36話 ポチ様
私達は魔王城から数十分走り、私の故郷の村の入り口までやってきました。ですが、このまま村に入るわけにはいきません。私にはやらなくてはならない事がありますからね。
「カーラ、掛けますね」
「…え?」
『攻撃力低下』『防御力低下』『速度低下』
そうです。危険人物にデバフを掛けなくてはならないのです。カーラは以前、私の両親と手合わせをしたいとか、意味不明な事を言いましたからね。先ほどは私の大切な家族も傷つけられましたし、一応の予防です。
あ、ですが私がバフを使える今ならば、戦わせてみるのも良いかもしれません。カーラは私がバフを使える事に気付いていないと思いますし、面白いかもしれませんね。そうしましょう。どちらにせよ、デバフの解除はしませんけどね。
「さて、行きますよ。キャルシィは私から離れない様にしてくださいね」
「はい、メイお姉ちゃん」
私の村に居る間は、そこまで心配する必要はないでしょうが、一応気を付けておいた方が良いですからね。この村以外だったら、魔族というだけで虐められるかもしれませんし、習慣づけておいた方が良いでしょう。それにしても…『メイお姉ちゃん』、何度聞いても良い響きですね。
さてさて、お母さん、お父さん、村のみんなは元気にしていますかね。…お!早速1人のおじさんを発見です!あの人は確か、お父さんの農家友達のジルクおじさんだったと思います。懐かしいですね。
「ジルクおじさ…」
「おおぉ!!ポチ様がお戻りになられたぞ!」
「…え?」
…どういう事でしょうか。私が知る限り、この村にはポチはポチしか居ませんが、ポチ様とはポチの事でしょうか?
…確かにポチは可愛いですが、家族でもないジルクおじさんが様付けするとはどういう事でしょう。私が居ない1年半の間に、ポチは村の皆に愛される様になったのですか?
そして、ジルクおじさんの言葉で、何人もの村人がこちらに向けて駆け寄ってきます。これはもう、間違いなくポチがポチ様みたいです。
「…っと、メイちゃんじゃないか!久しぶりだな。あ、そうか!ポチ様はメイちゃんを迎えに行かれてたのだな。おやつの時間にお戻りになられなかったので心配しましたぞ」
「キャウン!」
「…は?」
…ポチ、愛されすぎていませんか?なんか、ジルクおじさんの言葉遣いもおかしいですし。おやつに戻らなかっただけで、こんなにも沢山の人に心配されるなんて…。
「えっと、ジルクおじさんがポチのおやつを毎日あげてくれているのですか?」
「いやいや、俺だけじゃないぞ。ポチ様がこの村を救ってくださって以来、ポチ様はこの村の神獣様だ。村人全員でポチ様の食事の管理をさせて頂いているんだ」
…え?…神獣?…ポチが?
「ポチが村を救ったのですか?」
「ああ!襲来するドラゴンの群れを追い払ってくださったんだ!」
…え?…ポチがドラゴンを?スライムにさえ怯えていたポチが?
…どういう事でしょうか。頭が追いつきません。ドラゴンって、あのドラゴンですよね?スライムより強いですよ?
「…ポチ。強くなったのですか?」
「キャウン!!」
ああ、何という事でしょう。凄いですよ、ポチ!可愛さだけでなく、強さまで身につけているだなんて。あんなにも、か弱かったというのに…。この1年半で私も成長したと思いますが、ポチはそれ以上です。凄いですよ、ポチ。
「にしても、メイちゃんは全く変わらねぇな。小さくなったんじゃねぇか?」
「んな!大きくなっていますよ!2㎝も身長が伸びたのですからね!」
なんて失礼なのでしょうか。背も伸びていますし、お胸も少し大きくなったはずです。見れば分かるでしょうに。あ、きっとカーラが横に居るからですね。全部カーラのせいです。カーラが大人っぽいから、余計に私の成長が分かりづらかったのかもしれませんね。
「そうかそうか。で、そちらの美人さんと魔族さんは、メイちゃんの連れか?」
「はい。一応勇者のカーラと、私の可愛い妹、キャルシィです」
「へぇ…。…勇者⁈ つーことは、あれか⁈ 魔王が誕生するのか⁈」
まぁ、そういう反応になりますよね。
世界に1人しか居ない勇者が魔族領のすぐ近くの村に来たという事は、討伐に備えてこの村に滞在するくらいしか、普通は考えられないですからね。何せ、この村には観光するものなんて1つもありませんし。あるのは畑と民家が数軒だけですからね。
ですが、その心配は要りません。
「魔王討伐は終わっていますよ。魔王はもういません」
「おぉ!」
「へ?」
「にゃ⁈」
あ…。そう言えば、カーラとキャルシィに言っていませんでしたね。魔王の称号を持つ者は、数秒で居なくなった事。そして、私が大天使〈堕〉になってしまった事を。




