2話 6匹
「…ちょっと待ってください。冗談ですよね、サクラさん?」
私は今朝、サクラさんに少々迷惑をかけつつも無事に早起きする事ができ、キャルシィと3人でギルドにやって来ました。
ですが、ギルドに着くとサクラさんは流れる様に闘技場行き、付いて行くと、そこには私のお友達が居ました。
「今朝起きた時にギルドの闘技場に来ておいてってお願いしておいたのよ」
「…そうなのですね」
…おかしいですね。テイムしたのは私のはずなのですけどね。確かに、サクラさんの言う事を聞いてくださいと頼みましたよ。ですが、それには『私が戻ってくるまで』と条件を付けたはずです。
…どうしてなのですか、雷聖龍さん?
「…………」
……反応がありませんね。以前なら、私の心の声を聞き取って少々うるさい声を発してくれたのですけどね。…完全に乗っ取られたという事ですかね?海聖龍さんに続き、雷聖龍さんまでですか…。
…まぁ、別に良いですけど。
「サクラさん、これからも私のお友達をよろしくお願いしますね」
「えぇ、もちろんよ」
あ…。返す気持ちは微塵も無いみたいですね。おそらく、これは他のお友達も同じ状況になっていますね。
…なら、もう丸投げしますよ。もともと、サクラさんの方が七聖龍と仲良く出来ますからね。
それに、今はそんな事どうでも良いですし。もっと大事な事がありますからね。
「サクラさん。一応確認なのですが、これからどうする予定なのですか?」
「え?分かってるでしょ?」
…ええ、えぇ。分かっていますよ?分かっていますけど、もしかしたら私の勘違いという事がありえるかもしれないではありませんか。
「…私は乗りませんからね」
「ふふっ。さ、行きましょっか!」
そう言うとサクラさんは、一瞬で私の手を握りました。…満面の笑みで。
そして、私は思いました。
………怖いです。
♢♢♢
………怖いです。
…どうして、こうなってしまうのでしょうね。
サクラさんに無理矢理、雷聖龍さんに乗せられた私は、目を瞑ってサクラさんに抱きついています。しかも、以前、他のお友達に乗せられた時よりも風を感じる気がするので、かなりのスピードで飛んでいると思われます。
…これは完全に、イジメですよ。サクラさんは私が怖がる事を分かっているはずなのですけどね。私、サクラさんにイジメられる様な事しましたかね?してませんよね?
「あ、メイちゃん!見て、居たわよ!あの竜が土魔法を使えるそうよ」
「…そ、そうなのですね」
そんな事を言われても、私の視界は真っ暗なので、全く分からないのですけどね。
「もぅ、降りるわよ」
「はい!早く降りましょう!!」
ふぅ…。良かったです。なんとか生きて地上に戻れそうです。ですが、きっと寿命が数年縮まりましたね。
そして、サクラさんは雷聖龍さんに降りるように指示すると、それなりのスピードで降下していきました。降りる時くらいゆっくりと降りて欲しいですが、私の気持ちが伝わる事はもう無いので、私は振り落とされないようにサクラさんに抱きつく力を強めます。まぁ、早く降下するという事は、それだけ早く愛しの地上に着けるという事ですからね。数秒の我慢です。
♢♢♢
「ビリャアアアァ!!」
「ドゥリャアアアァ!!」
…と、いう事で、雷聖龍さんが、土魔法を使える竜を説得しています。…たぶん。
「ビリャアアアァ!!!」
「あ、大丈夫みたいよ。メイちゃん、ほら!」
「…そうなのですね」
…どうして、サクラさんには分かるのでしょうね。私には、承諾されたのか断られたのか分かりませんよ?
…まぁ、サクラさんが、そう言うのであれば、きっと大丈夫なのでしょうね。…ふぅ。怖いですけど、行くしかありませんね。どうか、じっとしていてくださいね。
では…、取り敢えず、いつでも逃げられる様に、私にバフを最大で掛けますかね。
そして…。
ぽわわわわわわ
個体名『地聖龍』が誕生しました
ぱああああああ
個体名『地聖龍』をテイムしました
ふぅ。良かったです。これで『七聖龍』が欠けなく揃いましたね。それに、私のお友達が6匹と、マリヤさんの黒龍で7匹全てがテイムされている訳ですから、いくらなんでもカーラが再び減らす事は無いでしょうね。…そう信じましょう。…まぁ、何度も裏切られたので、期待は出来ませんけどね。
「こんにちは、地聖龍さん。私はメイと申します。そして、こちらがサクラさんです。これからはサクラさんに従ってくださいね」
「ドゥリャアアアァ!?」
…あれ?何故か地聖龍さんが首を傾げている様に見えますね。どうしたのでしょうか?
「ビリャアアアァ!!」
「ドゥリャアアアァ…」
「ビリャアアアァ!!」
「ドゥリャアアアァ!!!」
…えっと。よく分かりませんが、解決したのですかね?きっと、雷聖龍さんがサクラさんの事について説明してくれたのでしょうね。私に従うよりも、サクラさんに従う方が良いという事を。きっとそうです。そう信じましょう。
「では、サクラさん。そういう事なので、よろしくお願いしますね」
「え、えぇ。もちろん私は嬉しいけど、一切の迷い無く押し付けるのね」
む…。押し付けるのでは無く、それがサクラさんと地聖龍さんにとって、一番良い形だと思うので、そうするのですけどね。…まぁ、似た様なものかもしれませんが。
「さ、そろそろ帰りましょっか」
「ねぇ、メイちゃん。今6匹よね?」
「…そうですね?」
…どうしたのでしょうか。そんな事、サクラさんが疑問に思う様な事では無いと思うのですが…。
「あと1匹でコンプリートよね?」
「……そうですね」
…どうしてでしょうか。何だか嫌な予感がしてしまいます。
「ねぇ、メイちゃん。ちょっと黒龍に会いに行かない?」
「行きません。帰りましょう……うっ、ちょ、サクラさん!離してください!」
嫌です嫌です嫌です!!
この流れは間違いなく!!
「サクラさん!マリヤさんのところなら闇魔法で行けますから!飛んでいく必要はありませんから!」
「じゃ、行きましょっか!」
「うっ…」
…酷いですよ、サクラさん。
サクラさんは、完全に私を手のひらの上で転がしていますよ!とんでもないですね!選択肢をなくす事で、黒龍さんに会いに行く事が確定してしまったではありませんか。
…はぁ。地聖龍さんの件が終わったら、ケーキでも食べに行くと思っていたのですけどね。




