3話 角の生えたゴブリン
メイは思っていた数倍凄い子だった。ボクよりも頭一つ小さな身長に、腰まで伸びた綺麗な銀髪。お世辞にも強そうには見えないけど、メイのデバフは最高すぎる。
メイにデバフを掛けてもらってトカゲと戦うと、その効果は凄いものだった。久しぶりの高揚感に胸が踊る。これなら七聖龍と戦えば、もっと楽しめるだろう。幸いにも七聖龍はあと4匹残っているからね。
そう思っていたけど、トカゲを倒したことでメイのレベルが上がったからデバフを掛けなおしてもらうと、思ってた以上に効果が上がっていた。この状態で戦ったら、ただのトカゲにさえ負けるかもしれない。
もう嬉しくてたまらない!
七聖龍の残り4回が楽しめると思ったら、それよりも弱い相手でもかなり楽しめそうだ。トカゲを倒しまくってメイのレベルを上げれば、いずれはスライムでさえも強敵だと感じれるようになるかもしれない。
魔王を倒したご褒美を、2年半越しに神様が用意してくれたのかもしれない。そうに違いない!
♢♢♢
「勇者様、これからどうしますか?」
アイテム袋にトカゲを収納していると、メイが少し不安そうな顔つきで話しかけてきた。メイのレベルはかなり低かったみたいだし、トカゲが怖かったのかもしれないな。ボク的には、すぐにでも別のトカゲを探しに行きたい気持ちだけど、あんまり無理をさせる訳にはいかないかもしれない。
「んー。近くにそこそこの魔物が居れば戦いたいな。メイのデバフの効果も上がったから試してみたいし」
そう言って山の上から森を見渡すと、魔物の群れが居るのが分かった。
「メイ、あそこに行ってみよう。さっ、掴まって」
「う…。分かりました」
メイはちょっと嫌そうだけど、ここに来た時みたいに抱きついてくれた。
「…あれ?メイ、太った?」
行きは羽のように軽かったメイの重さが、今はずっしりと感じられる。
「…勇者様、デバフの効果です。絶対にそうです」
…そっか。攻撃力低下って事は、単純な力が弱くなるって事だし、防御力低下すれば重さに対する耐性も弱くなるよね。
「ごめんごめん。じゃあ行くよ」
「はい」
メイは少し怒ったみたいだけど、落ちないようにボクにしっかりと掴まってくれている。そんなに強く掴まらなくても落ちたりしないのに。
そしてボクは山を駆け下り、魔物の群れまで向かった。
「着いたよ、メイ」
「はい。…え、これと戦うおつもりですか?」
ボクたちの前に居るのは、ゴブリンの群れだ。トカゲに比べればスライムみたいなものだけど、数が多い。ざっと見て30匹は居るだろう。
「じゃあメイはそこで見ててね」
「気をつけてくださいね」
メイは少し心配そうな顔つきでボクを見つめた。こんな角の生えたゴブリンなんかにボクが負ける訳がないのに。メイは心配性だな。
そしてボクは一番近くに居たゴブリンに斬りかかった。
「…あれ?」
…おかしい。ボクが斬りかかったのに、ゴブリンは両断されずに反撃してきた。
これは嬉しい誤算だね。
ボクはゴブリンの反撃をかわし、再び斬りかかった。さすがに2回目の攻撃には耐えられずに倒れてしまったけど、ゴブリンごときがボクの攻撃を耐えたんだ。それに、少しだけ息が切れ始めている。山から走って少し戦っただけなのに。
…すごく楽しい!
♦︎♦︎♦︎
「はぁ、はぁ、はぁ。疲れたぁー!!」
勇者様はオーガの群れに単身突っこんでいき、全てを倒された後に地面に大の字で寝転がりました。
ピロンピロンピロンピロンピロンピロン…
はい。そして、またもや私のレベルが上がっていきます。
「…大丈夫ですか?勇者様」
「うん!凄く気持ちが良いよ!」
勇者様は満面の笑みで、そうお答えになられました。戦闘狂というやつなのでしょうか。私には分かりません。
「メイー、おぶってぇ。もう動けないよ」
私が勇者様の発言に驚いていると、勇者様は子犬のような目つきで、そう言いました。このお顔を見ると、実家で飼っていたポチを思い出しますね。まあ、ポチの方が数倍可愛いですけど。
「はぁ、今回だけですからね」
ですが、正直なところ勇者様は身長もお胸も私より大きいので、少し嫌です。勇者様を担いで森を抜け、ギルドに向かうのは骨が折れそうです。
「…あれ?勇者様って随分お軽いんですね。ちゃんと食べていますか?」
「えー。食べてるよぉ。メイのレベルが上がったからそう感じてるだけじゃないの?」
言われてみれば、その通りですね。今日一日で、私のレベルは物凄く上がったのでした。自分よりも大きい女性を軽いと感じるなんて、私は何を言っているのでしょうか。
「メイは何レベルになったの?ボクもゴブリンを倒してレベル上がったから、メイも上がったんでしょ?」
……え?
………おかしいですね。勇者様が戦っていたのは、オーガだったはずですが。私が知らないうちに、ゴブリンは屈強な肉体に進化していたのですね。
…まぁ、そんな事は置いておいて、勇者様の質問に答えましょう。
「……えっと、113レベルになりました」
遂に私も100レベルを超えてしまいました。化け物の仲間入りですね。私と同じくらいの年齢で100レベル超えている人なんて、勇者様以外に知りません。きっと居るのでしょうが、ごく少数でしょうね。
「え⁈そんなに上がったの?なんで?」
…ん?どうして勇者様が驚いていらっしゃるのでしょうか。私の方が驚きたいですよ。
「ドラゴンとオーガの群れを倒したからですよ」
「たったそれだけで100レベルを超えるんだね?」
…どうして疑問形なのでしょうか?ドラゴンを倒したのですから、おかしくは無いと思うのですが。
本来なら低レベルでドラゴンと戦うなんてありえません。私のレベルが100を超えても勝てる気がしませんし。ドラゴンなんて怖い魔物は、コツコツと努力した高レベルのパーティーで挑むような相手ですからね。きっとそのせいでしょう。
「はぁ、それにしても楽しかったなぁ。こんなに楽しかったのは魔王討伐以来だよ!」
「……良かったですね」
…何だか、物凄い事を言われた気がします。魔王討伐って、楽しむものだったのですね。私が知っている魔王討伐とは違うみたいです。…まぁ、ドラゴンの事をトカゲと言うお方ですから、きっと違う事でしょうね。…そう思いたいです。
…はぁ。今日の魔物との戦いは凄く怖かったですが、早く慣れないといけませんね。
「ありがとう、メイ。メイとパーティーを組んで良かったよ」
「…勇者様。勇者様はご存じ無いかもしれませんが、教会に婚姻を認められなければ、結婚したことにはなりませんよ」
はぁ。また勇者様が変な事をおっしゃられましたよ。わざとですかね?