13話 仲直り?
「説明しなさいよ!」
教会の奥に連れ込まれた私は今、大聖女のソフィー様に睨みつけられています。どうやらソフィー様は、私とカーラの関係に文句があるみたいです。
…はぁ。どうしてこうなってしまったんでしょうね。文句はカーラに言ってほしいですよ。
全くどうしてカーラはソフィー様に嫌われてると思っているのでしょうか。こんな丸分かりな態度で気づかないなんて。
まぁ、とにかく今は、この状況を切り抜けないといけませんね。極力刺激しない様に、言わなくても良い事は隠しましょう。
「えっと…ソフィー様。私はカーラにパーティーに誘われて、レベルが凄く上がって聖女の称号を得…」
「はあぁぁ?カーラって何よ!どうして勇者を名前呼びしてるのよ!」
そこからですか…。初手から失言でしたね。もう無理な気がしてきました。
「…カーラのお父様に名前で呼ぶようにと頼まれました」
カーラのお父様は領主様です。領主様の命令なら逆らえませんからね。流石にこれなら大丈夫でしょう。
「…え?……は?…ま、まさか、勇者の家に行ったって事⁉︎」
「え…はい。パーティーを組んだので一緒に暮らしています」
「………………は?」
…あ。…どうしましょう。とんでもなく余計な事を言ってしまった気がします。ソフィー様が固まってしまいました。
「…親公認。…同棲。……ずるい。ずるいわよ!!」
…確かに、ご飯は美味しいですし、お風呂も大きくて快適です。ずるいですね。……はい。ソフィー様が言っているのはそういう事ではありませんね。
「ソフィー様はカーラの事がお好きなんですね」
「は?当り前じゃない。あんなに強くて優しくて美しいのよ。好きになるに決まってるじゃない。勇者は私のものよ。私が結婚するんだから!」
……え?
…ソフィー様も女性同士では結婚できない事を知らないのでしょうか?
…いや、そんな訳ありませんよね。
「ソフィー様、念のため確認致しますが、女性ですよね?」
「は?当り前じゃない。目ぇ腐ってんの?馬鹿なの?」
…いや、こんな事聞いた私が悪いですよ。…悪いですけど、もう少しオブラートに包んでほしいです。
「ですよね。すみません。でも、女性同士では結婚できませんよ?」
「…そうね。今はね。でも、そんなのは過去の人間が決めた事に過ぎないじゃない!私がそんな法律なくしてやるわ。そうすれば勇者と結婚できるもの。あんたには渡さないわよ!」
おぉ…。随分とポジティブな考えを持つお方なのですね、ソフィー様は。過去の人間が決めたことに過ぎない…。そんな事、考えた事もありませんでした。
「…凄いですね。ソフィー様は」
「ふふっ。そうよ、私は凄いのよ。私は今、教会で2番目に偉いのよ。神官様が引退すれば私がトップ。そうなれば真っ先に法律を変えてみせるわよ!」
お…おぉ。私はソフィー様の考え方が凄いと言ったつもりでしたが、地位的に凄いと捉えられてしまいました。まぁ、ソフィー様は大聖女様なので間違ってはいませんが。
どちらにしろ、本当に実現してしまいそうな雰囲気ですし、凄いことには変わりありませんね。
「ねぇ、まだ終わらないの?」
「ほわっ⁉︎」
……び、びっくりしました。背後から急に声をかけるのはやめてほしいですよ、カーラ。ソフィー様との会話に集中していたので、全く気づきませんでしたよ。
ですが、私の用事に付き合って頂いているのに、カーラの事を放置していた私も悪いですね。
「すみません、カーラ。もう終わりま…」
「今大事な話をしてるのよ。勇者は黙って待ってなさいよ!」
ちょっ!何言ってるのですか!確かにカーラが居たら話しづらい内容でしたけど。そんな事を言ったらカーラがソフィー様に嫌われていると勘違……あ。……あぁ。
……もしかしたら、ソフィー様はこんな言い方を以前にもされていたのかもしれませんね。こんな言葉を何度も聞いたら、カーラが嫌われていると思ったとしても仕方がない気がしてきました。
…はぁ。最初はカーラが鈍感なだけかとも思いましたが、どうやらそれだけが原因ではないみたいですね。
…うーん。…ちょっと試してみましょう。
「カーラ、ソフィー様はカーラの事を嫌ってはいませんでしたよ。カーラの事を名前で呼びたいとおっしゃっていますし」
「はあぁぁ⁈ 何言ってるのよ!」
…ちょっと、ソフィー様。もうすこし素直になってくださいよ。
「カーラは名前で呼ばれたいですよね?」
「…うん。ソフィーが嫌じゃないなら」
カーラはソフィー様に嫌われていると勘違いしつつも、仲良くしたいと思っている感じでしたからね。後は、ソフィー様が少しだけカーラにも分かる態度を取ってくださるだけで良いのですよ。
「だそうですよ、ソフィー様」
「…なっ!…………じゃ、じゃあ、カーラって呼んでいいかしら」
「うん!もちろんだよ!」
おぉ!頑張りましたね、ソフィー様!カーラが凄く嬉しそうです。それに、ソフィー様は照れていて可愛らしいですね。この調子で素直になってくれれば、きっと仲良くできますよ。……たぶんですが。
「カ、カーラ。さっきも言ったけど、私が魔王討伐に同行してあげても良いわよ」
「メイが居るから大丈夫だよ」
あぁぁ。それだけは仲良くなれても無理な事なのですよ。カーラは私のデバフを必要としているので。…これは、私のせいで余計に傷付いてしまったかもしれませんね。ごめんなさい、ソフィー様。どうか、気を落とさな……。
「………カ。カーラのバカーーー!!」
……あぁ。ダメみたいですね。ソフィー様はそう言い残し、走って何処かに行ってしまいました。
「メイ!ソフィーもボクの事を名前で呼んでくれたよ!メイのおかげだよ。ありがとっ!」
「………どういたしまして」
再度ごめんなさい、ソフィー様。何故か意図せず私の好感度が上がってしまったみたいです。わざとじゃないですからね。
はぁ。神官様に会いに来たはずなのに、それ以前に凄く疲れてしまいました。ですが、緊張はかなりほぐれましたね。ありがとうございます、ソフィー様。
どうかソフィー様がカーラと仲良くできますように。私は心の奥で、少しだけそう思いました。




