1話 追放と運命
よろしくお願いします。
「やっと見つけた」
人里から離れた岩山。そんな場所には似つかわしく無い軽装で、安物の剣を腰に差した若い女性は、山頂を棲家としている生物に話しかけていた。
「どうか、ボクを楽しませてよね!」
そう言って、走り出す。自身よりも遥かに巨大な生物に向かって。
そして、それに気付いた巨大な生物も、体表に雷を纏い、臨戦体制をとる。
今、無謀にも見える戦いが始まろうとーー。
♦︎♦︎♦︎
「いい加減にしてくださいよ!何度言えば分かるんですか!」
「……ごめん」
冒険者ギルドの受付嬢である私は、担当している勇者様が討伐してきた魔物を見て怒りをぶつけている。何故なら、勇者様が討伐してきた魔物は、千年以上世界を見守っていると言われる聖なる龍。その『七聖龍』の一匹『雷竜』だったからだ。
「…勇者様。この前、約束しましたよね?これ以上『七聖龍』を殺さないって。もう3匹目なんですよ?」
「…うん」
勇者様は魔王を討伐してくださった英雄であり、平和の象徴。……と、世間には思われているが、実際には違う部分がある。
勇者様はただただ戦う事が好きなお方だ。魔王を倒した後は強者を求め、レベルの高い人に片っ端から勝負を仕掛けていた。冒険者ギルドのギルドマスターや、国の騎士団長。更には国王様や先代国王様までも。そして、相手になる人族が居ないと分かると、七聖龍に手を出し始めてしまった。
「勇者様より強い龍なんて存在しません。勇者様ご自身が一番分かっていますよね?」
「でも、もしかしたら強いかもしれないし。残りの4匹はボクより強いかもしれ…」
「は?」
…信じられない。現在進行形で私は怒っているというのに、この人は懲りもせずに残りの七聖龍とも戦うつもりの様だ。
強くなりすぎて戦える相手が居なくて苦しんでいる事は分かっている。それでも、やって良い事と悪い事の区別くらいはつけてもらいたい。
「…お願いですから、これ以上は七聖龍を減らさないでください」
「…うん」
きっと、私がお願いしても無駄な事なのだろう。何せ、『緑龍』を討伐してこられた時にも同じ事を言ったが、意味が無かったから。それでも、もう七聖龍を討伐して来ない事を願って、私は言わなければならない。
千年以上もの間、世界を見守っていた七聖龍の最後が『勇者』に殺されるなんて、とても残酷な事だ。
♦︎♦︎♦︎
「はぁ。また怒られてしまった」
サクラに『雷竜』の査定をお願いすると、2匹目のトカゲを倒した時と同じ様な事を言われて少し怒られた。
「どうしてボクより強い相手が居ないんだろうか」
七聖龍は最強の龍種だと言われているのに、今のところは弱い相手しか居なかった。ボクよりレベルが高い人はもう居ないんだから、もう七聖龍くらいしか可能性が無いというのに。
はぁ。こんな事になるなら、勇者なんかになりたくなかったよ。『獲得経験値上昇』のスキルさえ持っていなければ、もっと長い期間楽しめただろうに。
♢♢♢
約4年前に勇者の称号を得た時、ボクは『獲得経験値上昇』というスキルを獲得した。勇者に選ばれた者が必ず得るスキル。このスキルは名前の通り、修行や日々の生活で少しずつ得られる経験値が、通常よりも多くなるスキル。強い相手と戦うだけで、簡単にどんどん強くなっていく。
もちろん、称号を得たばかりの頃は、強くなれる事がとても楽しかった。ボクより長く戦いに身を投じていた人はレベルが高くて経験も豊富でボクより強かったし、目標もあった。いつか必ず超えてみせる。そんな気持ちで戦い続けた。
そして、運命の日。待ち焦がれた目標…魔王討伐の時がやってきた。
ボクが楽しみにしていただけの事もあり、『魔王』との戦いは、ボクの人生の中で一番楽しい時間だった。魔王はボクよりも強く、『聖女』と『賢者』の称号を持つ2人の協力がなければ、ボクは負けていたかもしれない。そんな本当にギリギリの戦いだった。
だけど、そんな魔王を倒してしまった瞬間。ボクは、ある事に気付いてしまった。体に流れてくる大量の経験値。上がりまくるレベル。更に強くなったボク。
……ボクの…次の相手は?
それから、ボクより強い相手が居ると信じ、魔王を討伐して2年以上、強敵を探し続けた。その間にも、ボクのレベルは上がり続けた。
♢♢♢
「…つまんないなぁ」
過去の事を思い出し、口から本音が漏れた。何でも良い。誰でも良い。また戦いを楽しめる相手は居ないのかと考えながら、ボクは査定が終わり呼ばれる事を、ギルドのロビーで待っていた。
今は昼時で、依頼や討伐から戻ってきた冒険者でロビーは少し混んでいる。強い相手は居ないか。興味を引く話題は無いか。どうせ無駄だと分かっていても、ボクは壁に寄りかかり、ギルド全体を見渡していた。
「お前はクビだ!俺たちのパーティーにいらねぇんだよ」
…またか。冒険者がパーティーを解散する事はよくある事だ。ボクも魔王討伐の時はパーティーを組んでいたけど、討伐が終わったら直ぐに解散してしまった。
これは、ギルド全体に響き渡る雑音。どうでも良いから、早く終わらせてほしい。そう思いつつも、何故だかボクは目が離せなかった。
「どうしてですか?私、役に立ってますよね?」
「ああ、そりゃあ役に立ってるさ。でもな、俺達とお前の戦い方は合わないんだよ!お前は相手にデバフ掛けるばっかりで、俺達の事を考えてねぇじゃないか」
デバフ?
「仕方ないじゃないですか。それが私の戦い方なのですから。相手が弱くなって楽に狩れますよね。何が不満なのですか?」
相手が弱くなる?
「不満しかねぇよ!相手が弱くなって何が楽しいんだよ!俺達は毎日毎日スライムと戦ってるようなもんなんだぞ!」
…スライムみたいに弱くなる? ………ちょっと待って。それってつまり!
ボクは、とある可能性を感じ、急いで彼らの元へと向かった。雑音?…違う!これは運命の導きかもしれない!
「ねぇ、そのデバフって人族にも効果があるの?」
「あ?何だよ、横から…って勇者カーラ様っ⁉︎」
ボクが話しかけた事に驚き、答えが返ってこない。少しムッとしつつも、早く答えが欲しいボクは、再び質問する。
「で、どうなの?出来るの?」
「出来ますよ。人族でも魔族でも」
ああ、なんて良いことを聞いたんだ。こんな可能性が残っていたなんて。
「勇者様、査定終わりましたよ」
すると、サクラが戻ってきてボクを呼んだ。今、凄く良いところなのに。
「ちょっと待ってて。すぐ戻るから。絶対に待っててね!絶対だからね!」
ボクは念を押し、足早にサクラの元に向かう。
「お待たせしました。素材代、8700万カーラになります」
「うん、ありがとっ。ごめん、すぐ戻らなきゃ!」
サクラには悪いけど、今は一刻を争う事態なんだ!
「…勇者様のそのような顔、初めて見た気がします」
急ぐボクを見て、サクラはそう言った。
ああ、今ボクはどんな顔をしているんだろうか。きっと、初めて剣を持った子供みたいな顔をしているんだろうな。
「ごめんね、待たせて。で、もし良かったらなんだけど、この子を貰っても良いかな?パーティーから追い出すんだよね!」
「ははっ…!もちろん。どうぞ貰ってください!」
「…え?ちょっと待ってください!私の事を勝手に決めないでくださいよ!」
「良いじゃねぇか。どっちにしろお前はクビなんだ。行く当てなんてねぇだろうが。勇者様が欲しいって言ってるんだから嬉しいだろ!」
こんな可能性あふれる凄い子をクビにするなんて、こいつらは馬鹿だと思う。とんでもない馬鹿に違いない。ボクにとっては凄くありがたいけど!…でも、これじゃあボクが憐れんで拾っているみたいに見えてしまう。全然違うのに。
「何か勘違いをしているね?ボクは彼女を引き抜こうとしているんだ」
ボクはそう言って、さっき貰ったばかりのお金を袋ごと彼らに投げ渡した。
「お嬢さん、ボクの仲間になってよ」
「…えっと。私が勇者様の仲間に…ですか?」
読んでいただき、ありがとうございます。




