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メイちゃんが大魔王になるまで  作者: 畑田
1章 勇者討伐編
34/155

34話 勇者

 

「…カーラ。もしかしたら、私が魔ー」


 ヒュンッ………。


 その瞬間、メイはボクの前から居なくなった。まるで、今までの事が夢だったかの様に、一瞬にして。


「え?…メイ?」


 辺りを見渡しても、メイの姿は確認できず、気配が全く感じられない。


 …メイはさっき、何と言おうとした?『もしかしたら、私が魔ー』……ま?……魔王?


 …いや、それはあり得ない。魔王に選ばれるのは魔族。人族から魔王が選ばれたなんて聞いた事がない。メイはあんなに可愛いんだから、魔族の訳がない。


 じゃあ、どうしてメイは急に居なくなった?理由が分からない。そもそも、人が急に姿を消すなんて事が起きる?


 …ま、まさか、メイは最初から存在しなかった?…全部、ボクの妄想?


 …いやいやいや、そんな訳ない。もしかして、メイは天使とか天女とかで、ここに居られなくなった?だから急に消えた?


「メイぃ…どこぉぉ。返事してよ…」


 …メイ。ボクはどうすれば良いの?メイが居ないと、ボクは生きていけないよ。


『魔王』が誕生しました


「…え?」


 …魔王?


 ボクの頭に流れ込んできた情報。最初に否定した事が正しい答えだったかと言わんばかりに、世界がボクに伝えてくる。


 …今まで一番誕生が早かった魔王は、その前の魔王が討伐されてから983日。その時の魔王は230レベルを超えていたと記録に残っていたはず。…今日は、ボクが魔王を討伐してから…たぶん970日くらい。メイは数日前に悲しそうな顔で250レベルを超えてしまったと嘆いていた。


 …あり得ない。でも、メイを魔王だと仮定するとタイミングが合ってしまう。…きっと何かの間違いだ。


 そう思いつつも、ボクは魔王城に向けて走り出した。それ以外に手がかりが無いから。



 ♢♢♢



「…おかしい。どうして誰も居ないんだ?」


 ボクは魔王城に到着すると、魔王城の門前には誰も居らず、庭園にも気配が感じられない。城に入っても誰とも会わず、どんどん奥まで進んでいける。いくら何でも無防備すぎる。


 普通は、門番を倒し、中に居る魔族を倒していく必要がある。進みながら、立ち塞がる敵を全て倒し、魔王の部屋までたどり着く。それでやっと、魔王に戦いが挑めるはずだ。だけどボクは、誰とも会わずに魔王の部屋の前まで来てしまった。


 すると、そこでようやく、ボクは敵と遭遇した。


「キャウン⁈」


 ボクが扉を破壊しようとすると、それに割り込む様に魔物が現れたのだ。SSランクの魔物、ケルベロス。とても希少な魔物で、ボクでさえ見るのは初めてだ。


 …メイが居れば、楽しい戦いができたかもしれない。でも、今はそんな事を考えている時間さえ惜しい。


 ボクは、割り込んできたケルベロスを気に留めず、ケロベロスごと魔王の部屋の扉を破壊した。


 ドゴォォォォン…ガラガラガラッ


 そして、瓦礫の煙が晴れると、ボクは部屋の中を見渡した。


「…っ!メイ!! 居た!…良かった。メイが居たよ! メイ!!」


 メイは居た。だけど、様子がおかしい。メイはボクの声に反応せず、扉と一緒に飛ばしたケルベロスの前で膝を付いた。そして、ケルベロスに回復魔法を掛け、何だか震えている様に見える。


「メイ!ボクだよ!ねぇ、メイ!!」


「…うるさいです。黙ってください」


 再びボクがメイを呼ぶと、メイはボクを睨みつけてきた。


「…え?メイ、どうしたの?メイだよね?」


「うるさいと言っているのです!よくもこんなひどい事を!」


 メイは更にボクを強く睨みつけ、剣を抜いてきた。…おかしい。怒ってるメイも可愛いけど、明らかに普通じゃない。…まさか、魔王になって心が邪悪に?


「待ってよ、メイ!ボクだよ?カーラだよ?分からない?」


「さっさと剣を抜いてください、勇者。私はあなたを許しません」


 …ど、どうして。どうしてメイがあんな状態に…。魔王になってボクの事を忘れちゃったの?


 ……そんなのあんまりだよ。


「…ボクが。ボクが目を覚まさせてあげるからね…メイ!」


「ごちゃごちゃうるさいですよ、勇者ぁぁ!!」


 キィンンンンッツ!


 メイはボクが剣を抜くなり走り出し、正面から剣を振り下ろしてきた。


「…くっ!!」


 …強い。スピードも威力も、今までからは考えられないくらいに強くなっている。デバフを掛けられていないのに、ボクが力負けしている。…これが、魔王の力?


「ほらっ、ほらっ。勇者のくせにっ、その程度ですかっ!」


 キィィン、キィィン、ボキィィン!!


「そんな剣で私のゴンザリオンを受け止める事なんてできませんよ」


「…な」


 ボクの剣は、メイの強力な連打に耐えられず、真ん中から綺麗に折れた。…確かに、メイの言う通りだ。ボクが使っているただの剣では、強くなったメイの攻撃を受け止め続ける事はできない。


「…もう名剣なんて使うつもりなかったけど。『魔剣』ローズ・フラワー。これで相手をするよ」


 ボクは折れた剣に変え、メイの聖剣にも劣らない剣をアイテム袋から取り出した。


「あ、あれは!『魔剣』ゴスティリオン!魔王様の剣!」


 そう。この剣は、ボクが前回の魔王討伐で盗ってきた魔剣。


「『魔剣』ですか…。それで私に勝てると思っているのですか、勇者」


 …っう。


 ……まただ。


 …もう無理。もう我慢できない。1回だけならまだしも、何回も何回も…。


 ボクはメイに向かって走り出し、叫んだ。


「勇者、勇者、勇者って! カーラって呼んでよ! メイ!!」


 ゴキィィン!!!


 ボクは何度も剣を振り下ろし、メイに向かっていく。威力やスピードが負けていても、単純な剣術の腕前が違いすぎる。メイがデバフを使ってこないなら、ボクはメイには負けない。


「…くっ!…うぅ。…っはぁ」


 キィィン、キンッツ!! ズザアァァッ!


 数回剣を交えた後、メイはボクの剣を上手く受け流せず体勢を崩し、大きく後退した。


 「…メイ、思い出してよ」


 「うるさいです!その程度の力で調子に乗らないでください!」


 メイはそう言うと、大きく息を吐いた後にボクを睨みつけた。その瞬間、メイの体が薄く輝く。


「本気で行きますよ」


「…え?」


 ドゴォォォォン!!!!!


 メイがそう言った瞬間、メイの姿が急にボクの前に現れ、ボクはいつの間にか突き飛ばされていた。そして、ボクは強く壁に打ち付けられ、剣を落とした。


「…メ、メイ」


 バタンッ!


 デバフを使われた訳でもないのに一切反応できず、ボクは地面に伏した。意識もだんだん薄れていく。


 …あぁ。ごめんね、メイ。ボクのせいでメイがこんなに…。ボクがもっと強ければ、メイを助けられたのに…。もっと、メイと一緒に居たかった…。もっと、いっぱい戦いたかった…。



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