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デバフ勇者と堕天使  作者: 畑田 紅
1章
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2話 レベルアップが止まらない

 

 今日、ずっと共に旅をしてきた仲間にクビだと言われ、それを勇者カーラ様に聞かれていました。


 美しく長い赤い髪、そして誰もが憧れるような綺麗なお顔の勇者様は、まるで獲物を見つけた盗賊みたいな目付きで私に求婚してきました。訳が分かりません。


「え?…あ、ごめんね。まだ会ったばかりだもんね。少し気が焦ってしまったみたいだ」


………あれ?私、女性同士では結婚できないって言いましたよね?


「……えっと」


「ボクと一緒に来てほしい。ボクはお嬢さんと一緒に居たいんだ」


 ……やはり、私の言葉は伝わっていないみたいですね。プロポーズのような事を言われている気がしますし。


 ですが、なぜ勇者様が私なんかをパーティーに誘うのでしょうか?私は勇者様と比べると弱いでしょうし。…まぁ、そんな事は考えても一向に分かりませんが、今すぐに決断する必要がある事は分かります。


 私に迫られた選択は2択です。勇者様から頂いた袋の中を見て、もの凄く喜びながらギルドを出て行った仲間を追いかけて説得するか、勇者様に付いて行くか。…考えるまでもありませんね。


 彼らは勇者様から何かが入った袋を受け取り、私を置いて行きました。その時点で私を仲間から完全に排除したと見るべきでしょう。それに対し、勇者様は世界をお救いになった英雄です。誰よりも強く優しいお方。言動や表情はおかしいですが、それを差し引いても勇者様は素晴らしいお方です。…きっとそうです。


「…えっと。私なんかで良ければ、どうぞ仲間にしてください」


「やった!ありがとう!よろしくね」


 私がそう言うと、勇者様はまた、獲物を見つけた盗賊みたいな笑顔で微笑みました。…もしかしたら、勇者様は笑うのが下手なだけかもしれません。誰にだって苦手な事くらいありますからね。


「はい、よろしくお願い致します。私の事はメイとお呼びください、勇者カーラ様」


 すると、勇者様の不気味な笑顔は消え、ムッとした顔つきになられました。


「その呼び方はやめて欲しいな。名前に様付けされるのは嫌いなんだ」


 変なことを気になさるのですね。…流石に私なんかが軽々しくお名前を呼び捨てる訳にはいきません。お名前にさん付けするのも馴れ馴れしいですよね。まあ、無難にこれしか無いですね。


「では、勇者様とお呼び致しますね」


「…ま、いっか。よろしくね、メイ!」


 勇者様はそう言うと、美しい微笑みを私に向けました。なんだ、ちゃんと笑えるのではないですか。


 …では、先ほどまでの不気味な笑みは何だったのでしょうか。…なんだか嫌な予感がしますが、もう後戻りはできません。…考えるのは止めておきましょう。



 ♢♢♢



「勇者様、どちらに向かわれるのですか?」


 私達は今、森の中を歩いています。勇者様はパーティーを組んですぐに『試しに行こう』と言い、私を連れ出しました。なので、これから私の実力を見るのだと思います。勇者様を失望させ、組んだ初日にクビにさせられないと良いのですが。


「んー。適当な魔物と戦おうと思ってね。あ、丁度良いのが居たよ」


 勇者様がそう言われたので、視線の先を見てみると……何も見えませんね。勇者様には何が見えているのでしょうか。


 私が首を傾げていると、勇者様は続けてこう言いました。


「あの山の上だよ。見えないかい?」


 そう言われて、遥か先の山の上を見てみると、何かが居るのが分かりました。この距離から確認できる生物。…考えたくありませんね。


「さっ、行くよ。ちょっと掴まっててね」


「えっ?ちょっと、待っ…!!」


 そして、私は抵抗する暇も与えられずに勇者様に抱きかかえられました。…あぁ。なんて速いんでしょう。こんなスピードを味わうのは人生で初めてです。


 私は勇者様に抱きついたまま、何もすることが出来ずに風になりました。


「さあ、着いたよ。じゃあ戦おっか」


 私の目の前に居るのは、紛れもなくドラゴンと言われる生物。Sランクの魔物です。私なんかが相手にして良いような生き物ではありません。今すぐに逃げ出したいです。きっと何かの間違いですよね?


「…念のために確認するのですが、あれと戦うんですか?」


「そうだよ。あのトカゲは、ほんのちょっとだけ他の魔物より強いからね」


「…そうなのですね」


 どうやら、私がドラゴンだと思った生物は、ただのトカゲだったみたいです。まぁ、私はドラゴン(実物)を見た事がなかったので、勘違いしても仕方の無い事ですよね。


 ………ふぅ。


 現実逃避はこれくらいにしておきましょう。いくら私が無知だとしても、あの生物がドラゴンだという事くらいは分かりますよ。


 ……はぁ。ドラゴンはとんでもなく恐ろしいですが、あの生物がトカゲに見える勇者様は、もっと恐ろしいのでしょうね。どういう見方をすれば、ただのトカゲに見えるのでしょうか。


「じゃ、早速だけどデバフ掛けてみて」


 勇者様はそう言うと、不気味な笑みを浮かべて、私の前で両手を広げました。…まるで自分にデバフを掛けろと言わんばかりに。


「…まさかとは思いますが、勇者様に掛けるんですか?」


「そうだよ?その為に仲間になったんだ」


 ………少しだけ頭の中を整理する時間をください。


 勇者様はデバフというのが何か分かってないのでしょうか?…そんな訳ありませんね。私と元仲間の会話と聞いていた様ですから。


 では、勇者様はドラゴンに殺されたいと思っているのでしょうか?…いや、もし死にたいと思っていてもこんな死に方を選ぶ理由が考えられません。


 …はい。私なんかが考えても、分かる訳がありませんね。ここは言われた通りに致しましょう。考えても無駄ですね。


「分かりました。私が使えるデバフ効果は、攻撃力、防御力、速度の低下です。どれを掛けますか?」


「全部!出来る限り強力にね」


 はい。さらに訳が分かりません。自分で言うのもなんですが、私のデバフは結構強力です。元仲間が言うように、オークなどの魔物がスライムレベルに感じるほどに。


 いくら勇者様といえども、その状態でドラゴンと戦うなんて死にに行くようなものだと思います。


「…危ないと思ったら解除しますからね」


「うん!」


 そして、私は勇者様にそれぞれのデバフを掛けました。『攻撃力低下』『防御力低下』『速度低下』


「おおぉぉ!!…凄い。力が思うように出ないよ!それにうまく動けないや」


 そして勇者様はそう言いつつも、ドラゴンに向かって駆け出しました。速度低下を掛けているとは思えないスピードです。…私、デバフを掛けましたよね?


「ははっ…!なんて強いトカゲなんだ。まるで何年も前に戦ったドラゴンのような強さだよ。いや、それ以上だ!」


 …あれ?やはり私の知識が間違っていたのでしょうか?その生物はどこからどう見ても最初からドラゴンだと思います。…勇者様がドラゴンだと思っている生物は、いったい何なのでしょうかね。


 グアアアアアァ!!


 そして、暫くしてドラゴンは大きな悲鳴をあげて倒されました。勇者様もだいぶ消耗しているようですが、怪我は無いようです。私がデバフを全力で掛けてもドラゴンに勝てるなんて、信じがたい強さです。


「はぁ、はぁ…メイ!メイのデバフは凄いよ!こんなに効果があるなら、もう少し強いトカゲと戦えばかなり楽しめそうだよ!」


「…そうですか」


 勇者様が言うもう少し強いトカゲ。…きっと、私ごときには縁の無い生き物ですね。


 ピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロン…


「ひゃあ!!」


 そして勇者様が剣を収め、腰を下ろした瞬間、私の頭の中に同じ音が繰り返し流れてきました。


「どうしたの?急に可愛い声をあげて」


「…レ、レベルアップが止まりません」


 ピロンピロンピロン…


 ……これは、どれだけ上がるんでしょうか。そりゃあ、相手はドラゴンですからね。レベルなんて上がりまくりますよね。


「どのくらい上がったの?」


「…32ほど上がりました」


 さっきまで64だった私のレベルが96まで上がりました。レベルは高くなればなるほど上がりにくくなります。それを考慮すると、私の今までの努力や経験は、この数分にも満たないという事でしょうか。少し悲しくなりますね。


「へぇ。そんなに上がったんだ。メイはレベルがかなり低かったんだね」


 …私のレベル、冒険者の中ではそこそこ高い方だと思っていたのですがね。


「勇者様のレベルどれくらいなのですか?」


「今ので1レベル上がったから、284レベルだよ」


 はい。私なんて勇者様に比べれば、スライムの核レベルで小さな存在でしたね。吹けば転がるレベルです。自分が高レベルだなんて思っていたのが恥ずかしくなってきました。


「でもさ、そんなにレベルが上がったって事は、デバフの効果も上がるよね!」


「…そうですね」


 ……勇者様は、さっきの激しい戦いですら物足りなかったと言っている気がします。…気のせいですよね?


「掛けてみてよ!」


 ………気のせいではなかったみたいです。


「…分かりました」


『攻撃力低下』『防御力低下』『速度低下』


 さて、どのくらい効果が上がったのでしょうか。私のレベルが上がったので、さらに勇者様を弱くできたはずですが………。


「…メイ。動けない」


「…え?」


 勇者様が振り下ろす剣を見ると、明らかに動きが遅くなっている気がします。先ほどはドラゴンに勝るとも劣らないスピードでしたが、今の勇者様は私でも目視できるくらいのスピードに感じられます。


「メイ、さっきは手加減してたりした?」


「いいえ、全力で掛けました」


 こんなにも強力になるなんて、掛けた私でさえ信じられません。


「…速度低下は無しにしようかな。こんなにも動けないと楽しめなさそうだよ」


「では解除しますね」


 ふふっ、勇者様の悔しそうなお顔をいただきました。ありがとうございます。先ほど低ランク呼ばわりされたので、少しだけ嬉しいです。



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