに、またいつキャルシィが抱き枕にされるか分かりません。それを阻止する意味でも部屋を分けるべきですからね。
「では、一先ずお風呂に行きましょうか」
「お風呂!絶対に広いわよね!」
ふふっ。やはり、お風呂に飛びつきますよね。貴族の家のお風呂って凄そうですからね。事実、その通りですし。サクラさんの期待を裏切らない事、間違いありません。
♢♢♢
「凄いわ!凄いわよ、メイちゃん!」
「…凄いですね」
サクラさんは、大きなお風呂に感動しています。そして私は、サクラさんの体に驚いています。
カーラもスタイルは良いですが、それに負けないくらいにサクラさんも素晴らしいです。そして、羨ましいです。どうして、この世の中は、こんなにも理不尽なのでしょうかね。
何より、お胸の大きさが許せません。以前から、カーラより少し大きいかとは思っていましたが、本当に少し大きかったです。カーラも私よりは大きいですが、そこまで大きい方では無いと思います。つまり、何が言いたいかと言うと、サクラさんは理想的な大きさで、スタイルが良くて羨ましいです。
どうして、私の成長は止まってしまったのでしょうかね。奇跡が起きれば、私もサクラさんみたいになれますかね?サクラさんは私より5つ年上なので、私もあと5年でああなりたいです。無理だと思いますか?残念ながら、私は無理だと思っています。世の中には、遺伝という逆らえないものがありますからね。
「メイちゃん、どうしたの?入る前からのぼせちゃった?」
「…大丈夫です」
何だか、心配されると申し訳ないですね。それに、外面では無く、内面が大人になれば良いのです。変えられない所を悩むのは時間の無駄ですからね。美味しいご飯を想像して忘れましょう。今日は何でしょうかね。
♢♢♢
「凄い豪勢ね。どれも美味しそうだわ!」
「…ですね」
…どういう事でしょうか。心なしか、いつもより豪華です。カーラやカーラのお父さんが居ないので、質素になるなら分かりますが、何故か豪華です。私的には嬉しいですけどね。
「改めまして。サクラお嬢様、ようこそユリアール家へ。僭越ながら、私が乾杯の音頭をとらせて頂きます」
…執事さん、私の時はそんな事しませんでしたよね?きっと、カーラが居ないからですよね?そうですよね?
ただ言える事は、サクラさんは物凄く歓迎されています。…カーラは、どれだけサクラさんの話を皆さんにしていたのでしょうね。この感じだと、1回や2回で無い事は確かです。
まぁ、ご飯が美味しいので良い事ですけどね。




