11話 とぼとぼ
国王様は、騎士団長のシュレイダーに話を振られ、疲れた表情で口を開いた。
「…シュレイダー、キャルシィ殿には魔族代表として参加してもらっている。この会議において重要な人物だ。それに、サクラ殿や勇者殿はユリアール領冒険者ギルドに協力を仰ぐ上で、なくてはならない方達だ。追い出す事はできない」
国王様は、この会議の議題について私たちを重要な人物だと判断しており、騎士団長の意見は聞き入れなかった。普通に考えて、ユリアール領での魔族の受け入れについての会議なのだから、そうなるのは当たり前の事だと思う。
だけど、それでも騎士団長は諦めない。よほど私たちの事が気に入らないのだろう。
「くっ…ですが、こいつらは国王様の前で不敬な態度を取りました。厳重に処罰するべきです」
騎士団長は、私を指差しながら、そう言う。でも、そんな事言ったら、もちろんサクラさんは黙っていない。
「不敬なのは、あんたでしょ? この会議に不要なのは、あんたの方じゃない。さっさと『外でスクワット』でもしてなさいよ」
「くそが!調子に乗りやがって!!」
ダンッッ!!
そして、騎士団長は本格的にキレてしまい、机を強く叩いた。
だけどそれが、ある人物の怒りに触れたのだった。今度は、騎士団長の隣から殺気が溢れ出し、場の空気が再び変わる。
「…シュレイダー、いい加減にしろ」
どうやら、騎士団長の言動に、国王様も限界だった様で、静かに、でも確かに怒ってしまった。大きな音を立て、机が揺れた事が、国王様の気に触ったのかもしれない。
国王様のレベルは、この会議のメンバーの中では低い方だ。だけど、それでもランキング上位に位置している確かな実力者だ。何より国王である事が、この殺気を生み出しているのかもしれない。
「こ、国王様…」
「はぁ…。シュレイダー、出ていけ。『外でスクワット』でもやっていろ」
「なっ…!!」
騎士団長は、まさか国王様からも『外でスクワット』を命じてくるとは思わなかった様で、明らかに動揺している。
一方、国王様の言葉を聞いたサクラさんは、凄く嬉しそうに騎士団長を見つめる。
「聞こえなかったのか?さっさと出ていくんだ」
「…はい」
そして、騎士団長は怒りに震えながらも、それ以上国王様に反論する事ができず、とぼとぼと部屋を出ていった。
騎士団長のレベルは国王様より高いが、それを黙らせる国王様は、流石としか言えない。
前回はメイお姉ちゃんに命じられ、今度は国王様に『外でスクワット』を命じられる。そんな人物は世界でこの人だけだろうし、ある意味すごい事だと思う。可哀想だとは思わないけど、立ち直れなくなるのではないかと、少しだけ心配だ。
「…サクラ殿。すまなかったな、私の部下が」
「いえ。私の方こそ、お見苦しいところをお見せしました」
そして国王様は、国のトップでもあるに関わらず、サクラさんに頭を下げ、謝罪した。そして、サクラさんも十二分に気が収まった様で、嬉しそうに返答した。
「キャルシィ殿にも大変不快な思いをさせてしまったな。シュレイダーは騎士団長から降格させる。今回の事は、それで穏便に済ませて欲しい」
「…え。そ、そこまでしなくても大丈夫ですよ!特に何かされた訳でもありませんし」
国王様は、サクラさんに続き私にまで頭を下げ、とんでもない事を言ってきた。私は少し小娘呼ばわりされたくらいなのに、それだけで騎士団長を降格だなんて、やりすぎだと思う。
「良い機会だからな。あいつは実力はあるんだが、それ以外が騎士団長の器ではない。それに、イルケードが冒険者を引退して騎士団に入ってくれる事になっている。イルケードなら騎士団長の仕事くらい出来るだろう」
「…そうなのですね」
私には騎士団長の仕事がどんなものかは分からないから、『なら大丈夫ですね』などと簡単に言える訳もなく、曖昧な返答をした。イルケードという人は、カーラさんを除けば最強の冒険者だし、悪い噂は聞いた事が無いから、きっと大丈夫なのだろうけど。
それにしても、サクラさんは出会った時より、かなり強くなったなと感じてしまう。
レベルが上がったのはもちろんだけど、それだけではない自信の様なものが感じられる。きっと、冒険者としてメイお姉ちゃんやカーラさんと過ごした事が、サクラさんを大きく変えたのだと思う。まだ就任したばかりだけど、ギルドマスターとしての威厳が出てきている様にも感じられるし。
……嫌味を言われても、反論すら出来ない私と違って。
私は、魔王様の十三天王として、全く頼りにならない。いつだって誰かに守られてばかりだ。
…こんなに頼りになる見本が近くに居るのだから、私も少しは成長しないとダメかもしれないな。メイお姉ちゃんが帰ってきた時に、『成長しましたね』と言ってもらえるくらいには。




