6話 再会
「…えっと、何でもあ--」
ヒュンッ………。
「え?…メイちゃん?」
その瞬間、メイちゃんは私の前から居なくなってしまった。まるで、誰も居なかったかの様に、一瞬にして。
辺りを見渡してても、メイちゃんの姿は確認できない。本当に一瞬で消えてしまった。
「…え? ちょっと、メイ?」
「メイ様⁈」
私と同じく、マリヤさんも魔王も、突然起きた現象に戸惑っている。
こんな突然姿を消すなんて…。
…はっ!
そう考えた瞬間、私はある事を思い出した。
『メイが急に消えたと思ったら、ボクの頭の中に魔王が誕生したって声が聞こえたんだよ』
…そう、カーラは言った。何度も聞かされたから、嫌でも覚えている。…メイちゃんが魔王になった瞬間の話。
そして私は、急いで魔王の部屋にある椅子を見た。
…だけど、メイちゃんの姿は無い。
「…魔王、あなたは今も『魔王』なのかしら?」
「…あぁ、『魔王』だ」
魔王も、私が魔王の部屋の椅子を見た事で、私が何を考えていたのか理解した様だ。
「…オッディウスが『魔王』になった時も、こんな風に消えたわね」
「あぁ。マリヤちゃんが作ってくれた朝ごはんを食べている時だったな」
…やっぱり、今起きた現象と類似している。
…ならば、メイちゃんは何になった? 何の称号を得た? 『魔王』で無いのは確かだけど、それに匹敵する称号なんて、私が知る限り『勇者』くらいしかない。だけど、『勇者』はあり得ない。
「…他にメイちゃんが得そうな称号に心当たりがあったりするかしら? おそらくだけど、『龍』に関する称号だと思うわ」
メイちゃんが消えたのは、七聖龍をテイムした後。ほぼ間違いなく、これが関係している。
「…『龍王』……そんな称号を得た人物が過去に居たと伝承に残っている」
「…聞かせてちょうだい」
どうやら、今の魔王は竜魔族だから、私の知らない情報を知っているみたいね。『龍王』という称号の名前を聞く限り、全く関係ないとは思えない。何も手掛かりが無い今の状況が、少しでも改善すれば良いのだけど。
「…悪いが、俺が知っているのは大した情報では無い。ただ、数百年前に黒龍様に認められた先祖が、『龍王』になり、翼を手に入れたと伝承に残っている。そして、その『龍王』の称号を得た先祖は、後に『魔王』になったと聞いた事がある」
…その伝承を信じるとすれば、黒龍をテイムしたメイちゃんが『龍王』の称号を得ている可能性は高い。
…だけど、同じ様に黒龍をテイムしていたマリヤさんは、『龍王』の称号を得ていないと思われる。もし得ているなら、『龍王』という単語が出た時点で反応するはず。おそらく、『龍王』の称号を得るには魔族の血が流れている事が必須なのだろう。
…でも、今の話だとメイちゃんが消えた理由は分からない。後に魔王になったという事は、今は『龍王』に関係ある場所に強制転移しただけ?それなら、メイちゃんは直ぐに戻ってくるはず。
……転移した先でトラブルにあった?……いや、例えば、ドラゴンや竜が沢山棲む場所だったら、メイちゃんは数秒で戻ってくるはず。メイちゃんは怖がりだから。
つまり、戻って来ないという事は、転移した先に誰かが居るか、メイちゃんが直ぐには戻りたくない理由があるか。……メイちゃんなら、美味しい食べ物があるだけで、そこに居座りそうなのよね。
「…ねぇ、メイが下界に居ない可能性はないかしら? 天使が住む天界みたいに、他の世界が有って、そこに転移してたり…」
「………その可能性もありそうね」
普通に考えれば、そんな突拍子も無い事はありえないだろう。だけど、『聖女』の様に、死後に生まれ変わる存在を知っている私たちからすれば、そんな事が起きないとは断言できない。寧ろ、急に消えた時の転移先としては、一番ありえそうだと思えてしまう。
「…ちょっと私、メイちゃんが下界に居るか確認してくるわ」
「…え?そんな事が可能なの?」
普通に考えて、そんな事が出来るとは思えないだろう。だけど今なら出来る。
現時点で下界に居る者が皆、ランキングに加わることになった今、名前が表示されないという事は、下界に居ない事を意味する。
…だけど、それを確認するには、教会に行かなければならない。
「…ねぇ、黒聖龍。闇魔法を使ってもらえないかしら?」
「…………」
…やっぱりダメか。私の言う事を聞いてもらう様に言う前に、メイちゃんは消えてしまったものね。そして、マリヤさんもテイムが解除されたって言っていたから、無理だろう。
「闇魔法を使いたいって、何処かに行けばメイが下界に居るか分かるのかしら?」
「えぇ、教会に行けば確認出来るわ」
…どうしようかしら。今から他の七聖龍を呼ぶにしても、走って行くにしても、半日はかかってしまう。
ジリ、ジリジリジリ…
「…えっ?」
だけど、私がどうやって帰るか悩んでいると、急に見覚えのある闇が現れた。
「教会なら場所を知っているわ。私の闇魔法で行けば良いじゃない」
「…マリヤさんも使えたのね」
…そういえば、マリヤさんは堕天していた。きっとその時に使える様になったのだろう。
「ありがとう。助かるわ」
そして私は、マリヤさんが生み出した闇の中に入った。
♢♢♢
…ジリ、ジリジリジリ
「あっ、ソフィーちゃん!」
「ひゃあっ! ちょ、ちょっと! またメイね! 急に現れるなんて非常し…ってサクラ? どうしたのよ、そんなに慌てて」
マリヤさんが繋げてくれた場所は、教会のソフィーちゃんの部屋で、私はお菓子を食べているソフィーちゃんの横から声をかけた。位置が悪かった事もあり、ソフィーちゃんは凄く驚いてしまったけれど、私の慌て様を見て、真剣な顔つきになった。
「今すぐランキングを発行して欲しいの。メイちゃんが消えちゃって!」
「…え? また?」
ソフィーちゃんは、私の言葉に驚いた様子は無く、少し呆れた様な声で、そう言った。……まぁ、ソフィーちゃんなら、そういう反応してもおかしく無いわね。メイちゃんには前科が…今までに2回も死んだと思われた事があるもの。
「…って! ちょっと待ちなさい! て事は、その闇魔法は、まさかサクラが⁈ サクラまでそっち側に⁈」
…そんな訳無いじゃない。…メイちゃんが消えた事よりも、数倍驚いてるわね。私が闇魔法を使ったという勘違いで。
「違うわ。私の魔法よ。久しぶりね、大聖女」
「あー!!あんたは!!」
そして、私たちの会話を聞いてマリヤさんも闇魔法から出てきた。教会の場所も知っていたし、やっぱり知り合いだったみたいね。
「相変わらず口が悪いわね。私の方が偉いって分かってるでしょ?」
「ふふっ、何を言っているのかしら。私はもう『大聖女』じゃないわ!今は『大神官』よ! …そして」
バサッツ!!
「あんたが私に見せびらかした、すっごく可愛て綺麗な翼も出せる様になったわ!」
「……え? …あんた、前会った時に、あの3人が異常で自分は普通だって言ってたじゃない。…生きている内に300レベルを超えるなんて、あんたも十分異常よ」
……ソフィーちゃん、『あの3人が異常』って誰の事かしらね? まさか、私の事をそんな風に思っていたのかしらね?
……ふふっ。…今夜の枕投げは、いつもよりの激しくなりそうだわ。もちろん、一番ぶつけるのはメイちゃんにだけれど。




