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2話 条件

 

「ちょ、ちょっと待ってください…。どうして私なんですか?」


 朝からギルマスに呼ばれ、頭を下げられ、私はギルマスを代わってくれないかと言われた。


「…もうキャルシィしか居ないんだ。…頼む」


 そして、ギルマスは更に深く頭を下げ、頼み込んでくる。何が何でも、ギルマスをやりたくないという意思は伝わってくる。


 …だけど、私しか居ないという理由が分からない。受付嬢から選ぶつもりなら、私よりも経験豊富な人はたくさん居るにもかかわらず。


「…どうして私なんですか?私はまだ5年くらいしか働いていないんですよ? 私がやるくらいなら、それこそレイラさんの方が適任だと思いますけど」


「いや、それは無理だ。ギルマスになるには条件があるからな」


 ……条件?


 …その条件を私は満たしているけど、レイラさんは満たしていないって事?


「えっと…条件とは何ですか?」


「あぁ、それは、ギルマスになるにはSランク冒険者相当の実力が必要なんだ。他にもいろいろあるが、その条件がある限り、レイラではダメなんだ」


「……え?」


 ……………あー。そういえば、SSランクへ昇級する条件は、ギルマスと戦って、実力を認められる事だったな。サクラさんがギルマスになってからは一度も昇級試験を受けようとする人が居なかったから、忘れていた。


 このギルドのSランクの人よりも、私はレベルが高いから、私でも出来ると思われてしまったのだろう。…急なレベルアップで実感は無いけど。


「でも、急に言われても、私がギルマスの仕事を出来るとは思えません」


「だからレイラも呼んだんだ。レイラにはキャルシィの補佐をしてもらいたい。レイラも、俺がギルマスをやるより、キャルシィにやってもらった方が良いだろ?」


 ギルマスは、レイラさんを見て、そう言った。


「……そうですね。そっちの方が良いです。キャルシィ、やってもらえない?」


「え⁉︎」


 なんという事だろうか。レイラさんまでも、ギルマスに乗っかってきてしまった。…そもそも、ギルマスの目の前で、私の方が良いと言い切れるレイラさんに驚きが隠せない。本人が言った事だとしても、一応は上司なのだから。


 …と、いうか……。


「それなら、レイラさんにやってもらった方が良いんじゃないですか?メイお姉ちゃんに頼めば、200レベルくらい簡単に上げれると思いますよ?」


「ま、待て待て待て!! それだけは止めてくれ!!


 私が、より良いと思った提案をすると、ギルマスは、かなり焦った表情で身を乗り出し、そう言ってきた。私よりもレイラさんの方が経験豊富だから、そっちの方が良いと思うけど。私が選ばれた理由は、単にレベルが高いだけなのだから。


「ダメですか?」


「…頼むから止めてくれ。…これ以上………」


 私がもう一度聞くと、ギルマスは悲しそうな、辛そうな表情をして、覇気の無い声で答えた。


「…キャルシィ、流石にそれはギルマスが可哀想よ」


「そうだぞ。少しは俺の気持ちも考えてくれ」


「…えっと、、、。…すみません」


 …なんだかよく分からないけど、レイラさんが言うくらいだから、私が悪いのだろう。何か、私の知らない理由があるのだろうと思う。


 …後でサクラさんに聞いてみよう。本人に聞くのは、何だか憚れるし。


 …まぁ、それは置いといて、どうしようかな。


 私がサクラさんみたいに出来るとは思えないけど、私がギルマスになるのは、悪い事ばかりでは無い。このギルドには魔族もどんどん増えてきているし、魔族である私が、人族領のギルマスになる事は、良い起点になるだろう。


 仕事もレイラさんが補佐してくれるなら大丈夫だろうし、いざとなればサクラさんを頼れば助けてくれるだろう。


 …でも、やっぱり私には荷が重い気がする。やりたいとも思えないし。


「……やっぱり私には無理だと思います。すみません」


「いやいやいや!キャルシィは優秀だ!レイラも頼りになる!だから大丈夫だ! きっと、その方が楽しいぞ!」


 …………楽しい……か。


 …確かに、このままゲイツさんがギルマスを続ければ、仕事を回され、ちょっと大変になるだろう。そうなるくらいなら、いっその事、私とレイラさんでギルマスの仕事を引き受ければ、寧ろ気持ち的に楽かもしれない。


 …んー。……どっちを選ぶ方が正解なのだろうか。


 仕事の楽しさだけを取れば、私がギルマスになった方が楽しいかもしれない。でも、その分、苦労する事もあるだろう。


 ………どちらにしろ苦労する気しかしないな。


 …どうしよう。決めきれないな。んー。


「……少し考えさせてください」


「キャルシィ、迷うくらいなら、やっても良いと思うわよ。キャルシィがやってくれる方が、サクラも安心できると思うわ」


「そうだぞ、キャルシィ!俺が続けたら、サクラが安心できないぞ!」


 …サクラさんが安心…か。


 ……何だか、私がギルマスをやりたくなる様に、誘導されている気がする。


 …でも、きっと、レイラさんが言う様に、サクラさんは安心してくれるだろう。それに、メイお姉ちゃんも祝福してくれる気がする。元々、私が受付嬢になったのは、メイお姉ちゃんに命令されたからだから。…出世すれば喜んでくれるかな?


 ……………きっと喜んでくれるはず。


「…分かりました。やってみます」


「本当か⁉︎本当だな! 絶対に撤回させないからな!!」


 ちょっと早計な気もするけど、レイラさんが居るから何とかなるだろう。きっと大丈夫。


「よし!キャルシィ、先ずは冒険者登録して、Sランクになってくれ! 強さの証明には、それが一番分かりやすいからな!」


「……え?」


 …Sランクになるには、最終的にSランクの魔物を討伐しなくてはならない。ギルマスは私がSランクになれる事を確信しているんだろうな。


「レイラ、次の冒険者登録試験はいつだ?」


「えっと…たしか2日後ですね」


 ……2日後か。いろいろと準備しないとな。


「遅いな。…よし、明日もやるぞ!俺が担当する!」


「分かりました」


 ……準備期間は?私の事なのに、勝手に話が進んでいく。


 ………この感じだと、直ぐにSランクになってくれと言われそうだな。…まぁ、サクラさんに協力してもらって経験を積めば、10日くらいでなれるかもしれないけど。


「キャルシィ!明日の朝に登録すれば、明日中にSランクになれるな!それから引き継ぎをして明後日からはキャルシィがギルマスだ!」


「………え?」


 …1日でSランク? 引き継ぎも明日?


 ………いやいやいや、そんな簡単にSランクになれる訳がない。


 …あ、でも、サクラさんは冒険者活動を始めてから5日でSSランクになっていたな。今の私は、その時のサクラさんよりもレベルが高いし、Sランクにならなれるかも?


「よし!これでまた修行に行ける!頼んだぞ、キャルシィ!」


「……はい」


 ………今夜、サクラさんに相談しよう。





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