19話 ゴンザリオン
「あら、随分と早かったわね」
私達は、ドラゴンとロンリーウルフの魔物を狩れた後、ギルドに戻ってきました。そして、サクラさんがこう言うのも納得で、私達がギルドを出てから1時間程しか経っていません。
「カーラが直ぐに見つけてくれましたから」
「メイが一撃で仕留めたからね!」
はぁ。本当に、カーラは余計な事を言いますね。これでは、私が余裕で高ランクの魔物を倒したみたいではありませんか。あんなにも苦労したというのに。それに、この発言だけ聞くとお互いに褒めている様に聞こえてしまうではありませんか。まぁ、サクラさんならカーラの言葉を真に受けたりしないでしょうけど。
「ふぅん。カーラを一撃で倒せるんだから、それくらい当り前でしょ。取り合えず裏に行こっか」
…あれ?…おかしいですね?サクラさんに誤解されている気がします。何故か、私ならやりかねないと思われたみたいです。
ですが、完全に否定する事は難しいですね。残念ながら、サクラさんの目の前でカーラを倒した過去は事実ですから。…全部、カーラのせいですね。
♢♢♢
私達はサクラさんに付いて行き、一昨日も入った倉庫にやってきました。まだ何の魔物を倒したのかを伝えていないというのに、大きい倉庫に案内されるなんて不思議ですね。この倉庫が必要になるなんて、ドラゴンみたいな大きい魔物を倒して来た時くらいですよ?サクラさんは、本気で私がドラゴンレベルの魔物を倒してきたと思っているのでしょうか?
…まぁ、何故か実際に倒せてしまったので、文句は言えませんけど。
「…え?…ドラゴンの首元にのみ剣の刺し傷?この高さまでジャンプして突き刺したの?」
「……えっと」
…サクラさんが驚くのは至極当然です。私の身長では、到底ドラゴンの首元に届きませんからね。 まぁ、実際は転んだ拍子に剣が飛んで刺さっただけなんて、恥ずかしいので教えませんけど。
「ちょっと待って。ロンリーウルフの胴体に穴が開くなんて、どんな攻撃したのよ!」
「……苦労しました」
不思議ですよねぇ。また変な誤解をされそうなので、詳細は黙っておきましょう。
「………はぁ。まあ良いわ。メイちゃんは剣も使えたのね。 …って、その剣は『聖剣』ゴンザリオンじゃないの!懐かしい。カーラから借りたのね」
「…え?ゴンザリオン?」
サクラさんは何をおっしゃっているのでしょうか。この子はリリィフラワーですよ?
「あら、知らずに使っていたのね?その剣は初代勇者、レズリア・ゴンザレス様が使用した愛剣。代々勇者に受け継がれる『聖剣』ゴンザリオンよ」
「…え?リリィフラワーじゃ…」
カーラは間違いなく『聖剣』リリィフラワーと言いましたよね。…まさか、カーラは嘘の情報を私に教えたという事でしょうか。…『リリィ・ストライク』なんて技名考えたのが馬鹿みたいじゃないですか!
「あぁ、カーラはそう呼んでいたわね。カーラ、貸すんなら正しい名前を教えなさいよ」
「えー、リリィフラワーの方が良いじゃん」
…あぁ、なんて自分勝手なお方なのでしょうか。正式な名前がある『聖剣』だというのに。自分の好みがあるのは結構ですが、私を巻き込まないでほしいです。恥ずかしい思いをするのは私なのですから。
「ま、カーラがどう呼ぼうとどうでも良いわ。とにかく、メイちゃんは聖剣を使いこなしたって事よね。凄いじゃない!」
「…え?…あ、はい」
…うぅ。またしても、サクラさんに過大評価されてしまった気がします。…まぁ、そんな事は置いておいて、早い段階で正式名称を知れて良かったと思いましょう。恥をかく前に教えてもらえて本当に良かったです。
「じゃあ、素材の買取り査定とメイちゃんのランクアップ処理しておくわ。ロビーで待っててね」
「はい。よろしくお願いします」
♢♢♢
「カーラ、聖剣は返した方が良いでしょうか?」
ロビーに戻ってすぐ、私はカーラに質問しました。カーラは私に聖剣を渡した時に、『あげる』と言いましたが、先ほどサクラさんが聖剣を貸したと言われた時に否定されませんでしたからね。やはり、あの時は言い間違えただけで、返すことを前提として貸したのかもしれません。
「え?あげるって言わなかったっけ?もうリリィフラワーはメイの剣だよ」
「…そうですか。でも、予備に持っていた方が良くないですか?」
聖剣を予備と言うのは聖剣に失礼かもしれませんが、事実として長い事使われていなっかった様なので、カーラにとっては予備なのだと思われるのですよね。
「大丈夫だよ。予備は他に何本もあるからね。それに、聖剣と同じくらい凄い剣もまだ持ってるんだよ」
…さすがお金持ちですね。予備が複数あるだけではなく、聖剣レベルの剣も他に所持しているなんて。…ですが、宝の持ち腐れに感じてしまいますね。私と出会わなかったら、死ぬまで聖剣もアイテム袋に入れたままだったかもしれませんし。
だからといって、『聖剣』を簡単に手放すというのは『勇者』と思えない行動ですね。ま、こんな凄い剣を持っていれば、いざという時の私の生存率が向上するはずなので、文句は言いませんけど。
「では、ありがたく使わせて頂きます。ですが、必要になったら言ってくださいね。すぐに返しますから」
『聖剣』は『勇者』の剣なので、一応言いましたが、きっと返すことは無いでしょうね。魔王相手にも使う気が無い時点で、カーラが聖剣を使うほどの相手は存在しないでしょうし。
「メイちゃん、おいで」
おっと、呼ばれましたね。きっと大金になったでしょうし、それだけは楽しみです。
「先ずは、素材代2120万3000カーラ。そして、Aランクのロンリーウルフ、Sランクのドラゴン討伐でSランク冒険者に昇格ね。おめでとう」
「ありがとうございます」
あまり嬉しく無いですが、これで無事に私もSランク冒険者です。あ、お金はもちろん嬉しいですよ。大金ですからね。しかも、私が倒してしまった魔物なので、遠慮せずに全額いただけます。
「もう今からギルマスと試合しちゃう?」
「良いんですか?まだ予定までかなりありますけど」
予定では午後からだったので、まだ4時間ほどありますね。私的にはこのまま受けたいですけど。人間相手ならそんなに怖くないでしょうし、早く終わらせたいです。長く待たせるのはカーラにも悪いですからね。
「大丈夫よ。じゃあギルマス呼んでくるから、闘技場で待っててね」
「はい。分かりました」
こちらの都合でギルドマスターの予定を変更して頂くのは申し訳ない気持ちもありますが、ありがたいですね。ギルドマスターはお忙しいでしょうから、できるだけ早く終わらせて、あまり迷惑をかけない様にいたしましょう。
♢♢♢
ギルドの裏には、冒険者が訓練や試験を行う際に使われる闘技場があります。私がここに来るのは、冒険者登録試験以来です。およそ1年半ぶりですね。ここでザック達と出会って、そのままパーティーを組みました。懐かしいです。…1年半も共にパーティーを組んだのに、追い出されるのは一瞬でしたけどね。
まぁ、そのおかげでカーラと出会えたので良かったとしましょう。カーラと一緒に居ると辛いことが多いですが、それ以上に良い事がありますからね。さっきだってそうです。たった1時間ほどの狩りで2000万カーラですからね。1年半で私が得たお金の合計よりも多いです。
ザック達はカーラから8700万もの大金を得たようですが、私は追い出されて3日間で約4000万カーラも得ています。ザック達は3人で8700万カーラですから、個人の取り分は既に私の方が多いです。だから、もうあまり恨んでいません。寧ろ感謝してるくらいですね。だからザック達も幸せになってください。あ、でも少しは苦労してくださいね。私も苦労していますから。主にカーラの相手で。
「おまたせー。ギルマス連れてきたわよー」
懐かしい場所で思い出にふけっていると、サクラさんがギルドマスターと思われる人を連れてきました。お会いするのは初めてです。…何というか、ちょっとワイルドなおじさんですね。顔立ちは美形だと思いますが、少しお髭が伸びていて、だらしなく感じます。きっと、身だしなみに時間を使えないほど忙しい人なのでしょうね。
「初めまして、メイと申します。今日はよろしくお願いします」
「…ん?なんだ、サクラ。SSランク昇格試験じゃなかったのか?」
…これは確実に見た目で判断されています。ですが、文句は言えませんね。私がSランク冒険者には到底見えませんから。
「SSランク昇格試験で間違いありませんよ。彼女はSランク冒険者です。強さは私が保証しますよ」
「はぁ、んな訳ねえだろ。こんな幼い娘がSランク冒険者だって?ふざけてんじゃねぇよ!サクラ、適当な仕事してんじゃないだろうな」
…う。少し失礼だと思います。私の見た目は少々…ほんの少しだけ幼いかもしれませんが、私だって一応成人した大人なのですよ?…まぁ、そんな事は今どうでも良いですね。
……どうしましょう。サクラさんが責められています。私が弁明するべきかもしれませんが、私には割って入る度胸がありません。火に油を注いでしまいそうで怖いです。
「ふふっ…。何を言っているんですか?では、こうしましょう。ギルマスが彼女と試合して勝てば、私は誠意を込めて謝罪しましょう。給料10年カットでも構いません。その代わり、ギルマスが負ければ私の給料を2倍にしてください」
「ははっ、良いぜ。何なら給料3倍で臨時ボーナス100万でも構わねぇよ。そら、嬢ちゃん。戦ろうか」
あぁ…。これは、責任重大ですね。絶対に負けれなくなってしまいました。まぁ、負けませんけど。カーラより弱いでしょうし。サクラさんは私を信じて下さっているので、サクラさんを喜ばせるために頑張るしかありませんね。




