正人の話 其の肆
昼間は眩しくて動くことができなかった。
眩しすぎて空を見上げることもできない。
俺は……、俺は、こんなだっただろうか。
陽の光の下を走り回る姿を想像し、どこか懐かしく感じた。
自分の身体を観察した。
手足はどこにもなかった。
かつて陽の光の下を走り回ったはずの足がそこにはなかった。
どういうことか?
理解できない……。
もとからこうであった気もするし、そうでなかった気もした。
体は銀色の鱗に覆われ、曲がりくねった丸太のような形をしていた。
もとからこうであった気もするし、そうでなかった気もした。
わからない。
わからない。
もういい。
今は寝よう……。
日が暮れると俺はズルズルと体をくねらせるようにして動いた。
昨日食べた女の残骸がまだ胃の中に残っている。
気持ちが悪い……。
騒々しい場所は避けて移動した。
あまりに多くの音がした。
耳は目と同じくらい重要な感覚器官だった。
太陽の光が眩しすぎて目が眩むのと同じで、多くの音にさらされるとくらくらと眩暈がした。
やがてどこかの山にたどり着いた。
俺は爽快な気分で森の中を這いずり回った。
喉が渇き、水の匂いに誘われ進んでいると、川にたどり着いた。
喉を潤すだけでなく、俺は全身を水に浸け、しばらくそこにとどまった。
「ギィーーー……」と何かの声が聞こえた。
その気配に全神経を集中した。
霞みのようで目には見えない。
だが確実に何かがいた。
「ギィーーー」ともう一度鳴いた。それは威嚇しているようにも、助けを求めているようにも聞こえた。
微かに血の匂いがする。
俺はもっとよく見るために、そいつに近づいた。
「ギィーーー」と鳴いた。怯えている。
俺は自分の身体から鱗を一枚抜き取り、そいつに差し出した。
そいつはまるで死にかけの子猫のように、俺の抜き取った鱗を受け取り、口に入れた。
「ギィーーー」と鳴いた。だがもう怯えている様子はなかった。
靄のように漂っていた気配が形を成してきた。
最初に腹が見えた。
骨の浮き出た腹が見えた。
呼吸をするたびに、その腹は大げさなほどに上下した。
そいつの皮膚は赤かった。
まるで皮を剥がれた小動物のようだ。
次第に腕、脚、顔も形を整え、小さな歯の並んだ嘴のような物もその顔に出来上がった。
「ギィーーー」と鳴いた。黄色い目がぎろりと動き、俺を見据えた。
なんだこいつは……。
食う気にもならないほど気味の悪い姿をしていた。
敵意はなさそうだ。
襲ってきたところで、相手にもならないだろう。
俺はさらに先に進もうと、川を渡って森に入ると、そいつは後ろを付いてきた。
気にはならないので放っておくことにした。