31話 卑怯者
「…くっ。…うぅ」
「ほらっ!メイ!もっといくよ!」
痛いです、痛いです、痛いです!カーラと木刀での訓練を始めた私は、カーラに虐められています。何度治しても、痛みが追加されていきます。私は両手で木刀を持って防ごうとしているのですが、全然防げません。
「カーラ、もう止め…きゃあ!!」
…もう無理です。このままだとカーラに殺されてしまいます。カーラと対等に戦えると少しでも思った私が馬鹿でした。デバフを使わないと、私はこんなにも弱いのです。それに、よくよく考えると、カーラは氷龍さんと戦っている時に二刀流を使っていたのでした。利き手とか利き手じゃないとか関係ないではありませんか。本当に私は馬鹿ですよ。
「メイ、楽しいね!」
「楽しくありません!もっとハンデをください!」
私をいたぶって楽しむなんて、許せません。
…絶対に一発入れてやります!
「えー。なら、片目瞑るとか?」
「足りません!両目瞑ってください!」
片目瞑って少し距離感が変わるくらいで、今の差が埋まるとは到底思えません。それくらいしてもらわないと、私に勝ち目がありませんから。
「分かった。良いよ」
…え?…本当に良いのですか?私が言いましたけど、いくらカーラでも無理ではないですか?ま、まぁ、カーラが良いなら遠慮なく行かせてもらいますけどねっ。
「はあっつ!!」
ガンッツ!
…え?
「…ッツ。やあっつ!!」
ガンッツ!
……は?
…おかしいです。何故か止められてしまいます。カーラの目を確認しますが、きちんと瞑っています。おかしいですよね?
「終わり?じゃあ次はボクからだね」
「ちょ、まっ…。あうっ!!…まっ。…くっ!…あうっ!!!」
痛いです、痛いです、痛いです!!!どうして当たるのですか!!半分くらいしか防げません。おかしいですよね?私が弱すぎるのですか?
「カーラ、ストップ!!!」
「え?どうしたの?」
「追加のハンデを要求します!」
私はもう、理解しました。剣術に関して、カーラは私の100倍くらい強いです。この程度のハンデでは、どうあがいても勝ち目がありません。
「えぇ⁈ うーん。じゃあ、片足立ちとか?」
「それでいきましょう!」
流石にこれなら勝てるはずです。……勝てますよね?
…少なくとも、動きが鈍って剣の重みが軽くなるはずです。絶対に大丈夫です。
ふふんっ!今度こそ絶対にカーラに一発入れてやります!
ピロン
…あ。せっかく意気込んで、これからという時に、終わりの合図が来てしまいました。私のレベルが上がったという事は、ドラゴンが倒されたのでしょう。
お金を貰っているので、あちらを優先するのが筋ですね。放置する事はできません。
「お疲れ様です。レベルは上がりましたか?」
「お、おう。俺は8レベル上がったぞ」
「私は12レベル上がりました!」
人数が多かったので、爆上げとはいきませんでしたが、皆さんレベルアップしたようです。まぁ、私が経験値を貰っているせいでもあるんですけどね。
「にしても、どうしてドラゴンがこんなに弱かったんだ?メイの嬢ちゃんが何かやったのか?」
「デバフを少し掛けておいたんですよ。良い方法でしょ?」
私の前のパーティーでは、何故か不評でしたが、こんなにも良い魔法なのです。誰も怪我しませんし、経験値も頂ける。一石二鳥ですからね。
「…いや、まあ。良い方法なんだが、ドラゴンに申し訳ないな。長時間一方的にやられるだけってのは、少し可哀そうだというか…。これに慣れると、元に戻れなくなりそうな気がするしな…」
…あれ?どうしてでしょう。私が思っているほど、良い評価ではありませんね。命の危険が少ないに越したことはないと思うのですが。
「…えっと。続けますか?」
「あ、ああ。もちろん続けるぞ。強くなれる事は間違いないからな」
まぁ、私はどちらでも良いですけど、続けるのは皆さん同意みたいですね。他の人もやる気満々みたいです。
「では皆さん、魔物を探してください。出来るだけ大きくて強い相手が良いです」
今は山の上に居ますし、せっかく人数が居るのですから、みんなで探した方が早いですからね。
「じゃあ、カーラも…。あ…」
どうしましょう。カーラにも探してもらおうと思ったのですが、私はある事を忘れていました。
「メイー。どうしたのー?」
カーラが目を瞑ったまま、片足立ちで私の打ち込みを待っています。完全に放置してしまっていましたね。…ですが、これはチャンスです。
『防御力低下』『速度低下』
ふふっ。ドラゴンは倒されたので、存分にデバフを掛けられるのですよ。後はカーラの後ろにそっと回り込んで…。
「カーラ、覚悟っ!!」
「ぎゃあぁ!!」
ピロン
ふふっ…。やっと一発入れれましたよ。凄く気持ちが良いです。最高です!
『回復』
「…メイー。それはちょっと卑怯だと思うなぁ」
「すみません。つい」
えぇ、私も卑怯なのは自覚していますよ。ですが、一発くらい良いじゃありませんか。今日は散々虐められたのですからね。
「カーラも魔物を探すの手伝ってください」
「うぅー。分かったよ」
そしてこの後も、魔物を見つけて倒してを繰り返し、皆さんのレベルはどんどん上がっていきました。まぁ、ついでに私のレベルも少し上がってしまいましたけど。
因みに、私は魔物にデバフを掛けた後はカーラと戦いましたが、片足立ちのカーラに歯が立ちませんでした。本当にカーラはバケモノです。
ですが、夕方ごろには数回だけ私の剣も当たり、この一日で剣術はだいぶ上達したと思います。カーラにハンデ無しで勝つのは絶対に無理ですが、ギルマス程度にはデバフ無しでも勝てそうな気がしますね。
♢♢♢
「サクラさん、ただいまです!」
私達は、キリの良いところで修行?を終えてギルドに戻ってきました。皆さん満足気なので、頂いたお金の分はレベルを上げれたと思います。
「あら、おかえり。今日は随分とお供が多いのね」
…お供だなんて、サクラさんは何を言っているのでしょうね。それだと私が一番偉いみたいではありませんか。ただ修行に付き合っただけの関係ですよ。…いや、それだと私が師匠みたいになってしまいますね。
…まぁ、今日1日だけの関係ですし、これ以上突っ込まれない様に誤魔化しましょう。
「お供ではありません。お友達です」
「ふぇっ⁉︎」
…ん?何か、後ろから変な声が聞こえてきた気がしますね。
……気にしない事にしましょう。
……………。
「サクラさん、魔物を沢山狩ってきたので査定お願いします」
♢♢♢
倉庫で魔物を出して暫くすると査定が終わり、私達はサクラさんに呼ばれました。
…さて、私達が倒した魔物は、ドラゴンにジャイアントウルフ、ベヒモスモドキやコカトリスなどなど。きっと大金になる事間違いありません。
…あれ?そういえば、これらの報酬は誰のものになるのでしょうか?私はデバフを掛けただけですし、カーラは見つけただけです。…もしかしなくても、山分けですよね。
「全部で6400万カーラよ。山分け?それとも、メイちゃんの総取り?」
「…山分けです」
なんということでしょう。1人頭640万カーラ、私はカーラの分も貰ってその2倍。参加費より多いじゃありませんか。まさか、皆さんそれが分かっていて…。いやいや、そんな訳ありませんよね。修行内容は教えていませんでしたし。
「皆さん、お疲れ様でした。…ど、どうぞ」
「おおぉ!!ありがてぇ!!明日もよろしくな、メイの嬢ちゃん!!」
…え?
…明日もやるのですか?
嫌で…はないですけど、どうしましょう。結果として、私は殆ど何もせずに1280万カーラを得たわけですからね。参加費も足せば、2880万です。…うーん。
「…参加費、1人600万カーラです」
そして、あからさまに値上げしたにも関わらず、その場にいた8人全員が、迷わずに私にお金を渡してきました。
……凄い大金ですね。




