15話 雷龍の骨
私達は神官様と別れた後、王都で買い物をする事になりました。何故かというと、サイコス様に何かお土産を買っていくように神官様に言われたからです。カーラは乗り気ではありませんけどね。
♢♢♢
「魔王を倒しに行くだけなんだから、ボクとメイだけで大丈夫だよ」
「あらあら、カーラちゃんは良くてもメイちゃんを守る役が必要よ。聖女に護衛も付けずに魔王の前に連れて行く気なのかしらねぇ」
これは、神官様のおっしゃる通りですね。『聖女』は支援職なのですから、戦闘時は後ろで眺める役割です。普通はパーティーメンバーが守ってくれますが、カーラは魔王討伐に集中して私の事なんて気にかけないと思います。そうなると私が無防備になってしまうので、私を守ってくださる方が必要ですよね。私は戦えないですし。
「ふふっ、メイに護衛なんて必要無いよ。メイはボクより強いんだから!」
…いやいや。何をおっしゃっているのですかね、カーラは。私を過大評価しすぎですよ。カーラには伝えていませんが、私のスキルには制限もありますし。
それに、私には自衛の手段が無いんですよ?いくら私のレベルが上がったとはいえ、相手が大勢だったら逃げ切れるか分かりませんからね。私は捕まって殺されるかもしれません。
「あらあら。確かにメイちゃんは強いかもしれないけど、もしかしたら物凄く強い魔王が誕生してしまうかもしれないのよぉ。結果的に必要なかった事になるかもしれなくても、必ずサイコスちゃんも一緒に行ってもらいますからねぇ」
「…うー。せっかくメイと2人きりだと思っていたのにー!」
ふふっ。やはり神官様は凄いですね。 駄々っ子を簡単に対処する事なんて、神官様にしかできないと思いますよ。
「カーラちゃん。サイコスちゃんは命を掛けて戦ってくれた仲間なのよぉ。2人で行くより楽しくなるかもしれないわ」
「…でも、ボクはサイコスに嫌われてるし」
…あぁ。そういう事ですか。だから頑なにサイコス様と同行する事を拒んだのですね。
……ですが、本当に嫌われているんでしょうか?ソフィー様に対しても同じ事を言っていましたし、信用できませんね。
「ふふっ、あらあら。なら仲直りしないといけないわねぇ。カーラちゃん、サイコスちゃんにお土産を買っていったら喜ぶと思うわ。絶対に準備するのよぉ」
「…えぇ」
…はい。私は神官様の表情を見て確信しました。カーラはサイコス様に嫌われてはいません。命掛けれますね。
♢♢♢
という訳で、サイコス様へのお土産を探しています。
そして、せっかく王都に来ているので、今日買っておこうという事になりました。王都と言うだけあって、いろいろなお店が並んでいますからね。カーラのアイテム袋に入れておけば、邪魔にはなりませんし。私が購入した分も入れておいてもらうつもりです。
「カーラはサイコス様に何を買うか決まりそうですか?」
「…何を贈れば良いか分かんない。あ、そうだ!メイが買っていってよ。その方がサイコスも喜ぶはず」
…ん?どうして私が会った事もないお方に買わないといけないのでしょうか。私にそんなお金の余裕は…ありますね。そういえば昨日、大金を貰いました。だからと言って、買うつもりはありませんけど。
「嫌ですね。私はサイコス様の事をよく知りませんから。それに、私は実家に居る家族に買っていきますからね。そちらにお金を使いたいです」
「え⁈ メイはケルディ領出身なの⁈ じゃあ、いろいろと挨拶に行かないといけないね」
……いろいろ?
…何を挨拶する気なのでしょうか。普通に紹介するだけで終われば良いのですが、カーラだと心配ですね。
「それとボクもメイの家族にお土産を贈りたいな!何が良いかな?」
あれ?どうしてカーラが私の家族にお土産を買おうとするのでしょうか。まぁ、勇者であるカーラから貰えるなら、喜ばれると思いますけど。ですが、その前にやる事があるでしょうに。
「カーラはサイコス様へのお土産を頑張って選んでください」
「…うー。よし、じゃあ買ってくる」
そう言って、カーラは近くの店に入って行き、凄く高そうな壺を買ってきました。
…はぁ。一体いくらしたのですかね。店の中から『一番高いやつちょうだい』と言うカーラの声が聞こえてしまいましたよ。絶対にヤバイ壺ですね。
いくらなんでも選び方が適当すぎると思うのですが、本当にそれで良いのでしょうか。まぁ、私には関係ないですね。きっとサイコス様なら喜んでくれますよ。私なら絶対に要らないですけど。
「よし!じゃあ、メイの家族へのお土産探そう!メイは何を買う予定なの?」
…切り替えが早いですね。カーラにとっては、お店で一番高い壺さえも大した物ではないという事なのでしょう。私とは生きる世界が違います。
ま、気にしても無駄ですね。私は家族に喜んでもらえれば十分ですし。
…とはいえ。
「何を買えば良いか分からないんですよね。冒険者になってからは初めての帰省になりますし」
「おお!なら良いものを贈らないとね。メイが物凄い冒険者になったって証明にもなるからね」
…何だか、凄く良い事を言われた気がします。そういう考えはありませんでしたよ。確かに、高価な物を贈れば冒険者として成功したと安心してもらえますね。カーラが真っ当な事を言うなんて、不思議な気分です。
ですが、そうなるとお土産選びに苦戦しそうですね。お母さんは装飾品を付けるようなイメージがありませんし、お父さんも……お父さんは適当に高いお酒でも買っていけば問題ありませんね。ポチには…。
「あ、これなんて良いんじゃないでしょうか」
そして私が見つけたのは、巨大な何かの骨。ポチなら喜ぶかもしれません。
「…え。こんなの貰っても邪魔になるだけじゃん」
…適当に壺を買った人に言われたくないですね。少しショックです。
「おっ、嬢ちゃん。良いものに目を付けたな」
すると、店のおじさんが巨大な骨の前で話す私達に声をかけてきました。私の事を褒めて下さったので、やはりおかしいのはカーラで間違いありませんね。
「聞いて驚くなよ。これはあの七聖龍の一匹、雷龍の骨だと言われていたんだぜ。俺ぁ、まんまと信じて入荷しちまったのよ。よくよく考えてみりゃあ、そんな訳ねぇのにな。はははは!……はは」
…………。
「カーラ、心当たりはありますか?」
「…え⁈ うーん、たぶんそうだと思うよ」
はい。本物です。供給した本人から言質取れました。
七聖龍の骨ならポチも喜んでくれますね。お土産にぴったりです。絶対に頑丈ですし、かぶりつくには申し分ないでしょうから。
「これ頂いてもよろしいですか?」
「…え⁈ あ、ああ。だが値は張るぞ。嬢ちゃんに払えるのか?」
値段は120万カーラ。凄く高いですけど、これは買うべきだと思います。私が持っているお金はカーラに貰ったものですし、勢いで七聖龍の骨を入荷してしまったおじさんが少し可哀そうに見えてしまいます。元をたどればカーラのせいですし。
「大丈夫です。購入しますね」
「本当か!いやー、助かった。ありがとな、嬢ちゃん!俺ぁ、朝から女房にも怒られて正直参ってたんだよ。これで女房の機嫌も直る…いや、俺の目利きが間違ってなかったと言い張れるってもんだ!」
そう言って、おじさんは笑顔で代金を受け取りました。120万カーラという事は、入荷額もそれなりでしょうからね。売れそうもない、そんな高いものを入荷してきたら奥さんに怒られても仕方ないと思います。カーラのせい(?)で不幸になりそうだった人が救われて良かったです。
さて、後はお母さん達の分ですね。カーラは何を買うのでしょうか。かなり不安です。




