28話 聖なる力
「こんな場所を使わせて頂いて良いのですか」
「もちろんよ。メイちゃんが相手なら誰も文句言わないわ」
私がサクラさんに相談したい事があると伝えると、サクラさんはギルドの談話室に連れて行ってくれました。談話室にはソファーもあり、普通の冒険者が単に相談事をするためだけに使えるような場所とは思えませんが、どうやら私なら大丈夫らしいです。不思議ですね。何故でしょうね。
まぁ、そんな事は置いておいて、静かな場所を使えるのは素直にありがたいです。あまり他の人には聞かれたくない内容ですし。
「…えっと、サクラさんは魔物をテイムする方法をご存じですか?」
「…え?メイちゃんは、テイムしたい魔物でもいるのかしら?」
「…その。テイムしてしまったのです。理由は分かりませんが」
私がサクラさんに確認したかったのは、何故あの時に氷龍さんはテイムされたのか、という事です。私よりもサクラさんの知識量が多い事は確実ですし、サクラさんなら知っている可能性も十分にありそうですからね。
「……テイム…ができちゃったのね?テイム系のスキルなんて聞いた事ないけど、そんなスキルを得たって訳じゃないのよね?」
「はい。持っていません」
やはり、そういうスキルは無いのですか。私が持っていないのにテイムされた時点で、そう感じていましたが。
「因みに、どういう状況でテイムできたのかしら?」
「魔物に回復魔法を掛けたら輝きだして、何故かテイムできていました」
あの時、氷龍さんが輝いた事が関係しているのは間違いないでしょう。ですが、何故輝いたのかは分かりません。もし、魔物に回復魔法を掛けるだけでテイムされるのであれば、過去に実行した人は少なからず居るはずです。
「…ちょ、ちょっと待って。何に回復魔法を掛けたのかしら?凄く嫌な予感がするのだけれど」
あぁ、そういえば、カーラのせいで私が氷龍さんに回復魔法を掛けた事を知られていましたね。今更サクラさんに隠せるとは思っていませんけど。
「氷龍さんです。口外しないでくださいね」
「…っ⁉︎……ふふっ、言っても誰も信じないわよ」
悲しい事に、その『誰も』の中にサクラさんが含まれていないのは間違いないですね。サクラさんから私に対する疑いの目は全く感じませんから。私を信用しているのか、やりかねないと思われているのか。不本意ながら、後者の可能性が高い気がしますね。
「メイちゃんは、七聖龍が誕生した時の話は知ってる?」
「…竜が聖なる力を得て進化したという事くらいなら知っていますが、それ以上は知りません」
千年以上前の出来事。尚且つ、これは私が子供の頃に聞いた話なので、私の知識はほとんどありません。ですが、サクラさんがそう聞いてくるという事は、それに関しての資料があるのかもしれませんね。
「正確には『得た』ではなく『与えられた』かしらね。そして、それを与えた人物は、大天使とも大悪魔とも言われているわ」
…それが本当なら、とても凄い事ですね。強大な力を持つ七聖龍を誕生させた人物が、過去に存在するという事ですから。ですが、対となる言われ方を1人の人物にされるのは、何とも不思議です。
天使が強大な魔物を生み出したから、悪魔とも呼ばれているのか。悪魔が魔物を聖なる存在に進化させたから、天使とも呼ばれているのか。事実は分かりませんが、どちらにせよ私には想像も出来ない力の持ち主だったという事でしょうね。
「メイちゃんは『聖女』でしょ。回復魔法は『聖なる力』よ。…私の想像だけど、七聖龍は遥か昔に『聖なる力』を持つ者に従っていた。そして今回、同じように『聖なる力』を与えられて、その記憶に従った。…って思うんだけど」
つまり、魔物だからテイム出来たのではなく、七聖龍だったからテイムされてしまったという事でしょうか。
「ですが、それだと回復魔法の使い手は七聖龍をテイム出来るって事ですよね。過去に私と同じ事をやった人は居なかったのでしょうか?」
「…居る訳ないじゃない。七聖龍を傷つける馬鹿なんて、カーラくらいよ」
…なんと説得力のある言葉でしょうか。怪我をしていない魔物に回復魔法掛ける人なんて居ないでしょうからね。傷つけるなんて、もっての外です。…普通は。…残念ながら、千年越しに七聖龍を殺すヤバイ人が現れてしまったのですけど。
「まぁ、あくまで私の推測だから、気になるなら試してみれば良いんじゃないかしら。カーラなら、絶対に喜んで協力するわよ」
「絶対に嫌ですね」
もちろん、サクラさんが冗談で言ってるのは分かっています。それで仮に、回復魔法が間に合わずに七聖龍が死んでしまっては、元も子もないですからね。そして、もし成功してしまったら、それはそれでもっと嫌ですからね。七聖龍をテイムしても、良い事ありませんから。
「はぁ、メイちゃんには七聖龍よりもカーラをテイムしてほしいわ」
「…もしカーラをテイムできたとしても、制御できる気がしませんね」
「…それもそうね」
私達は、諦めにも近い乾いた笑いをこぼし、顔を見合わせました。重要な約束も守ってくれないカーラですから、あながち間違っていないと思われてしまうのが残念なところです。
「サクラさん、話を聞いてくださり、ありがとうございました」
「良いのよ、これくらい。これからもいつでも頼ってちょうだい。カーラの面倒を見てもらってるんだから、できるだけ力になるわ」
本当にカーラは手のかかる人ですからね。ですが、面倒な部分が多くても、私から離れる事はないでしょう。私はもう、この生活から抜け出せませんし、貰った分のお金は返さなくてはなりませんからね。
「それはそうと、もう少しで貴族の社交界があるのよ」
「え?…そうなのですか」
……急にどうしたのでしょうか。意図が分かりません。
……ま、まさか『聖女』だから参加義務があるとか言いませんよね?私には無理ですよ?
「1カ月と少ししたら、カーラは王都に連れていかれるのよ。メイちゃんは…付いて行かないわよね?」
「そうなんですね。絶対に行きません」
良かったです。どうやら私には関係なさそうです。知らない貴族様と関わるなんて私には荷が重いですからね。
…ふふっ。というか『カーラが参加する』ではなく『連れていかれる』なのですね。ちょっと可哀想ですが仕方がありませんね。カーラは一応貴族令嬢ですし。社交界の時期になれば連れていかれるのは当たり前ですね。ですが、サクラさんは何故、突然そんな事を気にするのでしょうか?
「じゃあ、カーラが居なくなったら私と遊びましょ?」
「え!本当ですか!遊びます!!」
なんという事でしょうか!それは嬉しすぎますよ!遊びのお誘いだなんて生まれて初めてです!




