37話 お土産
「メイ、どうして嘘を付いたの?」
「そうですよ!魔王様は生きているじゃないですか!」
ジルクおじさん達と別れて私の実家に向かっていると、カーラとキャルシィは、魔王はもう居ないと私が言った事について言及してきました。
「嘘ではありませんよ。私の魔王の称号は、聖女の称号と統合されて全く別の称号になってしまったのです」
「…え?じゃあ、メイは今、何の称号を持ってるの?」
「…えっと。…秘密です」
まぁ、どうせ新しいランキングが出ればバレるのですけどね。とはいえ、自分から『私は天使です!』と名乗るのは、少し恥ずかしいのですよ。それに、天使って称号の響きは凄く良いですが、『大』とか『〈堕〉』とか、余計なものが付いていますからね。
「あ、見えてきましたよ。私の家です!」
「…ごまかしたね、メイ」
1年半前と変わらず、同じ場所にある古い民家。そう、私の実家です。たった1年半しか経過していませんが、物凄く懐かしい気持ちになりますね。
「あ、カーラは私が良いというまで、口を開かないで下さいね」
「えぇえ⁈ ボク、メイのご両親と会話しちゃいけないの⁉︎」
ふぅ。言い忘れるところでした。カーラは絶対に変な事を言いますからね。とはいえ、私のお願いをカーラが聞いてくれますかね?……無理でしょうね。うーん、どうしましょうか。…あ!
「カーラは勇者なのですから、急にいろいろ言ったら混乱させてしまいます。なので、私がカーラの仲間になった事をきちんと説明するまでは私に任せてください」
ナイスです、私。きちんとした説明さえ終われば、カーラが多少変なことを言ってもダメージを抑える事ができますからね。しっかりと黙っておいてもらいましょう。
「そ、そうだよね!大切な事だもんね!」
「え?……はい」
…どうしたのでしょうか。カーラが予想以上に素直です。カーラも少しは成長しているという事ですかね?
ま、不安事項が解消されたのは嬉しい限りです。行きましょう!
そして私は、実家が見えた事で両親に会いたい気持ちが強くなっていき、自然と早足になりました。
♢♢♢
「ただいま!」
「あら!メイちゃんじゃない!おかえりなさい」
引き戸を開けると、お母さんが私に気付き、お菓子を食べている手を止めて驚いた表情をしています。いつも台所で1人、お菓子を食べているお母さん。それだけで懐かしく、嬉しい気持ちになってきますね。
「お母さん、紹介しますね。一緒にパーティーを組んでいる冒険者のカーラと、私の妹になったキャルシィです!」
「あら!随分と美人さんね。メイちゃんのお仲間さんと妹さんなら、私の娘ね。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします!」
カーラは珍しく私の約束を守ってくれ、黙ったまま頷いています。カーラが私との約束を守ってくれるなんて不思議な気持ちです。どうか、このまま暫く黙っていてくださいね。…まぁ、無理でしょうけど。カーラですからね。あまり期待はしないようにしておきましょう。ちょっとでも守ってくれただけで私は嬉しいですよ。
そうなると、カーラが大人しいうちにお父さんにも合わせておきたいですね。今の時間帯だと仕事中でしょうか?
「お父さんは畑ですか?2人にお土産を買ってきたのですよ」
「…あ、居間に居るわ。…お父さん、ちょっと怪我しちゃったのよ」
「…え?」
そう言ったお母さんの表情は曇り、悲しそうな表情をしています。まるで、どうしようもない状態であるかの様に。
じょ、冗談はやめてくださいよ!お父さんが怪我なんかで死、死んだりしません…!
そして私は、嫌な想像を振り払いながら、急いで居間に向かいました。
「お父さん!」
「おお!メイ、おかえり!」
……あ。
お父さんは私の姿を見ると元気にそう言いました。ですが、私はお父さんの姿を見て、ゾッとしました。左腕は肘から下が無く、左足にも大きく抉れた跡が残っています。とても痛々しく、私は息を飲みこみました。
「いやー、ちょっとドラゴンにやられちまってな。ははっ!」
「ちょっとじゃありません!強がらないでください!」
どう見たって重症にも関わらず、私に心配させない為か、お父さんは軽く笑いながらそう言います。ですが、良かったです。生きていてくれて、本当に良かったです。生きてさえいてくれれば、私なら治せますから!
『回復』
「おぉおお⁈ …メイ?」
「まったく。心配させないでくださいよ」
はぁ、本当に良かったです。私の回復魔法でお父さんの腕と足は綺麗な状態に戻り、上手く動いています。私は今、聖女に成れた事が良かったと、改めて思いました。ポチの怪我も治せましたし、お父さんも元通りですからね。ただの回復魔法で欠損した個所は治りませんし、神聖魔法だから治せたのですから。
「…え?メ、メイがやったのか⁈ あ、ありがとう。メイ。ありがとう」
「ふふっ、感謝してください! って、何泣いているのですか!」
お父さんは涙を流し、何度も私にお礼を言ってきます。ただ怪我が治っただけの感謝ではなく、それ以上の感謝だと、私には伝わってきました。明るく振る舞ってはいましたが、あんな状態であった事が辛かったのだと思います。お父さんは、いつだって私やお母さんの為に行動してくれる人でしたからね。
それに、私が冒険者になる事を一番心配していたのもお父さんですし。立派になれたかどうかは分かりませんが、無事に帰ってきた事を喜んでくれているのが分かります。
♢♢♢
「では、私とカーラからのお土産です。きっと驚きますよ!」
お父さんが落ち着いたところで話を切り替え、早速私はお土産を渡す事にしました。
「あら、そんなに気を使わなくて良いのに。冒険者って大変なんでしょう?…でも、ありがとうねメイちゃん、カーラちゃん」
「お、何が入ってんだ? …お⁈ まさか、アイテム袋⁈」
「袋ごとプレゼントです。中にもいろいろ入っていますよ!」
ふふっ。やはりアイテム袋で、先ず驚きますよね。こんな田舎の村では、目にする事なんて殆どありませんし。ですが、それだけで驚いてもらっては困ります!
「あら、可愛らしい花瓶ね。大切にするわ」
「お!酒じゃないか。こんなに沢山!…それと、んん、うおっと!……つっ、骨?」
「それはポチにです」
「キャウン!」
お父さんなら、お酒で喜んでくれると思っていましたよ。花瓶も好評みたいで良かったです。それに、何よりポチが嬉しそうにしています。大きすぎて、取り出す時にお父さんが下敷きになったのは想定外でしたけど。まぁ、そんな事を気にせずに、ポチは七聖龍の骨にかぶりついたり、体を擦らせたりしています。凄く可愛らしいですね。
「…ん?まだ何か…」
バサッツ、ジャラジャラジャラ…。
「…な⁈」
ふふっ、驚いていますね!そうです。お金です。アイテム袋の下の方に、大量に入れておきました。
「2億カーラです!贅沢してください!」
「…え? ……は?」
「…ね、ねえ。今更だけど、カーラちゃんって『勇者』のカーラちゃん?カーラちゃんのお金?」
ふふっ、本当に今更ですね。大金を見てカーラの事を勇者だと気付くだなんて。まぁ、お金の単位は、勇者が由来なので、おかしなタイミングではありませんけど。
「カーラは一応勇者なのですよ。でも、そのお金は私からです。遠慮なく使ってください」
まぁ、私のお金はカーラが魔物を討伐して得たお金も含まれるので、私のというのは少々違うかもしれませんが、嘘ではないので問題ないでしょう。カーラは私にあげると言いましたからね。使い方は私の自由です。
「…正直、凄くありがたい。俺は仕事が出来なくなっていたから、お母さんには大変な思いをさせてしまっていたんだ。ありがとうな、メイ」
「どういたしまして!」
本当は少し驚かせてみるくらいの気持ちでしたが、凄く喜んでくれて嬉しいです。怪我でお父さんが働けなくて、それをお母さんが支えていたと思うので、お金に余裕があるとはいえなかったと思いますからね。それに、これからはお父さんも働けるので、これだけあれば死ぬまで安泰でしょう。
「あ、そういえば、お父さん以外にも怪我をしている人は居ますか?」
「あ、ああ!メイが負担じゃないなら、村の皆も治してやってくれないか!」
やはり、そうなのですね。ジルクおじさんは、ポチがドラゴンの群れを追い払ったと言っていたので、群れを追い払うまでに沢山の被害が出た事は、容易に想像できます。せっかく治せる力を持っているので、全員治しちゃいましょう!
「じゃあ、ポチと一緒に行ってきますね」
「ありがとうな。よろしく頼むぞ、メイ!」
今の私は、どんな怪我でもどんとこいです。全て綺麗に治してあげましょう。
そして、カーラに晩御飯の用意の手伝いをお願いし、私はポチとキャルシィと一緒に家を出て行きました。カーラは沢山魔物を持っていますし、正直言って、カーラの料理は美味しいですからね。
あ、もちろん、カーラのおしゃべり禁止は解除しておきました。料理で意思疎通ができないと大変そうですからね。カーラが私の仲間だという説明はできたので、変な事を言って誤解される事はないはずです。




