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メイちゃんが大魔王になるまで  作者: 畑田
6章

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1話 最悪なタイミング

 

「……はぁ」


 ギルドで仕事を始め、少し経った時、私の口から、ため息が漏れた。


「…そんな表情をするなんて珍しいわね、キャルシィ」


 後ろから声が聞こえ振り向くと、そこには先輩受付嬢のレイラさんが居た。


 どうやら、タイミング悪く見られていた様だ。もう仕事中だというのに、私は何をやっているのだろうか。


「…すみません」


「謝る必要なんて無いわ。私も憂鬱だもの。…ま、お互い頑張りましょ」


「…はい。どうしようもないですからね」


 私が、そう答えると、レイラさんは軽く微笑み、私の頭を優しく撫でてくれた。


 辛いけど、辛いのは私だけじゃない。レイラさんも、他の受付嬢の人達も少なからず同じ気持ちだろう。今日からは、この状態が日常になるのだから。…早く慣れないといけないな。


 …まぁ、慣れないといけないと分かっていても、どうして、こうなってしまったのだ…と思ってしまう。少しでもタイミングがずれていれば、こうはならなかっただろうな。


 ……はぁ。



 ♢♢♢



「よう、元気そうだな、キャルシィ。サクラは居るか?」


 朝の忙しい時間が終わり、いつもの様に仕事をしていると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「あ、お久しぶりです。呼んできますね」


「おう、頼む」


 私に話しかけてきたのは。前ギルドマスターのゲイツさんだった。どうやら、久々に帰って来たみたいだ。


 そして、私は仕事の手を止め、サクラさんを呼びに行った。前ギルマスとは特に話す事も無いだろうし。


 コンコンコン


「入って良いわよ」


 ギルド長室の扉を叩くと、中からサクラさんの声が聞こえ、私は扉を開けた。


「ギルドマスター、お客様が来ています」


「あ、うん。直ぐ行くわ。誰が来てるの?」


 サクラさんは、キリの良いところまで進めたいのか、手を止めずに私に尋ねてきた。


 …よく考えてみたら、前ギルマスなんだから、サクラさんを呼びに来るんじゃなくて、連れて来た方が良かったかもしれないな。忙しいサクラさんに、無駄な手間をかけさせる事になってしまうし。


 …失敗してしまったな。


 そう思いつつも、もう遅い事なので、今度からは気をつけようと決め、サクラさんに伝えた。


「前ギルマスのゲイツさんです」


「え! 本当に!? やっと帰ってきたのね!」


 ……ん?


 ………どういう事?


 何故か、サクラさんは凄く嬉しそうにし、直ぐに立ち上がった。私には、サクラさんが喜ぶ理由に全く見当がつかない。


 …寧ろ、前回帰ってきた時は、嫌そうにしていた気がする。…まぁ、それは、前ギルマスの家に私達が住んでいたからであって、今はカーラさんの家に住んでいるから関係ない気もするけど。


 何か用事があったのかな? 


 そして、サクラさんはギルド長室を出て、やや駆け足で前ギルマスの元に向かった。


 ……そんなに急用? ……会いたかったって事は無いだろうけど、どうして嬉しそうな顔をしているのだろうか?


 そう不思議に思いながらも、私はサクラさんに遅れつつ自分の席に戻り、仕事を再開した。


「おう、サクラ。しっかりとやってくれているみたいだな。流石だ」


「そうですね。ギルマスよりはしっかりとやっていましたよ」


 だけど、サクラさん達は私の席の前で会話しているので、サクラさんの、ご機嫌な声が聞こえてくる。


 あまり盗み聞きするのは悪いと思うけど、聞こえてしまうのは仕方のない事だ。それに、サクラさんが嬉しそうにしていた理由が気になる。前ギルマスと久々に会ったからといって、サクラさんはこんなに喜ばないだろうし。


 その疑問が気になり、悪いと思いつつも私は耳を傾けた。もちろん、出来るだけ聞いていない風を装うため、仕事の手は止めない。


 …だけど、次の瞬間、私の手は止まった。その理由は、とんでもない事が聞こえてきたからだ。


『ギルドマスターに敬語を使うのは普通の事ですよ』


 その言葉を聞いた瞬間、私の手は完全に止まり、私は目を見開いて2人を見た。


 ………え?


 …………どういう事?


 ………。


 …ギルマスはサクラさん。サクラさんがギルマスに敬語を使う??



 ♢♢♢



 コツコツコツ…


「おー、キャルシィ。それとレイラも、ちょっと来てくれ」


 私とレイラさんが会話を終えて仕事を再開しようとすると、少しだるそうな声で、私達は呼ばれた。


「…はい」


 レイラさんは、あからさまに嫌そうな顔をしている気がする。朝から、あんなに覇気の無い声で呼ばれたのだから仕方がないと思うけど。


 …はぁ。どうして、ギルマスは帰ってきてしまったのだろうか。


 サクラさんは、メイお姉ちゃんが帰ってくるまでの条件付きで、ギルマスになっていたそうだ。


 そして数日前にメイお姉ちゃんが帰ってきてくれた。


 でも、サクラさんはギルマスを辞めなかった。それは、ありがたい事に前ギルマスが修行の旅に出ていて、交代する事が出来なかったからだ。


 しかし、前ギルマスは昨日帰ってきた。…帰ってきてしまった。


 あと少し早く帰ってきてくれていれば、メイお姉ちゃんが戻ってきていなかったから、再び修行に行っていたと思う。


 それならば、きっと次に戻ってくるまでの数年は、サクラさんがギルマスをやってくれていたと思う。サクラさんは責任感が強い人だから。


 だけど、タイミング悪く、メイお姉ちゃんが帰ってきてくれた数日後に戻ってきたせいで、こんな事になってしまった。


 …ギルマスは悪くない。もちろん、帰ってきてくれたメイお姉ちゃんも悪くない。ちょっとだけタイミングが悪かっただけ。そんな事は分かっている。


 …それでも。


 ………はぁ。


 …………嫌だな。


 声には出さないけど、そんな事を考えながら、私はギルマスに付いて行った。



 ♢♢♢



「…まあ、座ってくれ」


 ギルド長室に入ると、私とレイラさんは椅子に座るようにと指示をされ、それに従った。そして、テーブルを挟んだ向かいに、ギルマスも座った。


 一体、何の話をするつもりなのだろうか。私とレイラさんの2人だけが呼ばれた理由は………。


 ……もしかしたら、私達にサクラさんを説得させて、再びギルマスをやらせようとしてるのかもしれないな。


 …サクラの性格的に、たぶん無理だと思うけど。私とレイラさんが必死に頼めば、サクラさんが落ちてくれるかもしれないと思っているかもしれないな。


 そんな予想をしていると、ギルマスは、ゆっくりと頭を下げ、声を発した。


「…頼む、キャルシィ。…俺の代わりにギルマスになってくれ」


「………え?」


 ……私⁉︎


 …サクラさんじゃなくて?



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