30話 修行編突入?
「やっと来たか。遅ぇぞ、メイの嬢ちゃん!」
「…え?」
私がギルドに入るなり、複数の冒険者が私の前に立ちふさがりました。どうしたのでしょうか?
…あ。…まさかとは思いますが、昨日のあれでしょうか。…いやいやいや、そんな訳ありませんよね?
「…えっと。何かあったのですか?」
「は?メイの嬢ちゃんが言ったんじゃないか。200万カーラ持ってここに集まれって」
…どうしましょう。そこに居た全員が私にお金を渡してきましたよ。…全部で……1600万カーラですね。昨日、カーラの周りに集まっていたのは6人です。仮に全員来たとしても1200万カーラです。…何故人数が増えてるのでしょうか。200万カーラですよ?普通来ませんよね?
「…ど、どうして200万カーラも出せるのですか?大金ですよ?」
「は?強くなれるなら、普通そのくらい出せるだろ。冒険者なら、いざという時の為に貯蓄しとくもんだぜ?」
その言葉に、他の冒険者も頷きました。…あれ?私がおかしいのでしょうか?私はカーラと会う前は、15万カーラほどしか貯蓄がありませんでしたよ?何故皆さん、揃いも揃って200万カーラも出せるのですか?私のお金使いが悪いだけで、これが普通なのですか?
………1600万カーラですか。
「…ほ、本当に良いのですか?」
「当たり前だろ。だから皆、集まってるんじゃねぇか」
…はぁ。マジですか。びっくりです。私の予定では、絶対に1人も来ないと思っていたのですけどね。信じられません。…ま、仕方ありませんね。お金を頂いてしまったからには、皆さんのレベルを爆上げするしかないですし。…ふふっ、1600万カーラですよ、1600万!嬉しいです!
「では行きますよ。付いてきてください」
「「「おう!!」」」「「はい!」」
♢♢♢
「カーラ、強い魔物を見つけてください」
「え、うん!」
私達は、男性6名、女性2名を引き連れて、いつもの森にやってきました。そして私は、カーラに魔物を探してもらいます。それが一番早いですからね。
「メイ、また居るよ!」
「本当ですね」
私達の目線の先は、とある山の上です。そうです。ドラゴンです。カーラがドラゴンを倒して私も倒した、あの山です。住ドラを私が倒してしまったので、新しいドラゴンがやって来たみたいです。ドラゴンにとって人気スポットなのかもしれませんね。ま、丁度良い相手ですし、あのドラゴンにしましょう。
「皆さん、あの山の上で狩りをします。走って行くので、付いてきてください」
少し距離がありますが、準備運動になりますね。歩くには時間がもったいないですし。
♢♢♢
「さぁ、あのドラゴンと戦いますよ」
…………………。
…おかしいですね。山の上に到着し、私がそう言って後ろを見ると、そこには誰も居ません。
…まさか、逃げ出したのでしょうか?…ドラゴンが目視出来た瞬間に怖くなって、来るのを止めたのかもしれませんね。きっとそうでしょう。近くで見ると私も怖いと思いますし。
…ですが、どうしましょうか。もう、お金は頂いてしまったのですよね。
「メイ、あと5分くらいはかかると思うよ?」
「…え?」
…あ、居ました!遠くに走っている姿が見えます。
…そうでした。カーラが私の横を普通に走るので違和感がありませんでしたが、私達のスピードは異常でしたね。私だって最初はカーラにおぶられて、ここまで来たのです。その時は、風になっているとさえ思っていましたもんね。普通の人と比較すると、私がバケモノみたいで悲しくなりますね。…皆さんに誤解されていそうです。
…取り敢えず、待ちましょう。
♢♢♢
そして数分後、息を切らしながら皆さんがやってきました。逃げずに来るなんて偉いです。
「…はぁ、はぁ。な、なんて厳しい修行だ」
「ゲホ、ゴホッツ…。も、森の中を全力ダッシュ…。確かにこんなのを毎日こなしてれば、強くなれるはずだな。はぁ、はぁ。簡単に強くなれると思っていた俺が馬鹿だったぜ…」
…どうしましょう。これは修行でも何でもないというのに。…何だか申し訳ないので、回復してあげますかね。
『回復』
「お…おぉ!!ありがてぇ」
「…そうか!限界までやって回復させる。これを繰り返して強くなったんだな。確かに効率的だ!」
…全く違います。もし、そんな方法だったなら、私は1セットで辞退してますよ。そんな辛い事を私が耐えられる訳がありませんからね。…ですが、伝えづらいので、このままいきましょう。
『攻撃力低下』『速度低下』
準備OKです。
「さぁ、皆さん。あのドラゴンを倒してください。怪我をしても全部治してあげますからね」
実際には、ドラゴンにデバフを掛けているので、怪我をするような攻撃は来ないと思います。ですが、それは言いません。私の力がヤバいと思われかねないですからね。
防御力低下のデバフは掛けていないので、あのドラゴンは、なかなか倒せないけど勝てる相手です。攻撃が来てもゆっくりで弱いので、時間さえ掛ければ必ず倒せるはずです。
「…いや、無理だろ。たったこれだけの人数で、ドラゴンを倒せる訳がないだろ」
「大丈夫ですよ。生きてさえいれば私が治すので、何度でも立ち向かえます」
ふふっ。少しだけ楽しくなってきました。低いレベルでドラゴンを前にする恐怖。皆さんにも存分に味わってもらいましょう。強くなりたいなら、私と同じ体験をするべきですからね!
「…死んだら恨むからな。…みんな、行くぞ!!」
「「…お、おう!!」」
さて、あとは暇なので、終わるまで何をしましょうか。
「メイ、ボクも混ざりたいな。デバフ掛けてよ!」
「え?無理ですよ。今はドラゴンに使っているので」
私がデバフを掛けれる対象は、一度に一つだけです。今はドラゴンに使っているので、カーラに掛けるとしても、残っている『防御力低下』しか掛けれません。そんなカーラが混ざってしまったら、一瞬で終わってしまいます。
「…え?そうなの?じゃあボクは何をやればいいの?」
あ…。そういえば全く考えていませんでした。カーラが付いてくる必要は無かったですね。そもそも、こんな事になるとは思っていなかったですし。…どうしましょうか。
「あ、では私に剣を教えてください。木刀とか持っていませんか?」
「え!もちろん有るよ!メイも剣に興味が出てきたんだね!」
「少しだけ…です」
そう、ほんの少しだけです。カーラから、せっかく凄い剣を頂いたのに、私は投げたり一撃で終わらせたりと、ゴンザリオンに申し訳ないですからね。少しくらいは、剣として正しい使い方が出来るようになっておきたいですから。…使う相手が居るのかは別としますけど。
「あ、私は剣を上手く使えないので、ハンデをくださいね」
「うーん。じゃあボクは左手しか使わないよ」
…左手しか使わないとは、かなり舐められていますね。良かったです。木刀とはいえ、デバフを掛けていないカーラの一撃は絶対に痛いですからね。利き手でないなら、今の私なら少し痛いくらいで済むはずです。…大丈夫ですよね?




