8話 甘い香り
…ジリ、ジリジリジリ
「おぉ、メイ様!よくぞご無事で!」
私が魔王城に戻ると、そこには魔王さんしか居らず、サクラさんとマリヤさんの姿がありません。何処かの行ってしまったのでしょうか?
「おーい、マリヤちゃん。メイ様がお戻りになられたぞ」
すると、魔王さんは、何故か近くに出ている、私が出したものでは無い闇に向かって、そう言いました。…誰が出したのですかね? …魔王さん? …いや、黒聖龍さんですかね?
「メイちゃん!」
「あ、サクラさん。ただいま戻りました」
そして、その闇の中から、サクラさんが現れ、私に飛びついてきました。
ふぅ、良かったです。この様子だと、あまり怒って無さそうですね。ちょっと心配させてしまっていた様ですけど。
…ですが、どうして闇魔法から出てきたのですかね? …まさか、サクラさんが使える様になったとかでは無いですよね?
あ、マリヤさんも出てきましたね。…ん?何か、甘い香りがしますね。…まさか、私が居なくなった事なんて気にせず、仲良くお菓子でも食べていたのですかね?もしそうなら、ちょっと酷いと思いますよ?私も一緒に食べたかったですよ?
と、そんな事を思っていると、サクラさんが私を離し、口を開きました。
「もぅ!何処行ってたのよ!」
「えっと……」
……そういえば、何処だったのですかね?『天界』みたいに、呼び名がある場合だったのでしょうか?聞いてませんでしたね。
「なんか白くて、何も無い空間?でした」
「……何よそれ」
…ま、これでは伝わりませんよね。あの竜魔族さん達に説明してもらいましょう。
「出てきてください」
そして私は、私が出した方の闇に向かって、そう言いました。
「「「おう!!!」」」
さて、どういう反応をされますかね。
「…なっ、なっっつ!!」
ザッ!
…ん?どうしたのでしょうか?
3人が出てくると、魔王さんが慌てた様子で跪いてしまいましたよ。
「ディスティリウス様、ザッティリウス様。…そしてゴスティリウス様」
「お? なんだ、俺たちの事を知っているのか?」
…本当ですよ。どうして知っているのですか?少なくとも数百年前の人ですよ? 同じ竜魔族さんですが、知る訳無いですよね? …まさか、魔王さんって、すっごく長生きしてたのでしょうか? そんな訳ありませんよね。
「もちろんでございます、先代様」
「ははっ、嬉しいもんだな!俺の名前が残っているなんて!」
そして3人は、満更でもない様子で、喜ばれています。昔の『魔王』だった事は聞きましたが、凄かった人たちなのでしょうね。言い方的に、やはり会った事は無さそうですし。
「凄いですね、魔王さん。お顔を一目見ただけで、名前まで分かるなんて」
「…え⁉︎ …え、えぇ。お褒めいただきありがとうございます、メイ様」
……ん?どうしたのでしょうか?なんだか煮え切らない表情ですね。私、変な事は言っていないと思いますが。
「……メイ、ちょっと来なさい」
「…え?…はい」
すると、マリヤさんが呆れた様な表情で、私にそう言ってきました。…私、何かまずい事を言ってしまいましたかね?魔王さんを褒めただけなのですけど。
そして、マリヤさんは魔王の部屋に入って少し進むと、私の方に振り返りました。
「メイ、後ろを向いて、よく見てみなさい」
「…え?」
………あ。
…………はい、そういう事ですね。
「メイも一応『魔王』だったんだから、それくらい覚えときなさいよ!」
「……はい。すみません」
私が振り返って見てみると、壁に沢山の肖像画が綺麗に飾られています。…非常に残念ながら私の顔もありますね。
そして、その一番端に…。
「…初代『魔王』だったのですね」
「そうよ!私だって顔を見ただけで分かったわよ!」
…なんと。とんでもないレベルだったので、それなりに凄い人だとは思っていましたが、まさかの初代ですよ。そして残りの2人の肖像画もきちんとありますね。
はぁ。もちろん何かが飾られているのは気付いていましたが、先代の『魔王』の方達の肖像画だったのですね。何度か入った事がありますが、まじまじと見た事なんてありませんでしたよ。ましてや、名前なんて覚えている訳がありません。興味もありませんでしたし。
…取り敢えず、私の肖像画は外したいですね。ダメですかね? …ダメですよね。分かっていますよ。…はぁ。見なかった事にしますかね。
「えっと、魔王さん。実は、初代魔王さん達は、お肉が食べたいそうなのですよ。美味しく料理出来る人はいませんか?」
先ほど、私がお肉を出した時に凄く喜ばれましたが、よく考えてみれば、あの場所で料理なんて出来ませんからね。せいぜい火魔法で適当に焼くくらいです。まぁ、それでもドラゴンなので、それなりには美味しいでしょうが、せっかくならもっと美味しい状態で食べていただきたいですからね。
何せ、初代魔王という事は、レミコ様と同じ世代でしょうから、1100年以上前に亡くなられた魔族さんなのでしょうからね。他の2人も肖像画の順番を見る限り、おそらく700年以上は前の魔族さんでしょうし。
「調理であれば、魔王城に一流の料理人が居ります。すぐに準備させますので、少々お待ちください」
おぉ!やはり、魔王城というだけあり、一流なのですね。カーラの家の料理人さんに及ぶかは分かりませんが、私まで楽しみになってきましたよ。ちょうどお腹も空いてきましたし。
「あら? 料理はマリヤさんがやってるんじゃないの? さっき『マリヤちゃんが作ってくれた朝ごはんを食べている時ーー』とか言ってたわよね?」
んんっ⁉︎
マリヤさんが料理???
……私が居ない間に、そんな話をしていたのですね? 何だか、凄く楽しそうな話です。私も聞きたかったですよ。
「ちょっ! な、何を言っているのよ! それは、ちょっと!!」
…ん?どうしたのですかね。凄く慌てていますよ。
「マリヤさんは料理が得意なのですね! 凄いです!」
ちょっと意外ですが、カーラが料理できる事に比べれば、全然想像できますね。エプロンとかをして、魔王さんに毎日作ってあげているのですかね?素敵ですね! …お味はどうか分かりませんが。
「…あ、いや。えっと…。…そ、そうよ!出来なくは無いけど、私の料理はオッディウス専用なのよ。だから今日は城の料理人に作ってもらうわ!」
「…そうなのですか。残念です」
ふふっ。魔王さん専用なんて言われてしまったら、強くお願いする事が出来ないではありませんか。
「魔王さんが羨ましいですね。きっと、凄く美味しいのでしょうね?」
「はい、メイ様。もの凄く美味しいです」
「そ、そうなのよ。悪いわね!」
そしてマリヤさんは、凄く安心した表情で、そう言い張りました。
せっかくなので、もう少しいじりたかったですが、そろそろ終わりにしますかね。これ以上は可哀想ですし。それに、きっとマリヤさんが作った料理よりも、魔王城の料理人さんが作った料理の方が、数倍美味しいでしょうからね。まぁ、魔王さんにとっては、どうか分かりませんが。




