12話 ソフィー様 降臨
私達が住んでいるユリアール領は王都に隣接しており、その王都にある教会はユリアール領のギルドから歩いて20分ほどの距離にあります。そして今朝、私は教会から文書を送られ、教会に行かなくてはならなくなってしまいました。本当に嫌になりますね。私は聖女の称号を押し付けられただけなので、見逃してほしかったですよ。
…まぁ、偉い人に呼び出された以上、行かないという選択肢は取れないので、渋々行くしかないのですけどね。
……はぁ。
「カーラ、一緒に来てくださりありがとうございます」
「ボクはメイの為なら何処へだって一緒に行くよ」
うぅ…。カーラが優しいです。教会に呼び出されたのは私だけなので、カーラが来る必要はないというのに。とはいえ、カーラは一応貴族様で勇者様なので、偉い人にお会いするのは慣れているでしょうし、こういう時は頼りになりますね。ありがたいです。
………いや、どうでしょう。カーラが頼りになる姿を想像しようとしましたが、何故かできません。
……大丈夫ですよね?
………はぁ。神官様に会わなくてはならないなんて、私には荷が重いですよ。それに…。
「教会にはソフィー様も居られるのですよね?」
「うん、居ると思うよ。ボクはソフィーに嫌われているけどね…」
……どうやら、話題を間違えてしまったみたいです。カーラが悲しそうな顔をしてしまいました。
ソフィー様は、カーラと一緒に旅をして魔王を討伐なさった大聖女様です。1年半ほど一緒に旅をしたと言われていましたし、それだけ長い間一緒に居ればカーラなら嫌われても致し方ないかもしれませんね。パーティーも魔王討伐後に解散されたとの事ですし、カーラが嫌われているという事は、目的の為の仲間でしかなかったという事なのだと思います。……私も同じ様な経験をしたばかりですし、何だか胸が痛くなりますね。
「あ!でもメイが聖女になってくれたから、ソフィーはボクと関わらなくても良くなったからね。もしかしたらメイは凄く感謝されるかもしれないよ」
「…はは。そうかもしれませんね」
何とも返答に困る事を言われてしまい、思わず肯定してしまいました。流石にそこまでは嫌われていないと思いますけど…。きっと、相性が悪かっただけだと思いますよ。
私はカーラにだって良い所があると感じていますし、一緒に過ごして楽しい事もありました。まだ1日しか一緒に居ませんが、私は結構カーラの事が好きな気がしますけどね。本人には絶対に言わないですけど。
そして、そうこう言っている間に歩き進み、教会に到着してしまいました。王都の教会自体は何度か来た事がありますが、神官様に直接お会いするのは初めてなので緊張してしまいます。
「あら、勇者じゃない!何しに来たのよ!」
…う。…誰でしょう。教会に入るなり1人の女性が声をかけてきました。カーラの知り合いみたいですが、歓迎されていない感じですね。幸先が悪いです。
…カーラにかける言葉からして、おそらくこのお方がソフィー様ですかね?シルキーピンクの髪がとても綺麗で、可愛らしいお方です。…まぁ、カーラを見て端正なお顔を歪ませていますけど。どうやら、カーラは本当に嫌われているみたいですね。
「…ソフィー。久しぶりだね。2年ぶりくらいかな?」
「は?1年と283日ぶりよ。適当な事言わないで!」
………ん?
「ごめんね。ちょっと用事があって来ただけだから」
「は?あー、そういえばもうそんな時期ね。魔王討伐に行くために私を誘いに来たんでしょ?まぁ、私は行きたくないけど、勇者がどうしてもって言うなら一緒に行ってあげない事もないけど?」
…カーラってソフィー様に嫌われているのですよね?ソフィー様は腕を組んで凄く嬉しそうにしている気がしますが…。私の勘違いですか?
「大丈夫だよ。メイと一緒に行くからね。ソフィーは無理してボクに付き合わなくて良いんだよ。メイが聖女になってくれたから」
「はぁ⁈ 別に無理してなんか…って聖女⁈」
ちょ、ちょっとカーラ!私の勘が正常であれば、言葉選びを間違えていると思いますよ?これ以上、余計な事は言わないでください。お願いします。
「この娘はメイ。ボクの聖女だよ」
「…は⁈ う、噓でしょ…。私が…。で、で、で、でも魔王討伐にそんな幼い娘を連れて行くのは可哀そうよ。私の方が良いんじゃないかしら?」
カーラ、全然嫌われていないじゃないですか。もう間違いようがありません。凄く一緒に行きたそうですよ。
「心配しなくても大丈夫だよ。メイはこう見えて凄く強いからね。ボクよりも!」
「…は?何言ってるのよ。そんな訳…」
ソフィー様そこまで言うと、教会の奥に走って行かれました。おそらくランキングを確認しに行ったのでしょうね。教会ならランキングは絶対にありますし。もう嫌な予感しかしませんね。
「はああぁぁぁああ??!!」
…まぁ、そうなりますよね。無理もありません。大聖女であるご自身より、聖女でしかない私の方が遥かにレベルが高いですからね。本当に、申し訳ありません。
「ちょ、ちょっと来なさいよ!」
「はうっ……」
あぁ…。ソフィー様は戻って来るなり私の腕を無理やり引っ張って奥に連れて行きます。うぅ、帰りたいです。私は一体どうなるのでしょうか。別に私は魔王討伐に行きたい訳ではありませんし、全然譲りますよ?まぁ、カーラが逃してくれるとは思えませんけど。




