16話 殺害予告
「メイ、ここで良い?」
「はい。大丈夫です」
私達は、お昼になったのでカフェでお食事する事になりました。
カーラはサンドイッチとコーヒー、私はパンケーキとりんごジュースです。私も成人しているのでコーヒーを注文したいところですが、まだ私の舌はコーヒーを受け付けません。ですが、何も悲観する事はありませんよ。コーヒーが飲めないという事は、まだ大人になりきれていないという事です。つまり、私の成長期は終わってないという証明ですからね。私がカーラくらいの身長になる頃には、美味しく飲めるようになっているはずです。
……ま、そんな事は置いておいて、帰省する際のお土産について考えなくてはなりませんね。ポチへのお土産以外で、未だに良いお土産に出会えていませんし。様々なお店を回ったのですが、時間が経過していくばかりです。
「はぁ、なかなか決まりませんね」
「そうだね。ほんと、贈り物って難しいよね。ほとんど喜ばれないし」
……え?
…そういうものなのですか?贈った事も貰った事もあまりないので確証はありませんが、そんな事はないと思います。
「…カーラは誰かに贈り物をしていたのですか?」
「…うん。ソフィーやサイコスと仲良くなりたくて結構渡してたんだけど…ソフィーは毎回嫌そうな顔をして受け取るんだよね。サイコスなんて中身を確認せずにアイテム袋に入れちゃうし…」
「そ…そうなのですね」
いやいや、ソフィー様は絶対に喜んでいますよ。絶対にです。数分しかお会いしていませんが、私には分かります。おそらくですが、サイコス様も照れてらっしゃるだけでしょうし。
「だから、今回サイコスにお土産を贈っても、どうせアイテム袋に入れられるだけなんだよ。…でも、メイのご家族に贈るならそうは言ってられないからね。絶対に喜んでもらわないと!」
「…そ、そうですね」
これは、絶対に喜んでもらえるお土産にしなくてはならなくなりました。カーラに、お土産を贈った相手が喜ぶ姿を見せたいですし。
…はぁ。なんだかハードルが上がってしまいましたよ。私はもっと軽い気持ちでお土産を買っていくつもりだったのですけどね。頑張りましょう。
そして私達は昼食を食べ終え、再びお土産を探しに行きます。あ、支払いはカーラが何も言わずに自然としてくれましたよ。カーラは基本的に優しいですからね。…もちろん、自分の分は自分で払えと言われれば、ちゃんと払っていましたよ。カーラがそんな事を言うとは思えませんけど。
♢♢♢
「あ、このお店に入ってみましょうよ」
お昼ご飯を終え、何軒か見て回った後に暫く歩いていると、私は雑貨屋さんと思われるお店を見つけました。今までは王道なお店を回りましたが、案外こういうお店の方が掘り出し物があったりするんですよね。
「おぉ!良いのが見つかりそうな気がするよ。あ、メイ!これなんてどうかな?」
どうやら、お店に入ってすぐにカーラが何かを見つけたみたいです。
これは……無駄に装飾の凝った長剣ですね。何とも使いにくそうで、邪魔になりそうですよ。それ以前に…。
「私の両親は農家です。使わないと思いますよ」
「え⁈ メイのご両親なのに強くないの?」
何故そう思ったのでしょうか。私だって昨日の朝まではそこそこのレベルだったんですからね。…今はバケモノレベルですけど。
…まぁ、でも、お母さんは一般的に見れば強いかもしれませんね。私が実家に住んでいた時には一度も勝てませんでしたし。全力で逃げても捕まえられて怒られてしまうのですよね。何故か私のデバフも効かないですし。
とはいえ、残念ながら今では負ける方が難しいでしょうね。怒られても逃げなくてすみそうです。数日前だったら勝てなかったかもしれませんけど。
「私の両親は普通の農家で、40レベルくらいだったと思いますよ」
「…そうなんだ。もしかしたら、お手合わせをお願いできるかもと思っていたのにな」
…娘の前で両親の殺害予告とは大胆ですね。もしもの時は私が命がけで阻止しないといけないではありませんか。
あ、もういっその事、私の村に入る時はデバフを掛けっぱなしにするべきですね。それが良いかもしれません。カーラには、それくらいが丁度良いですよ。
「じゃあ、これなんて良いんじゃない?絶対に役に立つよ!」
はぁ。今度は何でしょうね。期待せずに見てみましょう。
「…えっ。それは…」
「アイテム袋だよ!農家なら役に立つと思うよ」
…どうしましょう。カーラが一切の文句も言えないものを見つけてしまいましたよ。私が欲しいくらいです。農家なら絶対に欲しい物ではありませんか。
……どうして私はカーラより先にアイテム袋に思い至らなかったのでしょうか。…いや、高価すぎてその選択肢が浮かばなかっただけですね。普通の人が手にできる物ではないですし。
私は先ほどもカーラのアイテム袋に七聖龍の骨を入れてもらったばかりですし、その便利さは昨日今日で十二分に体感していたのですけどね。…はぁ。
「凄く良いと思います。…おいくらですか?」
「んー、980万だって」
あぁ、私でもギリギリ買えてしまいますよ。もう私が何を買っても霞んでしまいますね。…もうカーラだけで私の実家に行けば良いんじゃないでしょうか。
「これにメイからのお土産を詰めて贈れば喜んでもらえるよね!」
「…カーラ」
どうしてでしょう。カーラが凄く素敵な人に見えてきました。私の目が腐り始めたのでしょうか?
…これ以上見ていると変な気持ちになりそうなので目を逸らしましょう。
「おや?」
カーラから目を逸らすと、逸らした先に…。
「これ良いと思いませんか?」
「わぁ、綺麗な花瓶だね!さすがメイだよ。良い物を見つけるね」
有っても無くても困らないけど、有ると何故か幸せを感じられるもの。こういうもので良いんです。良い物が見つかりましたよ。実用性も大事ですが、お土産とは本来このくらいで良いんですよね。…良いんです、良いんです。…ですが、やっぱり私が貰うとしたらアイテム袋の方が嬉しいですね。…いつかこっそり買いに来ましょう。
「じゃあ、会計に行こうか」
「…カーラ、私に半分出させてください。…お願いします」
別に、カーラの贈り物の方が良すぎで私の贈り物が喜ばれないと思った訳ではありませんからね。私の両親への贈り物なのに、カーラにとんでもない大金を出させるのが忍びなかっただけですから。
「そうだね。一緒に贈るからそれが良いね!じゃあ、その花瓶も半分はボクが出すね!」
あぁ、カーラが私の気持ちに気付いていないみたいで良かったです。ありがとうございます。そして、ごめんなさい。私は恥を承知で頼みました。
そして私達は代金を半分ずつ、アイテム袋の代金490万カーラ、花瓶の代金2万カーラをそれぞれ出し、会計を済ませました。その後、私はカーラから60万カーラを受け取りました…。七聖龍の骨の代金の半分ですね…。
…ごめんなさい。本当にごめんなさい。
それから私達は花瓶をアイテム袋に入れ、七聖龍の骨を買ったアイテム袋に移しました。あと、適当にお酒を沢山買って入れました。お父さん用です。
そして、予想以上に時間がかかってしまったので、もう今日はそのまま家に帰ることになりました。
当初の予定ではギルドで依頼を受けるつもりでしたが、全然予定と違う一日になりましたね。神官様に呼ばれ、カーラと一緒に買い物をする事になるなんて、昨日の私では想像もできなかった事ですよ。
…まぁ、一昨日の私に『カーラとパーティーを組んで、ランキング2位になる』と言う方が絶対に信じられないでしょうけどね。
さあ、何はともあれ、今日の晩御飯も楽しみです。そして今日は絶対に枕なげをせずに寝ます。私は学習しましたからね。枕投げをすれば、レベルが上がって目立ってしまうという事を。




