1話 追放と告白
よろしくお願いします。
「いい加減にしてくださいよ!何度言えば分かるんですか!」
「……ごめん」
冒険者ギルドの受付嬢である私は、担当している勇者様が討伐してきた魔物を見て怒りをぶつけている。何故なら、勇者様が討伐してきた魔物は、千年以上世界を見守っていると言われる聖なる龍。その『七聖龍』の一匹『雷竜』だったからだ。
「…勇者様。この前、約束しましたよね?これ以上『七聖龍』を殺さないって。もう3匹目なんですよ?」
「…うん」
勇者様は魔王を討伐してくださった英雄であり、平和の象徴。……と、世間には思われているが、実際には違う部分がある。
勇者様はただただ戦う事が好きなお方だ。魔王を倒した後は強者を求め、レベルの高い人に片っ端から勝負を仕掛けていた。冒険者ギルドのギルドマスターや、国の騎士団長。更には国王様や先代国王様までも。そして、相手になる人族が居ないと分かると、七聖龍に手を出し始めてしまった。
「勇者様より強い龍なんて存在しません。勇者様ご自身が一番分かっていますよね?」
「でも、もしかしたら強いかもしれないし。残りの4匹はボクより強いかも…」
「は?」
…信じられない。現在進行形で私は怒っているというのに、この人は懲りもせずに残りの七聖龍とも戦うつもりの様だ。
強くなりすぎて戦える相手が居なくて苦しんでいる事は分かっている。それでも、やって良い事と悪い事の区別くらいはつけてもらいたい。
「…お願いですから、これ以上は七聖龍を減らさないでください」
「…うん」
私がお願いしても無駄な事は分かっている。何せ、『緑龍』を討伐してこられた時にも同じ事を言ったからだ。そうだとしても、私にできる事はそれくらいしかない。
千年以上もの間、世界を見守っていた七聖龍の最後が『勇者』に殺されるなんて、とても残酷な事だ。
♦︎♦︎♦︎
「また怒られてしまったな」
サクラに『雷竜』の査定をお願いすると、2匹目のトカゲを倒した時と同じ様な事を言われて少し怒られた。
「どうしてボクより強い相手が居ないんだろうか」
七聖龍は最強の龍種だと言われているのに相手にならないし、ボクよりレベルが高い人はもう居ない。どうしてボクは、勇者なんかに選ばれてしまったんだろう。
勇者の称号を得た時、ボクは『獲得経験値上昇』というスキルを獲得した。経験値とは、修行や日々の生活で少しずつ得られる。そして、一番効率が良いのは『敵』と戦った時だ。相手が強ければ強いほど、その戦いに貢献すればするほど多く貰える。
称号を得た時は、どんどん強くなれる事がとても楽しかった。ボクより長く戦いに身を投じていた人はレベルが高くて経験も豊富でボクより強かったし、目標もあった。
魔王討伐の旅に出る前までは…。
『魔王』との戦いは、ボクの人生の中で一番楽しい時間だった。魔王はボクよりも強く、『聖女』と『賢者』の称号を持つ2人の協力がなければ、ボクは負けていたかもしれない。そして本当にギリギリでボクは勝つ事ができた。
だけど、それが悲劇の始まりだった。
魔王を倒したときに得られた大量の経験値。上がりまくるレベル。…そして、魔王討伐から帰ってきたボクは、圧倒的に強くなってしまっていた。
それでも、ボクより強い相手が居ると信じ、魔王を討伐して2年以上ボクは強敵を探し続けた。その間にも、ボクのレベルは上がり続ける。
「…つまんないなぁ」
そんな事を思い、ボクは査定が終わるのをロビーで待っていた。
今は昼時で、依頼や討伐から戻ってきた冒険者でロビーは少し混んでいる。だからボクは、壁に寄りかかって呼ばれるのを待つことにした。すると、ギルドに大きな声が響き渡った。
「お前はクビだ!俺たちのパーティーにいらねぇんだよ」
…またか。冒険者がパーティーを解散する事はよくある事だ。ボクも魔王討伐の時はパーティーを組んでいたけど、討伐が終わったら直ぐに解散してしまった。
「どうしてですか?私、役に立ってますよね?」
「ああ、そりゃあ役に立ってるさ。でもな、俺達とお前の戦い方は合わないんだよ!お前は相手にデバフ掛けるばっかりで、俺達の事を考えてねぇじゃないか」
デバフ?
「仕方ないじゃないですか。それが私の戦い方なのですから。相手が弱くなって楽に狩れますよね。何が不満なのですか?」
相手が弱くなる?
「不満しかねぇよ!相手が弱くなって何が楽しいんだよ!俺達は毎日毎日スライムと戦ってるようなもんなんだぞ!」
…スライムみたいに弱くなる? ………ちょっと待って。それってつまり!
ボクは、とある可能性を感じ、急いで彼らの元へと向かった。
「ねぇ、そのデバフって人族にも効果があるの?」
「あ?何だよ、横から…って勇者カーラ様っ⁉︎」
ボクが話しかけた事に驚き、答えが返ってこない。少しムッとしつつも、早く答えてほしくてボクは再び質問した。
「で、どうなの?」
「出来ますよ。人族でも魔族でも」
ああ、なんて良いことを聞いたんだ。こんな可能性が残っていたなんて。
「勇者様、査定終わりましたよ」
すると、サクラが戻ってきてボクを呼んだ。今、凄く良いところなのに。
「ちょっと待ってて。すぐ戻るから。絶対に待っててね!」
そしてボクは足早にサクラの元に向かった。
「お待たせしました。素材代、8700万カーラになります」
「うん、ありがとっ。ごめん、すぐ戻らなきゃ!」
サクラには悪いけど、今は一刻を争う事態なんだ!
「…勇者様のそのような顔、初めて見た気がします」
急ぐボクを見て、サクラはそう言った。
ああ、今ボクはどんな顔をしているんだろうか。きっと、初めて剣を持った子供みたいな顔をしているんだろうな。
「ごめんね、待たせて。で、もし良かったらなんだけど、この子を貰っても良いかな?パーティーから追い出すんだよね!」
「ははっ…!もちろん。どうぞ貰ってください!」
「…え?ちょっと待ってください!私の事を勝手に決めないでくださいよ!」
「良いじゃねぇか。どっちにしろお前はクビなんだ。行く当てなんてねぇだろうが。勇者様が欲しいって言ってるんだから嬉しいだろ!」
こんな可能性あふれる凄い子をクビにするなんて、こいつらは馬鹿だと思う。ボクにとっては凄くありがたいけど。でも、これじゃあボクが憐れんで拾っているみたいに見えてしまう。
「何か勘違いをしているね?ボクは彼女を引き抜こうとしているんだ」
ボクはそう言って、さっき貰ったばかりのお金を袋ごと彼らに投げ渡した。
「お嬢さん、ボクと一緒に冒険してもらえないだろうか?」
「…えっと。勇者様はご存じ無いかもしれませんが、女性同士では結婚できないんですよ?」
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