14話 統一
それから会議は進み、七聖龍の件については、検討が必要という事になった。サクラさんの話をある程度信用するにしても、国王様自らの目で確認してから判断するという事だ。ついでに、前国王様とカーラさんも、七聖龍に乗りたいと言いだし同行する事も決まった。
そしてようやく、次の議題に進む。
「では、通貨についての議題に移りたいと思います」
進行の男性が最初に言ったように、これから始まるのは、魔族領と人族領の通貨の違いについての問題だ。
「現在、我々人族領の通貨単位は、勇者様の『カーラ』、魔族領の単位は、魔王殿の『メイ』となっております。これらのどちらかを使うか、それとも全く別の単位に一新するか。先ずは、皆様のご意見をお聞かせください」
「メイがボクより強いんだから、『メイ』にするべきだよ!」
そして、少し食い気味に答えたのは、もちろんカーラさん。一切の迷い無く、通貨単位を魔族領に統一しようとしている。もちろんカーラさんにとって、魔族領とか人族領とかは関係ない事は明らかだ。ただ単に、メイお姉ちゃんが自分より強いという事だけしか見ていない。
だけど、その意見に反発する様に、国王様が口を開いた。
「…だが、勇者殿。『カーラ』という単位は、勇者殿が前魔王を倒した功績を称えて変更されている。これは長年続いてきた伝統だ。我々王族としては、この伝統を途絶えさせたくないという気持ちもある」
「ボクは四天王の居ない魔王を倒しただけだよ。メイに比べれば、大した功績じゃないよ!」
「…そうか。…そうだな」
国王様の意見に対し、物凄く珍しくカーラさんが、まともと思える意見を発し、皆が驚きや納得の表情をする。
流石の国王様も、この意見には何も言えず、渋々納得の表情を見せる。
「私もカーラの意見に賛成です。カーラは、功績よりも罪科の方が多いですし」
「………そうだな」
そして、サクラさんも追加で意見し、国王様が何とも言えない表情になる。私はよく知らないけど、サクラさんの言葉を誰も否定しないという事は、事実なのだろう。
それを言われたカーラさんも、『そうだよそうだよ!』と言い、全く反省している様子はない。
「…キャルシィ殿は、意見はあるか?」
「あ、はい」
そして、この場での唯一の魔族領出身の私にも、国王様から意見を求められた。
「…えっと。私も、できるなら『メイ』で統一する方が良いと思います。和平が進んだとはいえ、カーラさんを恨んでいる人は少なからず居ると思うので」
寧ろ、人族でもっとも魔族に恨まれている存在なのかもしれないと思いながら、私は意見を口にした。前魔王様を慕う人は多かったし、争いはせずとも、カーラさんだけは受け入れられない魔族も居るだろうから。
「…そうだな」
カーラさん、サクラさん、そして私の3人から、連続で反対の意見を言われ、国王様は心なしか元気がなくなってしまった。よほど、伝統にこだわりがあったのだろう。
だけど、まだ少しだけ諦めていな国王様は、残りの2人にも意見を求める。
「神官様は、どうお考えですか?」
「あらあら、私はカーラちゃんが良いなら、『メイ』ちゃんにするべきだと思うわぁ」
「…ユリアール侯爵は…」
「『カーラ』でなくなるのは寂しい気持ちがありますが、この状況であれば、『メイ』にした方が、お互いにとって良いと思われます。キャルシィ殿が言ったように、『カーラ』に統一するのは、様々な問題が起こりそうですし」
「…そうだな」
私達に続き、神官様とユリアール侯爵にも反対の意見を言われ、国王様は俯いて暫し考え込んだ。だけど、この状況で皆が納得する考えが出てくる事も無く、国王様はため息を付いて顔を上げた。
「皆の意見を参考にし、通貨単位は『メイ』に統一する」
そして、国王様は意を決し、宣言した。これで正式に、メイお姉ちゃんが世界の中心だ。
「やった!メイも喜んでくれるよ!」
「ふふっ、喜ぶ訳ないじゃない。何言ってるのよカーラ」
国王様の宣言に、カーラさんが喜び、サクラさんが楽しそうに笑う。私も薄々思っていたけど、この事をメイお姉ちゃんが喜ぶことは無いだろう。寧ろ、凄く嫌そうな表情をするのが想像できてしまう。
それでも、通貨単位は『メイ』にするべきだし、『メイ』にする事に大きな意味がある。サクラさんも、それが分かっているから、『メイ』にするべきだと意見したのだと思う。サクラさんは優しいから、きっと心の中では申し訳なく思っているのだろうけど。
そして、今後の細かな日程を決め、今回の会議は終わった。私がメイお姉ちゃんの代わりをしっかりと果たせたとは思えないけど、騎士団長との事以外に大きな問題も無く終わった事に一安心する。
でも、もう二度とこんな席に座りたくないから、メイお姉ちゃんにはいい加減帰ってきてもらわないと困る。メイお姉ちゃんが居なくなって、もう1年以上経つし、いくらサクラさんが居ても寂しい気持ちが溢れてくる。本当に、いつになったら帰って来てくれるのだろうか。




