35話 悪いのはセイラさんですから
カッ…キンッ!!
「ふふっ、やるじゃない!カーラ!」
「母さんこそっ!」
カーラとセイラさんの戦いが始まり、数分が経ちました。カーラに『攻撃力低下』のデバフを掛けているとはいえ、レベル差を感じさせない戦いです。
寧ろ、剣技だけでいえば、カーラが押されている気がします。流石はカーラのお母様ですね。
………いやいやいや、おかしくないですか?おかしいですよね?
カーラは『勇者』で剣の達人ですよ?私なんて、両目瞑ってもらって、更に片足立ちしてもらって、いい勝負でしたよ?セイラさん、強すぎません?
ついでに言うと、カーラが使っている剣は『魔王』の魔剣ですよ?どうして、対抗できるのですか?セイラさんが使っている剣は丈夫そうですが、その辺に売ってそうな剣ですよ?そもそもセイラさんは、元『賢者』ですよ?
…まぁ、それはカーラのお母様という事で納得するしかないかもしれませんね。ですが、これだけは言いたいです。
セイラさん、魔法を使ってくださいよ!『浮遊』のスキル使ってくださいよ!
…はぁ。
これでは、何も分からないではありませんか。私は『浮遊』がどんなスキルなのかを知りたいのですよ。
……これは、やっても良いですかね?
…………やっちゃって良いですよね?
『攻撃力低下』解除、そして、少しだけ『速度上昇』
……これで、カーラが一方的に速くなり、強くなります。セイラさんは『浮遊』のスキルを使わざる得ないはずです。
「おわっっつ、何か急に!」
「くっ!!急に光って速くなったわね。カーラ、そんなスキルも持っていたのね!」
「……これは。メイの力……。……メイはボクが負けそうだって思ったって事かな。悔しいな…」
…カーラが少し落ち込んでいますが、まずかったですかね?まぁ、これでセイラさんが本気を出してくれれば、カーラは更に楽しめる訳ですし、別に良いですよね?
「ふふっ、やるじゃないカーラ!じゃあもっと本気出すわよ!」
おおぉ!!遂にスキルを使ってくれるのですね!待ちくたびれましたよ!
キンッ!カンッッツ!!
キンッッツ!!
……………え?
………………は?
…え?ちょっと待ってくださいよ。…え?嘘ですよね?
どうしてバフを掛けたカーラと互角に剣を交えられるのですか?おかしいですよね?
……………つまり、もっと強くバフを掛けろという事ですね。良いですよ、やってあげますよ!
『速度上昇』『攻撃力上昇』!!!!
「ちょっ、カーラ、また光って!ふふっ、まだ余力を残してたのね!」
「うぅ……。メイぃぃ……。悔しいよぉ……。母さんが強いのは嬉しいけどぉ……」
………ごめんなさい、カーラ。ですが、これは仕方のない事なのですよ。私はセイラさんが『浮遊』スキルを使うところが見たいのですよ。悪いのは強すぎるセイラさんですからね。
更に『速度上昇』!!!
「くっ、捌ききれない!!凄いわ、カーラ!」
「うぅ…凄いのはメイだよぉ…」
…どうしてでしょうかね。カーラが好敵手と戦っているのに、全然嬉しそうではありません。楽しそうではあるので、ちょっと複雑な気持ちなのですかね?
「ふふっ、まさかここまで強くなってるとはね!ニーズに聞いた時は完全には信じられなかったけど!じゃあ、これからは本気の本気よ!本当は剣技だけで戦いたかったけど、魔法も使うわ!」
そして、セイラさんはそう言うと、左手で火魔法を使いました。
右手でカーラの剣を捌き、左手の魔法で不意を突くことで、カーラよりもスピードが劣っている事を補っています。
「えぇえ⁉︎母さん、魔法も使えたの⁉︎」
「ふふっ、使えるのよ!私は昔、レミコ様と運命の出会いをした時に『賢者』になったのよ!」
…カーラはセイラさんが魔法を使った所を見た事が無かった様ですね。一緒に住んでた時に見た事が無かったという事ですかね?
そもそも、先程までの私達の会話で、セイラさんが元『賢者』で魔法を使える事は察せると思うのですがね。…まぁ、カーラなので仕方の無い事ですけど。
…というか、セイラさんの発言の方が気になりますね。セイラさんが『賢者』になったのは、おそらく『魔王』討伐後。つまり、レミコ様が既に『大聖女』になった後です。
そんなレミコ様が怖がる程の相手から、セイラさんが守り抜いたという事になります。それって凄くないですか?レミコ様はソフィーちゃんみたいに簡単に怖がってくれるとは思いませんし。…強い魔物相手に怖がる様な人には見えないのですがね。
っと、そんな事は今はどうでも良いですね。私には今、やるべき事があります。
『速度上昇』『攻撃力上昇』!!!!!!!
「おわっつ!!…メイぃぃ」
…やはり、カーラはあまり強化されたくない様子ですね。ですが、セイラさんが本気を出していない事を知れば、カーラも許してくれるはずです。
悪いのは強すぎるセイラさんですからね!!いつまでも『浮遊』のスキルを使ってくださらないセイラさんが悪いのです!
「ふふっ、あはははっ!最高よ、カーラ!!楽しいわね!!!」
「…うん。楽しいけどさ…。…でも」
…カーラの元気がありませんね。…私は悪くありませんよね?
「ん?どうしたの、カーラ?…あ、もしかして、私が本気と言いつつ出し惜しみしてる事に怒っちゃったの?」
「…………え?」
おぉ!これは遂に使ってくれる流れですね!カーラに、私のバフスキルの事がバレてしまう覚悟で使った甲斐がありましたよ!早く出してください!!




