35話 魔王
ピロンピロンピロン…
「…や、やってしまいました」
少し懲らしめるつもりが、やり過ぎてしまった気がします。生きていますよね、カーラ?
…まぁ、カーラのやった事は許せませんし、当然の報いですよね?敵は打ちましたよ、ポチ!悪は私が成敗しました!
…ピロンピロンピロンピロン
そして、またしてもレベルアップしてしまいました。デバフを使っていない全力のカーラが相手だったうえ、私は獲得経験値上昇のスキルを得てしまいましたからね。私に利のないスキルなんて与えないでほしかったですよ。
称号『天使〈堕〉』が『大天使〈堕〉』に進化しました
スキル『闇魔法』を獲得しました
…まあまあ。…これは。…もうどうでも良いですね。確か、聖女は魔王を倒すと大聖女になると言っていたので、それと似た様な現象ですかね?勇者も魔王も大差ないという事なのかもしれません。…まぁ、どうせなら〈堕〉を消してほしかったですけど。
「「「「…おおぉぉぉぉ!! 魔王様ぁ!!!」」」」
うおっと。戦いを見ていた魔族の人達が歓声をあげています。皆さん、ポチの敵討ちができた事を喜んでいるくれているのですね。そんなに歓声を上げられると、少しだけ照れてしまいますよ。ふふっ、本当に良い事しました。
…おっと、忘れるところでした。早くカーラを治してあげないといけませんね。死んでしまったら困りますし。
『回復』
「カーラ、起きてください。いつまで寝ているのですか?」
「…ぐすっ。…メ、メイ?…メイなの?」
あれ?打ちどころが悪かったのでしょうか?しおらしく涙を流し、カーラがカーラじゃないみたいです。
「なんて顔をなさっているのですか?気持ち悪いですよ?」
「…うぅ。メイだぁ…。ボクの事覚えてるぅ。良がっだぁぁ」
やはり、何だかおかしいです。まぁ、直ぐに戻るでしょう。取り敢えず、カーラには早急にやってもらわないといけない事がありますね。
「さぁ、カーラ。ポチに謝ってください」
「…ポチ?」
そうでした。先ずは紹介しなくてはいけませんね。カーラもきっと、ポチの可愛らしさを見れば自分のやった事の非道さに気付くでしょう。
「ポチ!おいで!」
「キャウンッ!!」
私がポチを呼ぶと、その3つの可愛い顔を揺らしながら駆け寄ってきます。なんて可愛いのでしょうか。顔が3つ有るので、3倍可愛いです。
「うぅう、よしよし!良い子ですねぇ。さあ、カーラ。謝ってください!」
「…えっと。魔物だよ?それ…」
「は?それとは何ですか!ポチですよ!カーラはこんなにも可愛い子を傷つけたのですよ!」
カーラは本当に失礼です。確かにポチは魔物ですが、か弱くて可愛くて優しい子だというのに。こんなに可愛いのに、魔物というだけで傷つけるのは間違っていますよ!
「…えっと。ごめんね、ポチ」
「キャウン!」
はあぁぁ、ポチは本当に良い子ですね。あんなに酷い事をされたというのに、カーラを許してあげるなんて。私なんて、怒りでカーラをぼこぼこにしてしまいましたよ。ポチは大人ですね。
「あの、魔王様…。どうして勇者を回復させたのですか?」
「え?」
…確かに、キャルシィから見れば、おかしいですよね。勇者は魔族にとって敵ですし。
…どうしましょうか。勇者は敵ではないと言っても、信じてくれるでしょうか。…うーん。……あ!
「キャルシィ、勇者を殺してしまうと、新しい勇者が誕生してしまいます。せっかく勇者がこんなにも弱いのですから、殺してしまうのはもったいないと思いませんか?」
ふふっ。完璧な言い訳ですね。勇者はいつでも殺せるから、新たな脅威を生み出さない為に生かしておく。そう思わせておくのです。そうすれば、カーラは殺さなくて良いですし、監視の名目で一緒に居る事もできますからね。
「ま、魔王様…!!」
ザッツ! ザザザザッツ!!!!
「…え?」
何事でしょうか?キャルシィが跪いて頭を垂れ、それに続くように魔族の皆さんが跪きました。
「魔王様。我々魔族一同、魔王様に生涯の忠誠を誓います」
「え…。そんな、大げさな…」
どうしましょう。どうしてですか?どうしたら良いのですか?私、変な事言いました?
「メイ。メイは先代魔王を倒した勇者を雑魚だと言ったんだよ?」
「…え。わ、私はそんなつもりでは…」
いやいや、確かにそう解釈できない事もないですが、雑魚ではないですよ。事実、私よりもレベルは高いですし。…どうしましょう。…はぁ、乗り掛かった舟ですね。仕方ないです。
「皆さん、私の命令は絶対です。素直に従ってくださいね」
「「「「「はっ!!!」」」」」
まあ、良いでしょう。結果として、魔王となってしまった私が、自由に行動しやすくなったという事ですし。さて、では早速。
「皆さん、私は争いを好みません。ですから、人族との争いは止めて下さい。十三天王の皆さんは、各地に散らばり、私の意志を伝えて回ってください。その間に、私が人族との和平を結んできますから」
「「「「「…え」」」」」
やはり、直ぐには無理ですかね。何百年…もしかしたら、それ以上に続いている争いですからね。ですが、関係ありません。
「皆さん、私の命令は?」
「「…絶対です」」
ふふっ、そうです。数人しか反応してくださいませんでしたが、私の言いたい事は伝わったでしょう。
「お願いしますね」
「「「「「はっ!」」」」」
さて、皆さん従ってくれる様ですし、私達も行きましょう。いざ、私の故郷に!
…魔族さん達に約束した手前、直ぐに王都に向かうべきかもしれませんが、少しくらい寄り道しても良いでしょう。せっかく近くまで来たので、絶対に寄りたいですし。
「…あの、魔王様。お供してもよろしいですか?」
「もちろん良いですよ!キャルシィ、これからもよろしくお願いします」
「はい! 魔王様!」
やりました!キャルシィが付いてきてくれます!元々誘ってみるつもりでしたが、嬉しい誤算ですね!
「キャルシィ、これから人族が住む場所に行きます。なので、魔王様と呼ぶのは禁止です。メイと呼んでください。様付けも禁止ですからね」
「えっと…。メイさ…お姉ちゃん?」
はうっつ!!お姉ちゃん!!お姉ちゃんですって!!可愛い妹ができてしまいました!最高です!
「ボクはカーラ!よろしくね、キャルシィ!!」
「はい。よろしくお願いします、カーラさん」
「え⁈ メイがお姉ちゃんなのに、ボクはお姉ちゃんじゃないの⁈」
ふふっ。キャルシィには分かってしまうのですね。カーラよりも私の方がお姉ちゃんと呼ばれるに相応しいという事が。カーラは見た目は大人ですが、中身は全然子供ですからね。寧ろ、手のかかる妹の様な存在です。それを自然と感じ取ったのでしょう。キャルシィは賢い娘ですからね。
「では行きましょうか!」
「うん!」
「はい!」
不幸にも魔王になってしまいましたが、結果的に私が魔王になれて良かったのかもしれませんね。もし私が魔王にならなかったのであれば、カーラは多くの魔族を殺してしまったに違いありませんし。もしかしたら、キャルシィも命を落としていた可能性もあります。それが防げただけでも、私が魔王になった意味があったと思います。
そして、私が魔王である限り、争いは少なくなります。完全になくす事は難しいかもしれませんが、私が生きていける数十年は、今より平和にしてみせます。
…とは言っても、面倒な事はカーラにお願いしますけどね。和平を結ぶという事は、国王様とか偉い人に会わなければならないでしょうし。そういう事は、一応貴族のカーラに丸投げです!




