20話 お給料3倍ですね
ギルドマスターはサクラさんに挑発されてやる気を出したようで、私達は10メートルほど離れて向かい合い、剣を構えました。
「サクラは自信満々の様だが、俺はこう見えてランキング10位なんだ。どうだ、怖気づいたか?」
「そうなのですね」
…ランキング10位は…確か国王様でしたね。ギルドマスターは国王様だったのですか。びっくりです。
…はい、分かっていますよ。国王様なんて偉い人が私の前に居る訳ありません。私なんかじゃ一生お目にかかれない存在ですから。間違いなく、ギルドマスターは元10位ですね。私が2位に入ったので、おそらく今は11位に落ちてしまわれたと思います。
きっと、ギルドマスターは最新のランキングをまだ見ていないのでしょうね。ギルドにとっては重要な情報だと思うのですが、ギルドマスターはそれすら確認できないほどに忙しいのだと思います。尚更、SSランク昇格試験は早く終わらせなくてはなりませんね。時間がもったいないでしょうから。
「なんだ?ビビらねぇのか?自信だけは有るみたいだな」
何だか私を舐め切っているみたいなので、今のうちに始めた方が良さそうですね。さっさと終わらせてあげましょう。
「…いきます!」
そう言って私はギルドマスターに向かって走り出しました。
「なっ⁈ 速っ!」
ギルドマスターは私のスピードに驚いたようですが、もう遅いです。剣技の勝負になって万が一負けてしまっては元も子もないので、早急に終わらせます。相手を傷つけずに、降参させてみせましょう。
『リリィ・ストラ…』じゃなくて、『ゴンザリオン・ストライク』なら簡単に倒せるかもしれませんが、使いません。もしかしたら大怪我をされるかもしれませんし。あれを確実に防げるのはカーラくらいでしょうからね。だから、今回は別の方法です。
私はゴンザリオンを下段に構えて走りながら、ギルドマスターに…。
『攻撃力低下』『防御力低下』『速度低下』
デバフを掛け終えた頃にはギルドマスターは目前で、私は力いっぱいに下からギルドマスターの剣を払いました。
キイィィィィン!!!
…解除。
私はデバフを解除しつつ、ギルドマスターの首元でゴンザリオンを止めました。ギルドマスターの剣は十数メートル先に突き刺さり、私の完全勝利です。剣の腕前なんて関係ありません。
「…ま、参った」
「ありがとうございました」
はい。これでサクラさんのお給料は3倍です。ついでに私はSSランク冒険者です。
「『聖剣』ゴンザリオンか…。いつから『勇者』は2人になったんだ…」
「私は『勇者』ではありませんよ」
カーラと一緒の扱いをされるのは嫌ですね。
そもそも、勇者は1人しか存在し得ません。ギルドマスターもその事はご存知のはずです。褒めているつもりかもしれませんが、全く嬉しくありませんね。
「…カーラ殿とも戦った事があるが、ここまで圧倒的ではなかったぞ。レベルはいくつなんだ?」
「…後でランキングを見てください」
私は今のレベルを口にしたくないので、少し誤魔化しました。ランキングなら、まだギリギリ100レベル台ですからね。それに、今のカーラなら私よりも圧倒的な実力差で勝てると思いますよ。
…あ、ついでにギルドマスターが国王様を自称してしまった事にも気づいてしまうでしょうね。これは、知らないままの方が良いかもしれません。ま、私には関係ありませんけど。
「メイちゃん、ありがとう!100万ゲットよ!」
「メイ凄いよ!あんなのボクでも対処できないよ!」
ふふっ、サクラさんもカーラも私の勝利に喜んでくれています。…しかし、サクラさんは純粋に喜んでいますが、カーラは少し興奮している様に感じます。…カーラから戦いを挑まれない事を願いましょう。対処できないと言いつつも、カーラなら絶対に対処するでしょうし、絶対に戦いたくありませんね。
「サ、サクラ。給料3倍は勘弁してもらえないだろうか…」
「ダメです!私だって給料10年分賭けたんですからね。それに、3倍って言ったのはギルマスじゃないですか。うふふっ!」
お互いに勝ちを確信していた勝負でしたからね。ギルドマスターが少しだけ可哀そうにも思えますが、自業自得です。何も言わなければ給料2倍でしたし。サクラさんを責めた罰ですね。
「じゃあメイちゃん、ランクアップ処理やっちゃうから行こっか!」
「はい」
サクラさんは凄く嬉しそうで、思わず私まで嬉しくなってきました。お給料が3倍になるって事は、今までの数倍贅沢が出来るようになりますからね。私も手持ちのお金が増えて、お金に余裕がある事のありがたみを感じているところですし、物凄く気持ちが分かりますよ。
♢♢♢
昇格試験が終わり、私達は受付に戻ってきました。
あ、ギルドマスターは呆然とされていたので置いてきてしまいましたよ。私とカーラはサクラさんの味方ですし、サクラさんが妥協しない限り、賭けが覆る事はありませんからね。
「メイちゃん、SSランク昇格おめでとう。そして、改めてありがとう!」
「はい。どういたしまして」
サクラさんは、これから貰える100万カーラと、お給料3倍が嬉しくてたまらないみたいです。SSランクに昇格は別に嬉しくありませんし、急いで受ける必要も無かったのですが、結果としては良かったですね。
「メイ、まだ残ってたよ!」
「あ、良かったです」
カーラは戻ってくるなり依頼書を確認しに行っていたので、よほど行きたかったのでしょうね。今朝は受ける事が出来なかった依頼ですが、私もSランクを超えたので一緒に行く事ができる様になりました。
まぁ、そもそもSランク以上が条件でしたし、受けれる人なんて殆どいませんけど。私はこれを受けるためにSランクにさせられたのですから、残っていて良かったです。
「フェンリルの毛皮の納品依頼ね。受注しておくわ」
「じゃあ、行ってくるね!」
「行ってきます」
そして、サクラさんに『いってらっしゃい』とにこやかに手を振られ、私達はギルドを出て行きました。依頼書のフェンリルは怖いですが、私には関係ありません。SSランクになったからといって、私は戦いませんからね。不要ですけど、経験値だけ頂きに行きます。
…あ、もちろんカーラと戦って得られる経験値ですよ。『カーラvsフェンリルと私』です。




