27話 デバフ依存症
「サクラ、ただいま!」
「ただいま戻りました」
私達はアイスフィア領で一泊し、再び馬車で3日かけてユリアール領に戻ってきました。帰りは襲われる事がなかったので、たくさん睡眠をとる事ができ、私の体調は万全です。行きで2集団の盗賊を退治できたので、あのルートは暫く安全かもしれませんね。まぁ、盗賊はいくら討伐しても湧いてくると言いますし、時間の問題でしょうけど。
何はともあれ、今夜は思いっきりやれますね。レベルが上がるのは嫌ですけど、今はそれよりもカーラに思いっきり枕をぶつけたい気分です。
「…あら、おかえり。…取り敢えず、奥に行くわよ」
…なんだかサクラさんが不安そうな顔をしている気がします。もしかしたら、私達が依頼に行った後に、アイスグラウンドに氷龍さんが居る事に気づいてしまったのかもしれませんね。
すぐさま倉庫に行こうとされていますし、心配なのだと思います。
「…ふぅ。カーラ、出して良いわよ」
倉庫に入ると、サクラさんは意を決した様な顔でカーラを見ています。カーラがやらかしている可能性が高いと思われているのでしょうね。それほどまでに、カーラは信用されていないようです。
「サクラ、顔色悪いみたいだけど大丈夫?」
…あぁ。カーラは何を言っているのでしょうね。自分が原因だとは思わないのでしょうか?
サクラさんの不安げな表情にカーラは心配しますが、サクラさんはその言葉には返答せず、カーラの動きを見守ります。相手はカーラなので仕方ないですけどね。
「サクラさん、大丈夫ですよ。カーラは盗賊とフェンリルしか狩っていません」
私は、そんなサクラさんを一刻も早く安心させる為に、こう言いました。サクラさんは、カーラのアイテム袋から氷龍さんが出てくると思っているに違いありませんからね。
「…っ!…そう。良かったわ。ありがとう、メイちゃん。さっさと出しなさい、カーラ」
「え…?どういう事?」
カーラはもちろん分かってない様ですが、それは問題ありません。というより、分かる訳がないという方が正しいですかね。そしてカーラは疑問に思いながらも、次々とフェンリルを出していきます。
「…ちょっと、何匹狩ってきてるのよ!依頼は1匹分の毛皮でしょ⁈」
…そうなのですよ。1匹で良かったのですよ。私は1匹倒した時に帰りたかったです。カーラが出したフェンリルは全部で8匹。狩すぎですよね。まぁ、氷龍さんが狩られるよりはマシだと思いますけど。
「氷龍に会うまでに、いっぱい居たからね」
「ひょ…。…え?…メイちゃん?」
「氷龍さんは私が回復させたので生きていますよ」
まったく。本当にカーラはいつも余計な事を言いますね。言わなければ、これからサクラさんに怒られる事もなかったでしょうに。自分が悪い事をしているという自覚がないのは怖いですね。
「…本当にありがとうね、メイちゃん。そしてカーラ!あなた、メイちゃんが居れば、その辺の魔物で満足できるって言ったわよね?どうして自分が言った事を守れないのよ!」
はい。私が思った通り、サクラさんが怒りました。自業自得ですね。
「え…。まぁ、言ったけどさ。氷龍が居る場所への依頼が合ったから、ついさ。ねえ、メイ」
…何故私に振るのでしょうか。頭がおかしいのですかね。
「カーラ。次に同じ事をやったら、二度とカーラにデバフは使いませんからね」
「…え。…そんな。メイはボクに死ねって言うんだね?」
…いやいや、そこまでは思っていませんけど。カーラにとってはそれ程の事だという事なのですね。完全に私に依存しているではありませんか。つまり、私が死ねばカーラも死ぬという事になってしまいますね。カーラと一心同体だと思うと、何だかぞっとします。
「カーラが約束を守ってくださるなら、私はいつまでもカーラにデバフを掛けてあげますよ。今夜だって、相手をしてあげます」
「ふふっ。メイは意外と大胆だよね。ボクも大好きだよ」
…何を言っているのでしょうか、この人は。頭の中がお花畑なのか腐っているのか、分かりかねますね。まぁ、私の言い方が少しだけ悪かったかもしれませんが。
「とにかく、カーラは次やったら許さないわよ。それだけは、しっかりと覚えておきなさい」
「分かったよ。ボクだってメイに見捨てられたくないからね」
…やはり、カーラの頭の中は腐っていますね。断言します。
「じゃあ査定終わったら呼ぶから、ロビーで待ってなさい」
「うん!」
そして私達はロビーに戻りました。どうしてカーラの相手をすると、こんなにも疲れるのでしょうかね。
♢♢♢
「カーラ、メイちゃん」
ロビーで暫く待つと、私達を呼ぶ声が聞こえたので、サクラさんの元に向かいました。今回は一体いくらになるのでしょうね。カーラが必要以上に狩ったので、それなりに多くなるはずです。
「依頼達成料とフェンリルの買取りの合計で、1億2600万カーラよ」
「…へ?」
…………私の聞き間違いでしょうか?思わず変な声が出てしまいました。
……1億?…1億って1億の事ですよね?…あれ?おかしいですよね?
「メイちゃん、フェンリルの毛皮は高級素材よ。大きくて丈夫で保温性に優れているわ。何匹かは状態が悪かったけれど、それでも買い取り額は高額になるのよ」
サクラさんは、私が疑問に思ったのを察してくれたようで、そう説明してくれました。私には縁のない素材だったので、全く知りませんでしたよ。
…………。
「…えっと、カーラ。私も少しだ…」
「メイが全部貰って良いよ」
…ん?今、カーラは何と言ったのでしょうか。聞き間違いでなければ、全部私にと…。1億の全部ってどれくらいでしょうか?
「メイ、要らないの?」
「…も、もちろん、貰います。ありがとうございます。大好きです、カーラ」
「うふぇえ⁈」
…あれ?今、私はとんでもない事を口にしてしまった気がします。…どうしましょう。急いで訂正しなくてはいけません。
「カーラ、今のはお金が…」
「ボクも大好きだよ、メイ!」
…あああああああぁぁぁぁぁ。どうしましょう、どうしましょう、どうしましょう。カーラの顔が気持ち悪いです。
…もう無理ですね。こう考えましょう。私が『お金が…』と言った瞬間にカーラは大好きだと言いました。なので、カーラはお金が大好きです。…そうです。カーラはお金が大好き。これで良いです。
「サクラさん、少し相談したい事があるのですが、今からお時間よろしいですか?」
「え、えぇ。良いわよ」
さて、さっきの事はもう忘れて、切り替えましょう。私には確認しないといけない事があるのですから。
「カーラは先に帰っていてください。晩御飯までには絶対に帰りますから」
「なんだか今日のメイは積極的だよね。凄く嬉しいよ!」
…何を言っているのでしょうね。私には理解できません。
そして私は、意味不明な事を言うカーラを放置してサクラさんと奥の部屋に向かいました。カーラには言っても無駄なので言いませんが、カーラの家の晩御飯は大好きなので、絶対に食べに帰るという事ですからね。




