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デバフ勇者と堕天使  作者: 畑田 紅
1章
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5話 メイ、勇者様の心を弄ぶ

 

「ふふっ、ここでボーっとしてたらメイがクビにされてたんだよ」


 ロビーで魔物の代金の計算が終わるのを待っていると、勇者様が私を見つめながら、そう言いました。私にとっては悲しい出来事でしたが、勇者様は微笑みながら言ってきます。


「随分と嬉しそうにお話されるのですね」


「そりゃあそうだよ。ここで聞いていなかったら、メイとパーティーを組め(結婚でき)なかったからね」


 はぁ、またです。もう訂正しても無駄なのでしょうね。どうして出会ったばかりの私たちが結婚している事になるのでしょうか。


 パーティーをクビにされた私を仲間として大切にしていただけるのは嬉しいですが、ここまで言われるのは理解ができません。そんなにも私のスキルが魅力的なのでしょうか。強すぎるという事が辛いと感じるなんて、私には一生縁のない感情でしょうね。



♢♢♢



「勇者様、メイ様。こちらにお越しください」


 そうこうしているうちに、魔物の代金が用意できたようで、サクラさんに呼ばれました。


「ドラゴン1匹とオーガ37匹で、合計1320万9000カーラになります。ご確認ください」


 …多いだろうとは思っていましたが、想像以上です。オーガの単価はそこまで高くないはずなので、ほとんどがドラゴンの代金でしょうね。勇者様はこんな大金を簡単に稼げるなんて、羨ましいです。


 ……ん? …とういか、私は勇者様とパーティーを組んでいただいたので、少しもらえたりするのでしょうか?…私に貰う資格があるのかは謎ですが。


「全部メイが貰っていいよ」


「…え?…私はほとんど何もしていませんよ」


 ほとんどというか、全くしていませんが。


 勇者様の気持ちは凄く嬉しいですが、さすがに全額もらうのは気が引けます。とんでもない大金ですし。


「遠慮しなくていいんだよ。そもそも、メイが居なければ狩る事もなかっただろうからね」


「…では少しだけ頂きます」


 勇者様はお心が広い様なので、魔物と戦っていない私にも分け前をくださるのですね。…うーん。お金は欲しいですが、あまり欲張るのは良くないですよね。……何だか、私の欲望を試されている気分です。これは、今後の関係を良好に保つ為の試練ですね。


 そして私は迷いつつ、端数の9000カーラを手に取りました。一日分の収入としては、9000カーラも貰えれば十分ですからね。……本当はもっと欲しいですが。


「ふふっ、遠慮しなくていいんだよ」


 うぅ…勇者様に心を見透かされている気分です。勇者様はそう言うと、代金を全て袋に入れて微笑みながら私に差し出しました。


「ボクはお金に困ってないんだよ。腐るほど持ってるからね」


「…勇者様、そのお言葉を他の冒険者の前で言わないでくださいね。最悪、殴りかかって来られるかもしれませんよ」


 勇者様に悪気が無いのは分かります。間違いなく事実でしょうからね。こんな事言われたら、受け取るしかないじゃないですか。はい、ありがたく受け取りますよ。正直凄く嬉しいです。


「…メイ、それ本当?」


「え?」


 …何がでしょうか?喜んでいるのが、うっかり口に出てしまったのでしょうか?


「ボクはお金に困ってない!腐るほど持ってる!」


 はい、訳が分かりません。ギルド全体に勇者様の声が響いていますよ。


 …はぁ、勇者様は何がしたいのでしょうかね。いつもは騒がしいギルドから音が消えてしまいましたよ。


「…メイ。…誰も殴りかかって来ないよ」


「え…?」


「メイが言ったんじゃないか!こう言えば殴りかかって来るって!ボクに嘘を付いたの⁉︎」


 もう私には勇者様の考えていることが分かりません。どうすれば良いのでしょうか。勇者様には冗談が通じないみたいです。


「ボクは、一度で良いから冒険者同士で乱闘とかしてみたかったんだよ。…それなのに。メイはボクの心を弄んだんだね⁈」


 はぁ。勇者様が悲しそうにされています。はい、私が悪かったですよ。ですが、何故だか謝りたくありません。そもそも、こんなにお美しい女性を殴れる人が居る訳ないじゃないですか。もしそんな人が居るとしたら、人間ではありません。それに、殴りかかって反撃されれば十中八九死ぬか大怪我をしてしまいますよ。


「…メイ。メイが代わりにボクを殴ってよ。さあ!」


 …どうしましょうか。どんどん嫌な状況になっていきます。これはもう、やるしかないのでしょうか。


 …さっき私は思いました。勇者様を殴るような人は人間では無いと。…ビンタならセーフですよね?何かしないと勇者様が逃してくれなさそうですし。


「本気でね!」


 本気…ですか。私の本気なんて、勇者様からしたらスライムがぶつかってきたくらいのダメージしかなさそうですね。……はぁ、やりますか。


『防御力低下』


 バチンッッッツ!!!


 ドガシャーンンンンンンン!!!!!


 …あれ?おかしいですね。


 何故か勇者様は1メートルほど先で倒れています。大げさにリアクションしただけですよね?勇者様ですもんね?


「…はっ!びっ、びっくりしたぁ。一瞬気絶してしまったよ。やるじゃん、メイ!次はボクの番だね!」


「ちょ…待っ…!!」


 それはさすがに死んでしまいますよ!!!

 …ロンピロンピロンピロンピロンピロン…

『攻撃力低下』!

 ピロンピロンピロンピロン…

『攻撃力低下』!!!

 ピロンピロンピロン…

『攻撃力低下』!!!!!


 ボキッツ!!


 ああ、短い人生でしたね。16年…。冒険者の中にはこれより早く死ぬ人もたくさんいます。十分生きれたと思いましょう。


 ………あれ?何故か、あまり痛みを感じませんね。


「ぎいやあああああああぁぁぁぁぁ!!!」


 目を開けると、勇者様が右手を抑えて転げまわっています。何をされているのでしょうか。


 …まあ、今はそんな事どうでもいいですね。


 ピロンピロンピロン…


 何故、私のレベルが上がり続けているのでしょうか。




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