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メイちゃんが大魔王になるまで  作者: 畑田
1章 勇者討伐編
25/155

25話 フェンリルさん、ごめんなさい

 

 約3日間の馬車での移動を終え、私達は遂にアイスフィア領へと到着しました。アイスフィア領は、王都や私達が住むユリアール領と比べると少し田舎ですが、落ち着いた雰囲気があり、とても魅力的な場所だと感じます。ですが、私には言いたい事があります。


「…寒いです」


 そうなんです。あり得ないくらい寒いんです。ここは人間の住む場所ではありません。今すぐにでも帰りたいです。コートを着ていなければ、私はもう死んでいましたね。間違いありません。


「メイは寒がりなんだね。でも、アイスグラウンドはもっと寒いと思うよ」


 …何という事でしょうか。カーラが更なる絶望を伝えてきましたよ。もしかしたら、カーラは私と無理心中をする気かもしれません。…いや、カーラは寿命でしか死なないので、死ぬのは私だけですね。


「…カーラ1人で行ってきてくれませんか?」


「どうして?このくらいの寒さで人は死なないよ?」


「…死にますよ。カーラと一緒にしないでほしいです」


 まぁ、私がここで何を言ったとしても、結果が変わらない事は目に見えています。私の言いたい事は一応言い終わったので、私が死なない様に対策をしなければなりませんね。


「カーラ、買い物に行きましょう」


「え?また?」



 ♢♢♢



「完璧です!」


 買い物を終え、私は一回り大きくなりました。もちろん、上にも横にもです。厚手のブーツ、コートをもう一枚、耳まで覆うもふもふ帽子、超厚手の手袋。もちろん、ゴンザリオンはまともに握れないので、アイテム袋に入れました。戦う気は一切ありませんからね。問題ありません。これでギリギリ死なずにすみそうです。


「お餅みたいで可愛いよ、メイ」


 そして、カーラに馬鹿にされました。ですが、気にする必要は一切ありません。カーラは私の外見がどうであっても、デバフさえ掛ければ文句を言いませんからね。


「急いで終わらせましょうね。早く行きましょう」


「お!やる気になったね、メイ!」


 やる気は一切ありませんが、早く帰れるように頑張ります。


 そして、私達はアイスグラウンドに向けて走り出しました。アイスグラウンドはこの領の最北端にあるそうです。買い物している時に徒歩で半日ほどかかると聞きましたが、カーラに『走って行きませんか?』と提案すると、快く承諾してくれました。カーラも初めからそのつもりだったみたいです。ゆっくり歩いで半日ならば、走ればすぐに到着するはずです。多少疲れるかもしれませんが、早く帰る為の努力は惜しみません。



 ♢♢♢



「きゃうっ」


 ズザァァァーー


 ……メイです。私は今、ある事を知りました。


 ………雪道で走るのは危険です。


「メイ、大丈夫?」


 カーラはそう言うと、立ち止まって私に手を差し伸べてくれました。幸い厚着しているのであまり痛くはありませんでしたが、とても恥ずかしいです。…というのも、私がコケるのは3回目ですからね。


 …はぁ。どうしてカーラはコケないのでしょうか。凄く悔しいです。なんだか、カーラが思いっきりコケる所を見たくなってきましたよ。


「カーラ、デバフを掛けても良いですか?」


「えぇえ⁉︎まだフェンリル出てないよ⁉︎」



 ♢♢♢



 そして約2時間後、私達は無事にアイスグラウンドに到着しました。結局、私は雪道で5回コケましたが、カーラは一度もコケてくれませんでした。少しデバフを掛けてコケさせようとしてみましたが、労力の無駄でしたね。私とは体の構造が違うみたいです。


 …はぁ。まぁ良いです。無事に到着できたのですから、切り替えましょう。それにしても…。


「…綺麗ですね」


 アイスグラウンドに住む人は居ない為、辺りは見渡す限り真っ白です。凍る山に日の光が反射して少し眩しいですが、とても美しいです。


「そうだね。あ!早速発見!行くよ、メイ!」


 …どうやら、カーラにとっては景色の美しさよりも魔物の方が目に入りやすいみたいです。…うーん。一体どこに居るのでしょうね。私には、綺麗な景色しか目に入りませんよ。


 …………あ!居ました!カーラはよく簡単に見つけられましたね。フェンリルは真っ白で完全に同化していますよ。凄いです!


 さて、何はともあれ、直ぐに見つけられて良かったです。思ったよりも早く帰れそうですね。


「メイ、強力にね!さっきみたいに手加減しないでよ」


「…分かっていますよ」


 ここからが私の唯一の出番ですね。ですが、正直気が進みません。私は早く帰りたいので、あまり戦いを長引かせたくないですし。とはいえ、カーラを満足させるためには、ある程度妥協しなくてはなりませんね。


 …うーん。相手はSランクの魔物ですし、強力に掛けすぎたらカーラが負けてしまいますかね?枕投げの成果で、だいたいの調整はできるようになっていますが、私にはフェンリルがどれくらい強いのか分かりません。…どうしましょうか。


 同じSランクの魔物といえば、ドラゴン。ですが、フェンリルはドラゴンよりもかなり小さいですし、流石にドラゴンよりも弱い気がします。となると、Aランクの魔物のロンリーウルフとドラゴンの中間くらいですかね?


 …うーん。難しいですね。考えるのが面倒になってきました。そもそも、私は強い魔物の正確な強さが分からないので、考えるだけ無駄ですね。カーラなのですから、気持ち少し強めに掛けるくらいで丁度良いはずです。


『攻撃力低下』『防御力低下』『速度低下』


「ありがと!よし、行ってくるね!」


「頑張ってくださいね」


 ふぅ。デバフさえ掛ければ、もう私にやる事はありません。カーラの必死な戦いぶりでも見守りましょう。カーラなのですから、何だかんだ勝つはずです。


「ぎゃああああ!!!!メイ、助けて!!!!」


 ……あれ?


 ……おかしいですね。カーラがフェンリルに噛まれ、苦戦している様に見えます。というか、負けそうです。ヤバイかもしれません。


 …解除


「あ、戻った!もう!」


 そして、私がデバフを解除した事でカーラの強さは戻り、フェンリルは無残にも首を切り落とされました。


「はぁ、はぁ。…メイ」


『回復』


「…なんでしょうか」


「その…さっきはああ言ったけど、もう少し手加減してくれないかな…。フェンリルはトカゲに近いくらい強くて、トカゲよりも素早いんだよ」


 …知りませんでした。フェンリルって強いのですね。次回からは気を付けましょう。


「では、帰りましょうか。フェンリルの毛皮はそれで十分でしょうし」


「…え?冗談だよね?」


 私は本気で言ったのですが、何故かカーラには冗談だと思われてしまいました。ですが、流石に私でも今の結果は少し悪かったと思いますね。…まぁ、もう1匹くらいは付き合ってあげましょう。



 ♢♢♢


 メイです。私は今、物凄く後悔しています。どうして私は、『もう1匹くらいは付き合ってあげましょう』なんて思ったのでしょうね。


 あれから何故か1匹で終わる事なく、カーラはフェンリルと戦い続けています。デバフの効果は上手く調整できたので、2匹目でカーラは満足できたはずですが、どういう訳か私が帰ろうと言うたびに、カーラが新しいフェンリルを発見するのです。これが最後だろうと思うたびに裏切られ、ずるずると時間が経過していきます。いい加減にしてほしいですよ。


 フェンリルはSランクですし、個体数もそれほど多くないと思います。この雪山で見つけるのは難しいはずなんです。それなのに、カーラは簡単に発見し、どんどん山の山頂が近づいてきます。どうして私は山登りをさせられているのでしょうね。


 …はぁ。カーラのせいで、この雪山のフェンリルは絶滅するかもしれません。ごめんなさい、フェンリルさん。


 ドシィィィン!!!


 …ん?何の音でしょうか?


 ………は?


「…カ、カーラ。これはどういう事ですか?」


 突如として私達の前に現れた、氷に覆われた巨大な生物。


 …ドラゴン。いえ、竜かもしれません。考えたくありませんが、龍の可能性もありますね。とんでもなく巨大な生物が、私達の目の前に降臨しています。


「ふふっ、やっぱり居た!」


 そしてカーラのその言葉を聞いた私は、状況を理解し、カーラを静かに睨みつけました。最悪です。



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