14話 あらあら。
コンコンコン
「どうぞぉ」
私達はソフィー様と別れた後、神官様がおられる部屋に向かいました。そして、柔らかく優しげな声で入室の許可を頂いたので、私はドアを開けました。
「初めまして。冒険者のメイと申します」
私が挨拶をすると、神官様は椅子から立ち上がり上品な佇まいで私を見つめてきました。なんだか品定めされている気分です。
神官様は、かなりお年を召していられるように思えますが、スタイルも良くて可愛らしいおばあちゃんという感じのお方ですね。それに肩まで伸びた白い髪が、とても美しいです。
「あらあら、随分と可愛らしいのねぇ。それにカーラちゃんも一緒に来たんですねぇ」
「お久しぶりです、神官様」
「あらあら、そんなに畏まらなくても良いのよぉ。さ、座って座って」
神官様は凄く物腰が柔らかく、カーラも慕っている様に感じられます。初めてお会いしましたが、とても優しそうなお方で一安心ですね。
そして私達はソファーに座り、テーブルを挟んだ向かい側に神官様が座られました。
「さあさあ、お菓子でも食べて。ちゃんと食べないとカーラちゃんみたいにおっきくなれないわぁ」
「…ありがとうございます」
神官様は、本当にお優しいお方ですね。ですが、私の食事量は心配ご無用です。昨日から沢山食べていますからね。私の成長期はここ半年ほど休憩していたみたいですが、これから大きくなるはずです。あ、もちろんお菓子はありがたく頂きますよ。
「はぁ、可愛い。本当にあなたがメイちゃんなのよねぇ?こんなに可愛い娘が、どうやったらこのレベルに到達するのかしらねぇ」
「う゛……」
…なんという事でしょうか。神官様はランキング用紙を準備されており、テーブルに出してしまいました。私があまり目に入れたくないものです。
…ですが、よくよく考えてみれば、この場所に上位3人が集まってお菓子を食べているというのは凄い状況ですね。魔王もビビッて逃げ出しかねないですよ。…まあ、ここに魔王が現れれば、真っ先に逃げるのは私でしょうけどね。最速でカーラの後ろに隠れる自信がありますよ。
…おっと。そんなことより、なんとお答えすれば良いのでしょうか。おそらくですが、神官様も聖女になる為に努力されたお方です。そして、何代もの魔王と戦い、このレベルまで到達したのでしょう。そんな方に、勇者を倒してレベリングしたなんて言い難いですよね。
「…えっと、カーラとパーティーを組んで魔物などと戦っているうちに上がっていました」
「あらあら。前回のランキングを確認したけど、メイちゃんのレベルは62だったわよねぇ。不思議ねぇ。魔王を10回くらい倒さないと、そのレベルにはならないと思うのだけれどねぇ」
はい。魔王は倒していませんが、カーラなら10回くらい倒しました。凄く的確ですね、神官様は。
「まぁ、無理に言わなくても良いわ。私が知らない効率良くレベルを上げる方法があるってだけだからねぇ」
「…ありがとうございます」
神官様はニコニコと変わらない表情で、お菓子をぱくりと食べています。どうやら、本当にそれほど興味がないみたいですね。凄くありがたいです。神官様に答えを強要されたとしたら、私は答えるしかないですからね。
「じゃあ本題を始めましょうかねぇ。メイちゃん、魔王討伐に行ってもらえるかしら? あ、もちろん嫌ならソフィーちゃんに行ってもらうから大丈夫よぉ」
「メイと行くよ!」
……はぁ。聞かれたのは私だと思うのですがね。私が答えるよりも早く、カーラが答えてしまいましたよ。まぁ、もう諦めてるので行きますけどね。どうせ私は見ているだけでしょうし。
「あらあら、メイちゃんはカーラちゃんに好かれているのねぇ。ソフィーちゃんがちょっと可哀そうねぇ」
「…えっと、カーラは私のスキルが目当てなだけですよ。決してソフィー様を嫌っている訳ではありませんからね」
もしかしたら、この会話を後から神官様がソフィー様に伝えるかもしれないので、ソフィー様ができるだけ悲しまないようにしないといけませんね。ソフィー様に誤解されると、次会った時は更にきつく睨まれそうですし。それに、スキル目当てなのは紛れもない事実ですから、嘘ではありません。
「あらあら、どんなスキルか聞いていいかしらねぇ」
「構いませんよ。私は『攻撃力低下』などのデバフスキルを所持しています。カーラはこれで自分を弱体化させて魔王に挑むつもりなのです」
ま、そんな事をしようとするのは、魔王討伐をイベントとしか思っていないカーラくらいでしょう。もしかしたら笑われてしまうかもしれませんね。
「………あらあら。…カーラちゃん、楽しむのは良いけど、決して魔王を舐めちゃだめよ。今は大丈夫かもしれないけど、数十年後にはそうも言ってられなくなるわ…」
………あ。
……これは失言でしたね。こんな事、このお方の前だけでは言ってはならない内容でした。歴代屈指と言われた先代勇者様を長年支えたお方。そして、魔王討伐で勇者様と大賢者様を失われたお方。そんな相手に魔王を舐めているような発言をするべきではありませんでしたね。
「ふふっ、心配しなくても大丈夫だよ。ボクは寿命でしか死なないから! ボクがよぼよぼになっても、メイが居れば魔王はスライムと変わらないからね。負けるなんてありえないよ!」
「…あらあら。お節介が過ぎたようねぇ。おばあちゃんのたわごとだと思って聞き流してちょうだいねぇ」
…神官様は本当にできたお方です。若輩者の私の失言にも怒らずに丁寧にご助言くださいます。私は意図せずに聖女になりましたが、大先輩である神官様の様に私もなりたいですね。
「メイちゃん、カーラちゃんをよろしくねぇ。それと、サイコスちゃんには私から連絡を入れておくわ。早ければあと1カ月くらいで新しい魔王が誕生しちゃうと思うから、それまでにケルディ領に到着しておいてねぇ」
あぁ。言われて初めて気付きましたが、基本的に魔王討伐に行くのは『勇者』『聖女』『賢者』の3人でしたね。…大賢者ケルディ・サイコス様。いったい、どんなお方なのでしょうか?後でカーラに聞いてみま……いや、カーラに聞いても参考にならなそうですね。
まぁ、魔王城に行く時にちょっと付いて来られるだけでしょうし、大丈夫でしょう。緊張はするでしょうが。
とはいえ、魔王討伐の為にケルディ領に行くのは楽しみですね。私の故郷はケルディ領の端っこの小さな村ですし。お母さんとポチとお父さんは元気でしょうか?思い出したら早く会いたくなってきましたね。魔王討伐が終わったら会いに行きましょう。1つくらい楽しみが無いと、魔王討伐なんてやってられませんからね。
あ!会いに行くなら、ポチにお土産を狩っていくと喜ぶかもしれませんね。何が良いでしょうか。今まで食べさせた事のないもの…ドラゴンとかですかね。カーラに頼んで、一匹狩ってきてもらいましょう。
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