4話 『変異種』メイ
「えっ⁈勇者カーラ様がおぶられている⁈」
「一体何があったんだ。勇者カーラ様を動けなくするほどに追い詰める相手が居たというのか⁈」
私がギルドに入ると、中に居たほとんどの人が私を見ました。いえ、違いました。私がおぶっている勇者様を見ていますね。皆が驚き、騒然としています。
どうして私は、勇者様をおぶったままギルドに入ってしまったのでしょうか。後悔しかありません。
「勇者様、一体何があったのですか⁈」
私が入り口で後悔して逃げ出そうとしていると、受付嬢さんの1人が駆けつけてきました。おそらく、勇者様の担当受付嬢さんだと思われます。
「ゴブリンの群れだよ。楽しかったなぁ」
「…奥へお願いします」
受付嬢さんは慌てていましたが、平常運転だと思われる勇者様の発言に冷静さを取り戻したのか、そう言ってギルドの奥へと歩き出しました。
…これは、私も一緒に行く流れですよね?まだ勇者様をおぶったままですし。…はぁ、私はいつ勇者様を降ろせば良いのでしょうか。タイミングが分かりません。
まぁ、勇者様を1人で行かせて他の方に質問攻めされるのも嫌ですし、何も言わずについて行く事が正解でしょうね。
♢♢♢
「勇者様、こちらへお願いします。入りますか?」
「余裕で入るよー」
受付嬢さんについて行くと、巨大な倉庫に到着しました。もっと小さな倉庫には入ったことがありますが、この倉庫は初めてです。ドラゴンレベルの大物を狩らないと使う機会がなさそうですからね。
……ん?奥に、とんでもなく巨大なドラゴンだと思われる頭部があります。……見なかったことに致しましょう。
そして、勇者様は私から降り、アイテム袋からドラゴンとオーガを出していきました。
「…あれ?これはただのドラゴンとオーガですよね?」
…おかしいですね。この受付嬢さんは『ただのドラゴン』と言いましたよ?ドラゴンにただのも何もありません。ドラゴンというだけでドラゴンなのです。この受付嬢さんは勇者様にかなり毒されていますね。
「うん!超手強かったよ!」
「…変異種、という事ですね。すぐに調べます」
…う。勇者様が嬉しそうに言うので、受付嬢さんが邪推したではありませんか。
「変異種じゃないよ。…いや、強いて言うなら…メイが変異種かな。もちろんいい意味で!」
「んな⁉︎」
勇者様が変な事をおっしゃるから、受付嬢さんが私をまじまじと見つめてきます。確かに、私には魔族の血がほんの少しだけ流れていますけど、変異種だなんて酷過ぎます。そもそも、その事を勇者様は知らないはずです。それに、いい意味でと言われましても、変異種という時点で悲しくなります。
「メイは可愛くて凄いんだよ。ボクの大切な仲間だよ」
「ちょ、勇者様! 誤解を生むような発言は止めてください。勇者様とパーティーを組んでいただいているだけですからね」
まったく、勇者様のこの発言はどうにかならないのでしょうか。このままだと、知らないうちに子供が出来てしまいそうです。
「…勇者様の担当受付嬢のサクラと申します。メイ様、勇者様が疲弊されている現状を説明して頂けますか?」
受付嬢のサクラさんは勇者様の担当のはずなのに私に聞いてくるなんて、勇者様は信用されていないのですかね?
「ボクが説明するよ」
「お願いします、メイ様」
…勇者様、本当に信用されていないのですね。完全に無視されていますよ。ですが、何故か可哀そうだとは思えません。何故でしょうか。
…はぁ、仕方がありませんね。私が説明するしかないみたいです。ですが、全て正直に説明するのは少し嫌ですね。私のレベルが上がったせいでオーガが勇者様の相手になった訳ですし、私がスキルが異常だと思われかねません。
…んー、どうしましょう。少し誤魔化しつつ説明するしかありませんかね。
「…えっと、私は『攻撃力低下』などの能力を低下させるスキルを所持しています。そのスキルを使用することで、勇者様を少し弱くする事が可能です。つまり、この魔物は変異種でもなんでもなく、勇者様が弱くなった事で疲れさせる事ができただけです」
…どうでしょうか。嘘は言っていないので大丈夫ですかね?勇者様は疲弊しているとはいえ、怪我はされていませんし。
「……それほどまでに、メイ様のスキルは強力という事なのですね」
………おかしいですね。全く誤魔化せていない気がします。
「…という事は、勇者様の長年の悩みは、メイ様のおかげで解決されたかもしれませんね」
「そうなんだよ!もうメイのおかげで幸せなんだよ!」
…んー。サクラさんの言う勇者様の長年の悩みとは、強すぎて敵がいないという事ですかね?自らにデバフを掛けさせるなんて奇行を要求する様なお方ですし。
「では、もう七聖龍を討伐しないって事ですよね?」
…う。…少し聞きたくなかった情報が出てきました。勇者様は何をやらかしているのでしょうか。なんて罰当たりで迷惑な事をやっているのですかね。本当に勇者なのでしょうか?…あそこに見える巨大な頭部が七聖龍だったりするのですかね?
「いやー。それはどうかな。七聖龍と命がけの戦いってのもやってみたいし」
「オーガやドラゴンで十分満足できたんですよね?始末書を書くのは私なんですからね!」
あぁ、サクラさんの怒りが伝わってきます。勇者様がやらかした事の後始末をやらされるなんて可哀そうな人ですね。とはいえ、七聖龍を討伐して始末書で済んでいるのは、勇者様だからなのでしょう。その程度で許されるなんて思えませんし。そもそも七聖龍を倒せるのは勇者様くらいでしょうけど。
「まあ、メイが居れば当分はその辺の魔物で満足できるかもしれないかな」
「…メイ様、勇者様をくれぐれもよろしくお願いしますね」
…うぅ。サクラさんの必死さが伝わってきます。勇者様を1人で行動させると、直ぐに何かをやらかすのですね。責任重大ではありかせんか。…ですが、私は勇者様の仲間になったので、私が注意するしかありませんね。
「分かりました。勇者様の事はお任せください。できるだけ頑張ります」
どうして私が勇者様の面倒をみるかの様な会話になっているのでしょうね。私は普通の女の子で勇者様より年下ですよ?
「では、魔物の代金の計算を致しますね。ロビーでお待ちください!」
「うん。よろしく」
なんだか、勇者様だけでなく、サクラさんまで機嫌が良く見えますね。勇者様の面倒を押し付けられた気がするのは、気のせいですよね?
…はぁ。勇者様は思っていた以上に問題児みたいなので、これから大変になるかもしれません。サクラさんと約束してしまった以上、簡単には逃げられませんからね。まあ、もともと私はパーティーを追い出された身です。できるだけの事はやっていきたいと思います。