1話 追放と告白
よろしくお願いします。
「つまんないなぁ」
七聖龍の一匹『雷龍』を倒した瞬間、ボクの口から自然とその言葉がこぼれてきた。
最強の龍種を相手にしても全く面白くない。ボクは強くなりすぎてしまったんだ。
こうなってしまったのは、ボクの忌々しい称号『勇者』のせい。
勇者の称号を得た時、ボクは『獲得経験値上昇』というスキルを獲得した。経験値とは、修行や日々の生活で少しずつ得られる。そして、一番効率が良いのは『敵』と戦った時だ。相手が強ければ強いほど、その戦いに貢献すればするほど多く貰える。
最初は良かった。どんどん強くなれて楽しかったし、ボクより長く戦いに身を投じていた人は、レベルが高く経験も豊富でボクより強かった。
魔王討伐の旅に出る前までは…。
『魔王』との戦いは、ボクの人生の中で一番楽しい時間だった。魔王はボクよりも強く、『聖女』と『賢者』の称号を持つ2人の協力がなければ、ボクは負けていたかもしれない。そして本当にギリギリでボクは勝つ事ができた。
だけど、それが悲劇の始まりだった。
魔王を倒したときに得られた大量の経験値。上がりまくるレベル。…そして魔王討伐から帰ってきたボクは、圧倒的に強くなってしまっていた。
魔王を討伐して2年以上、ボクは強敵を探し続けた。その間にも、ボクのレベルは上がり続ける。
今日は『雷龍』を倒した。全く相手にならなかったけど、それでもレベルは上がってしまった。
♢♢♢
「素材の買取りをお願い」
ボクは重い足取りでギルドに戻り、素材の買取りを依頼した。この冒険者ギルドでは、倒した魔物を買い取ってくれる。
「あ、勇者様。今日はどのような相手を討伐なされたのですか?」
「…トカゲ」
「…そうですか。分かりました。奥へお願いします」
そして受付嬢のサクラは、少し呆れた様な表情で、ボクを奥の巨大倉庫に連れて行った。
「こちらにお願いします」
「うん」
サクラに言われ、ボクはアイテム袋から『雷龍』を取り出した。ボクのアイテム袋は、かつて共に旅をした仲間が作ってくれたもので、ある程度の大きさのものなら簡単に収納出来てしまう優れものだ。
どしんっ!
「……は?…これは『雷龍』ですよね?この前、約束しましたよね?これ以上『七聖龍』を殺さないって。もう3匹目なんですよ?」
「…だって、もしかしたら強いかもしれないから」
「はぁ、勇者様より強い龍なんて存在しません。勇者様ご自身が一番分かっていますよね?いい加減にしてくださいよ」
2匹目の七聖龍を持ってきた時と似たようなことを言われ、ボクは返す言葉が無かった。
「数千年生きていると言われ、世界を見守っていた七聖龍の最後が『勇者』に殺されるなんて残酷ですね。……はぁ。代金の計算を致しますので、暫くロビーでお待ちください」
「うん」
サクラは少しだけ怒っているみたいだけど、すぐに素材の確認を始めてくれた。
♢♢♢
ロビーに戻ると、他の冒険者が何人も居て少し混んでいたから、ボクは壁に寄りかかって呼ばれるのを待つことにした。すると、聞くつもりは無くても大きい声での会話は聞こえてしまう。
「お前はクビだ!俺たちのパーティーにいらねぇんだよ」
そう。はっきりと聞こえてくる様な声は、こんな風にありふれた会話ばかりだ。
「どうしてですか?私、役に立ってますよね?」
「ああ、そりゃあ役に立ってるさ。でもな、俺達とお前の戦い方は合わないんだよ!お前は相手にデバフ掛けるばっかりで、俺達の事を考えてねぇじゃないか」
デバフ?
「仕方ないじゃないですか。それが私の戦い方なのですから。相手が弱くなって楽に狩れますよね。何が不満なのですか?」
相手が弱くなる?
「不満しかねぇよ!相手が弱くなって何が楽しいんだよ!俺達は毎日毎日スライムと戦ってるようなもんなんだぞ!」
…スライムみたいに弱くなる? ………それだ!
そしてボクは急いで彼らの元へと向かった。
「ねぇ、そのデバフって人間にも効果があるの?」
「あ?何だよ、横から…って勇者カーラ様っ⁉︎」
その呼ばれ方にボクは少しムッとしつつも再び質問した。
「で、どうなの?」
「出来ますよ。人間でも魔族でも」
ああ、なんて良いことを聞いたんだ。こんな可能性が残っていたなんて。
「勇者様、査定終わりましたよ」
すると、サクラが戻ってきてボクを呼んだ。今、凄く良いところなのに。
「ちょっと待ってて。すぐ戻るから。絶対に待っててね!」
そしてボクは足早にサクラの元に向かった。
「お待たせしました。素材代、8700万カーラになります」
「うん、ありがとっ。ごめん、すぐ戻らなきゃ!」
サクラには悪いけど、今は一刻を争う事態なんだ!
「…勇者様のそのような顔、初めて見た気がします」
急ぐボクを見て、サクラはそう言った。
ああ、今ボクはどんな顔をしているんだろうか。きっと、初めて剣を持った子供みたいな顔をしているんだろうな。
「ごめんね、待たせて。で、もし良かったらなんだけど、この子を貰っても良いかな?パーティーから追い出すんだよね!」
「ははっ…!もちろん。どうぞ貰ってください!」
「…え?ちょっと待ってください!私の事を勝手に決めないでください!」
「良いじゃねぇか。どっちにしろお前はクビなんだ。行く当てなんてねぇだろうが。勇者様が欲しいって言ってるんだから嬉しいだろ!」
こんな可能性あふれる凄い子をクビにするなんて、こいつらは馬鹿なのかな?これじゃあ、ボクが憐れんで拾っているみたいじゃないか。
「何か勘違いをしているね?ボクは彼女を引き抜こうとしているんだ」
ボクはそう言って、さっき貰ったばかりのお金を袋ごと彼らに投げ渡した。
「お嬢さん、ボクと一緒に冒険してもらえないだろうか?」
「…勇者様はご存じ無いかもしれませんが、女性同士では結婚できないんですよ?」
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