4話 ドラディニエル
ヒュンッツ
「--りませんよ。……え?」
……は?
………またですか?
その瞬間、私の目に映る景色は一変しました。魔王城のボロボロの部屋も、サクラさんの姿も消え、私は何処だか分からない空間に居ます。
辺りは真っ白で何もありません。
そして…。
称号『龍王』が『龍神』に進化しました
スキル『再生』を獲得しました
スキル『不死』を獲得しました
ちょっと待ってください!本気で要らないのですけど!
何なのですか『不死』って!
いや、そもそも不死に近い存在だったかもしれませんけど!
………はぁ。
…………取り敢えず、帰りますかね。前回『魔王』になった時とは違い、お迎えが来るような場所とは思えませんし。
…あ!
ちょっと待ってください! 今回は称号に『堕』が付いていませんよ! という事は、『龍翼』に期待しても良いって事ですか⁈ 名前的にあまり期待できない気もしますが、もしかしたら可愛い可能性もありますよね?
…帰る前に確認してみますかね。幸い、ここには誰もいませんし。ダメだった時の事も考え、過度な期待はせずに。
…ヒュッツ…ビュファァァ!!
「…うっ、何なのですか?」
しかし、私が『龍翼』を使ってみようとすると、急に何かが通り過ぎたかの様に風が起こりました。
ダンッ!ダッ、ダダンッ!
「歓迎するぜ、新たな同胞よ!」
「……うわっ」
…はい。
と、いう事で、残念な答えが降ってきました。
突然飛んできて私の前に現れたのは、竜魔族と思われる3人です。マリヤさんの旦那さんと似た様な雰囲気を感じます。そして、竜や龍の様なゴツくて全く可愛くない翼が生えてらっしゃいます。しかも、最初から黒みたいです。これでは、たとえ堕ちていたとしても変わりありませんね。
はぁ。またしても、一生使うことのないであろうスキルを得てしまったのですね。
まぁ、それはもう忘れる事として、この3人が、この空間に住む『龍神』の称号を得た人たちなのでしょうね。同胞とかいってますし。
…はぁ。
「…こんにちは」
「おう! 俺の名はドラディニエル・ゴスティリウス。よろしくな!」
「俺はドラディニエル・ディスティリウス。随分と小さいな」
「俺はドラディニエル・ザッティリウス。数百年で血が薄まったんじゃないか?小さすぎるもんな」
…なんだか少し失礼な事を言われた気もしますが、この人たちと比べれば、私が小さい事は紛れも無い事実なので、気にしない事にしましょう。悪意は無いと思いますし。
「メイです。よろしくお願いします」
「お? 変わった名前だな、ドラディニエル・メイ!」
…ん? 何か勝手に付けられてしまいましたね。
「あの、ただの『メイ』です。ドラディニエルは付きません」
「…何だと? ほんの数百年で血だけでは無く、名前まで失われてしまったというのか?」
……これは、絶対に勘違いされていますね。この人たちの中では、『龍神』の称号を得るのは竜魔族だけという認識なのかもしれませんね。…これは早めに正さなければなりません。
「私は、ほんの少し魔族の血を引いていますが、人族です。それと、今の『魔王』は竜魔族で、名前にドラディニエルが入っていますよ」
「「「……は?」」」
そう私が言った事で、案の定3人は、何を言っているんだと言わんばかりの顔で私を見てきます。どこからどう見ても、普通の人族だと思うのですけどね。
「ちょ、ちょっと待て! 何故、今の『魔王』が竜魔族だと知っているんだ⁈ 知り得ない情報じゃないか!」
「…え?」
………どういう事でしょうか? 私は『龍王』の称号を得て、ここに飛ばされて『龍神』の称号を得ましたよね? 『魔王』は関係ないと思いますが…。
「お前は、生前に『魔王』と『龍王』の称号を得て、死んでここに来たのだろう?だったら、次の『魔王』が誕生するのは、5年ほど後になるだろう? そうなんだよな?」
「あ、あぁ。先代の『魔王』が死んでから約5年で俺は『魔王』の称号を得た」
「俺もだ」
………あぁ。そういう事ですか。私が例外的という事ですね。
普通は『魔王』が死んで次の『魔王』が誕生するところを、私が天界に行って下界から居なくなった事で次の『魔王』が誕生しましたからね。本来なら有り得ないという事です。そのせいで、疑問に思ってしまったのでしょうね。
…これは、何というか、説明が凄く面倒ですね。
……適当に誤魔化しますかね。
「えっと、今の『魔王』が私よりも強くなってしまったからではないですかね? 私は大して強くない『魔王』でしたし」
「…そんな事があるのか? 『魔王』は『獲得経験値上昇』のスキルを持っているから、そう簡単には越えられないと思うが。…お前は『魔王』になって何もしなかったのか? 『勇者』に対抗し、魔族を守る為に強くあろうとしなかったのか?」
…あれ?どうしてでしょう。なんだか、物凄く軽蔑されているような気がします。何だか顔も曇ってらっしゃいますし。
「はぁ、期待はずれだな。こんな奴が『魔王』になってしまっていたのなら、多くの魔族の命が失われたのだろうな」
「同じ『魔王』の称号を得た者として恥ずかしいな」
………これは完全に誤解されていますね。…いや、完全な誤解では無いのですが、雲行きがよろしくありません。
「はぁ、俺がその腐った小根を叩き直してやる」
「…え⁈ ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
なんだか凄くヤバいです!凄く怒ってらっしゃいますよ!
「は、話を聞いてください!ちゃんと理由がありますから!」
「ふん、どうせ仕様もない理由なんだろう?」
むぅ! 正直、少しムカついてきましたよ! こうなったら、ちゃんと話を聞いてもらって、手のひらを返させてあげますからね!




