23話 だだ漏れ
私が馬車から降り、音の聞こえる方に向かうと、護衛数人が盗賊と思われる人達と対峙していました。盗賊約30人ほどに対し、護衛が6人。うち2人は負傷している様で、その2人を庇う様に4人が盗賊と対峙しています。盗賊も数人倒れていますが、戦力差は明らか。彼らにとっては絶望的状況ですね。
…とはいえ、勝手に手を出して大丈夫ですかね?冒険者の中には、手助けされる事を良しとしない、信じられない性格をお持ちの方も居ますからね。さっさとお片付けするつもりで出てきましたが、そういう方の相手をするのは疲れますからね。関わりたくない存在です。
それに、今の私が普通の人に負ける可能性は低いとはいえ、確実ではありませんからね。近くでみると少し怖いですし、怪我はしたくありません。
…うーん。どうしましょう。…とりあえず、確認だけしてみますかね。
「…あの…お手伝いしましょうか?」
「…な⁈ おい、何で出てきたんだ!子供は下がってろ!」
…なんて失礼な人なのでしょうか。私の声に気づいた男性が、おかしな事を言ってきます。私の何処を見て、そう思ったのでしょうか。
…あぁ、分かりました。きっと、極度の緊張状態で視力が低下しているのでしょうね。そうに違いありません。
そして、その1人の言葉で他の5人も私に気が付いた様で、次々と声を掛けてきました。
「…え?どうして。危ないじゃ……って、おい!メイさんじゃないか!」
「本当だ…。メイさんだ。…私達助かるんだ。…良かったぁ」
「な…。あの人が噂の…」
…噂というのが少々気になりますが、どうやら私を知っている様ですね。まぁ、ユリアール領からの馬車なので、ユリアール領の冒険者が護衛依頼を受けているのでしょう。同じ領の冒険者なら私を知っていてもおかしくありませんね。どうやら、お手伝いをしても文句を言われない雰囲気です。
「…はぁ。やりますかね」
そして私はゴンザリオンを抜き、一直線に盗賊に向かって走り出しました。
「んなっ!!」
『速度低下』
私は盗賊が剣を振り下ろす前にデバフを掛け、下から剣を弾きました。いくら怖そうな盗賊といえ、私がデバフを使えば大丈夫なはずです。私はカーラによってレベルを上げられましたからね。
キィィィーーン!!
ん?なんだか随分と軽く剣を弾けた気がしますね。どうやら、この盗賊はギルドマスターと比べて、力が凄く弱いみたいです。少し安心してきました。
……いや、油断するのは良くありませんね。もしかしたら、少し強い人が紛れている可能性もありますし。とりあえず、デバフを解除して次ですね。
♦︎♦︎♦︎
私達が負ければ最悪の事態になる事は容易に想像できてしまうから、逃げる事はできない。圧倒的な敵の数の中、仲間も2人が負傷し私達が勝てる可能性は限りなく無いに等しい。
でも、そんな絶望的な状況に1人の少女が現れた。勇者カーラ様に引き抜かれ、頭角を表した冒険者。
そんな彼女は、私達と一言会話した後、目にも止まらぬ速さで盗賊に向かっていった。一瞬で盗賊の懐に入り込んだと思ったら、盗賊の剣が宙を舞って遠くに突き刺さる。その光景が、十数秒の間に何度も繰り返された。しかも、彼女は走りながら弾いた剣を回収し、盗賊を無力化していく。
「…続けますか?」
「こ、降参する…」
そして、最後の1人に剣を向け、彼女はそう言った。
私達が6人がかりで対処できなかった盗賊を、ものの十数秒で完全に制圧し、余裕の表情。正直言って、カッコ良すぎる。私もいつか、あんな風に強くなりたい。
「シュカ…俺は強くなりたい」
そして、私と同じ光景を見ていたアスプも同じ事を思っていた。
♦︎♦︎♦︎
ふぅ、やっと終わりました。とんでもなく頑張りましたよ。私でもなんとか勝てる相手で良かったです。…とはいえ、諦めの早い人達で助かりました。武器が無くても諦めずに全員で襲い掛かってこられたとしたら、私では逃げる事しかできないですからね。私は同時に同じデバフを掛ける事はできないので、全員とまとめて戦ったら負けるでしょうし。
「あの、この人達を拘束してもらえませんか?」
そして、私は護衛の冒険者に向けて、そう言いました。人を拘束する事なんてやった事ありませんし、難しそうですからね。そもそも、私の仕事ではありませんし。依頼を受けている人の仕事ですからね。これ以上私が頑張る必要はありません。
「うおおおぉぉ!すげえぇ!!!」
「勇者カーラ様をも一撃で倒した実力…。本物だ…!最強の剣士だ!」
…いやいや、何をおっしゃっているのでしょうか。なんとか勝てただけで大袈裟です。それに、私のはなんちゃって剣術ですよ?力任せに弾いているだけですし、本物の剣士の方達に失礼だと思いますよ?
「…メイさん、ありがとうございました。俺達の仕事なのに助けて頂いて」
「別に良いですよ。そこまで疲れていませんし」
…何故か、私への言葉遣いが丁寧になっていますね。同じ冒険者だというのに。素直に感謝されるのは嬉しいですが、ちょっと嫌ですね。戦うのは大変でしたが、そこまで感謝するほどではない気がしますし。
…はぁ。
「では、私は戻りますね」
「…あの!大変申し訳ないのですが、残りの道中も手助け頂けないでしょうか? 俺達6人とも少なからず負傷してしまい、2人は戦えそうにありません。もちろん、依頼料は全てお渡ししますので…」
…あぁ。確かに、また盗賊が現れたら大変かもしれませんね。…とはいえ。
「…嫌ですね」
『回復』
「誰も負傷なんてしていないじゃないですか」
私は彼のお願いをきっぱりと断り、断る理由を作りました。また同じような事態になればお手伝いせざるを得ないかもしれませんが、最初から頼られているのは嫌ですからね。次はこんなに上手くいくともかぎりませんし。
「…な⁈ 傷が治っている⁈ これもメイさんが? …凄いです」
「さぁ、何の事でしょう。馬車に聖女様でも乗っているんじゃないですかね」
もし私のランキングが見られていれば、私がやった事がバレるでしょうけど、普通は自分の順位とその前後しか確認しません。まぁ、意欲の高い人は上位との差も確認するでしょうけどね。わざわざ受付嬢さんにお願いしてまで見せてもらう人は少ないでしょう。それに、勇者が乗っているのですから、聖女様が乗っていても不思議ではありませんからね。我ながら良い機転です。
「…メイさんが聖女様である事は、皆知っていますよ」
「…………は?」
……どういう事でしょうか。私の考えを裏切る様に、嫌な情報が聞こえてきましたよ。…聞き間違いでしょうか?…きっとそうです。
「その…。ランキング上位に変動があったと噂になり、多くの冒険者がランキングを確認しました。俺もそのうちの1人です。もちろん、パーティーメンバーにも共有しています」
その言葉に、周りに居た人達も頷き、私を見つめてきます。
「…き、きっと人違いですよ。私はもう戻りますね」
「あっ…、まだお礼を…!」
あー、聞こえません。これ以上聞きたくありません。私の嫌な個人情報がだだ漏れとか最悪です。私は普通の女の子なんですからね。カーラのせいで、ほんのちょっと強くなっただけの女の子です。
…はぁ。早く戻って寝ましょう。
「…全部カーラのせいです」
そして、馬車に戻った私は、寝ているカーラのほっぺたを引っ張り、文句を言いました。これでも起きないカーラは凄いですね。
私は再びカーラの隣に座り、目を閉じました。きっと全部夢だったのです。次に起きた時には何事もなく、晩御飯を食べられる事でしょう。そう信じましょう。




