7話 私が悪い
「キャルシィさん、遅いですよ!」
ギルドに着くと、1人の受付嬢さんが立ち上がり、大声で叫んできました。確か、キャルシィが指導している、受付嬢のラムさんですね。なんだか疲れた表情で、キャルシィに近づいてきます。
「……何かあったの?」
「ありました! すっごく大変でしたよ!」
…なんだか、トラブルみたいです。やはり、受付嬢さんは大変ですね。そしてキャルシィは凄く頼られているのですね。誇らしいです。ギルドマスターに推薦される訳ですよ。さて、どんなトラブルなのでしょうか。カーラが関わっているトラブルでない事を祈りましょう。
………いや、ちょっと待ってください。寧ろ、カーラ関係のトラブルの方が良い気がしてきました。まさかとは思いますが、ランキングが原因だったりしませんよね? 私のレベルとか、初代魔王さんとか…。ソフィーちゃんが新しいランキングをギルドに送っている可能性は十分に考えられますからね。それについての問い合わせが沢山あって、ギルドが忙しいとか……。
……かなり不安になってきました。お願いです、ランキングが公表されていませんように。今回だけは、カーラが何をやらかしていても怒りませんから。…いや、ちょっとしか怒りませんから。
そう祈りながら、私は掲示板にランキングが貼られていないか確認しました。
…………。
…貼られて…いませんね。それに、私たちに注目している人も少ないです。もし、ランキングが広まっているなら、絶対に今以上に注目されますからね。特に、魔族さんから。ふぅ、少しだけ安心しました。
……というか、注目以前に、人が少なすぎませんかね?いくら早朝ではないとはいえ、少なすぎる気がします。……たまたまですよね?
………何だか、かなり不安になってきました。もしかして、本当に大変なトラブルだったりしませんよね?
「えっと、とりあえず落ち着いて。対処は終わったの?」
「はい! レイラさんが助けてくれました!」
おぉ!良かってです。要らぬ不安でしたね。
どんなトラブルかは分かりませんが、流石レイラさんです。そんなレイラさんが補佐してくださるから、キャルシィもギルドマスターになる事を承諾したのでしょうね。
「どんなトラブルだったの?」
「キャルシィさんの事についてです!」
「……え? …私?」
おや? これは、どういう事なのでしょうか。キャルシィがトラブルの原因だなんて、そんな事あり得ます?キャルシィは、とても優秀で、皆に慕われている、私の自慢の妹ですよ?
…これは、誤解がある可能性がありますね。きちんと確かめなくてはなりません。
「ラムさん、キャルシィが原因とは、どういう事ですか?」
「あ……。…えっと、原因というか、キャルシィさんが今日の朝に居なかったので、それが、その」
………おかしいですね。 ……何故でしょうか? 何だか、少し怯えられている気がします。私に怯える要素なんて、全く無いと思うのですけどね。
そんな事を思いながらも、何だか悲しくなってきたので、一歩後退り目を逸らすと、私はキャルシィがいつも居る席に張り紙がある事に気付きました。
「ん? 何ですか、これ?」
「……何これ」
私がそう言うと、キャルシィも気付いた様で、張り紙を見ました。その張り紙には、今日キャルシィが冒険者登録をする事が記載されていました。
「あ、それはレイラさんが準備してくれたんです! それを貼るまで、私、何回も何回もキャルシィさんの事について聞かれたんですよ。すっごく大変でした!」
あー。キャルシィが急に休んだら、皆が心配するのは当然ですよね。キャルシィは間違いなく人気者でしょうし。何せ、私の自慢の妹ですからね。私の!
「……え? でも私、ちゃんと出勤表を休みって書き直したけど」
おや?キャルシィは自分の人気度合いを理解していないみたいですね。キャルシィが休みだというだけで、皆が心配するのですよ。
「……キャルシィさんが休みって事が重要なんですよ」
ほら!ラムさんも私と同じ考えに至っていますよ!というか、キャルシィ以外は、みんな同じ考えに至っていますよ!
「…私が知る限り、キャルシィさん一度も休んだ事ありませんし」
「ゔぇ!?」
……え?
………ちょっと待ってください。
…………そんな事あり得ます?
「キャ、キャルシィ。本当なのですか?…い、今まで、一度も休んだ事が無いのですか?」
「え? はい。サクラさんがギルドマスターになってからは、一度も休んでいませんね」
あぁぁぁぁぁ。何という事でしょうか。そんなのあんまりですよ。
「どういう事ですか、サクラさん!!」
「え? ……私も休んでいなかったわよ?」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。ダメですよ、これは!! こんな事、あり得ません!あってはならない事ですよ!ギルドマスターは休めない。サクラさんが休まないからキャルシィも休まない。そして、今度はキャルシィがギルドマスターになるから休めない!
……これは、ギルドマスターになるなんて止めさせるべきですね。というか、もう受付嬢も辞めるべきですよ。どうしてキャルシィは、こんな地獄みたいな職場で働き続けているのでしょうか。
………あ。
…………いやいやいや。確かに、受付嬢になるように勧めたのは私ですが、辞めるのはキャルシィの自由ですし。ですが、キャルシィは責任感が強いですし、私が勧めたから辞めたくても辞められずに……。
「……キャルシィ、ごめんなさい」
「にゃ⁈ どうしたんですか、急に」
っと。急に謝っても分かりませんよね。
「キャルシィが、休みすら取れずに働いていたなんて、私、知りませんでした。…私が受付嬢にならないかと言ったせいです。…ごめんなさい」
「いや、休みを取れなかった訳ではなくて、取る必要が無かっただけですから!」
……あー。キャルシィは優しいですね。どう考えても、私が悪いというのに。
キャルシィが休みを取る必要が無いと考えるのは私のせいです。私が魔族であるキャルシィを『魔王』であった立場を利用し、知り合いの居ない人族領に連れてきた訳ですし。
その上、私は天界に行き、キャルシィを放置。そうなればキャルシィが頼れるのはサクラさんだけになり、サクラさんが休まないなら、キャルシィだけ休んでも、やる事が無い。そんな事、少し考えれば分かる事ではありませんか。
……最低ですね、私は。とんでもない罪を犯してしまいました。




