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あの日、僕は誰もいない世界を望んだ

作者: 多喜川亮磨

あの日、僕は誰もいない世界を望んだ。

理由は単純かつ明快。一人になりたかったからだ。今から考えるととても病んでいた、十四歳のあの自分の物語。



今から三年前、僕は十四歳・中二だった。その頃、僕は高校受験のために塾に通っていた。なぜ中二からかというと、僕は学校のテストの成績が悪かったからだ。と言うと誤解を招くので訂正すると、あの頃の僕はあそこら辺の年齢特有の病を拗らせて、何事も無気力になっていた。つまり、テストもやる気がなかっただけなのだ。なのにウチの親は僕の、地を這うムカデのような成績を必要以上に悲観する先生の

「このままでは行ける高校がない」という大袈裟な注意喚起を鵜呑みにして、嫌がる僕を無理やり塾に通わせたのだ。

家から僕の通う塾へは地下鉄で一時間かけて行くのが最も早いらしい。何でそんな遠出をしなければいけないのかというと、先にも言ったように、必要以上に成績を悲観した親が勝手に「有名国公立高校合格率百パーセント」という看板を持つ隣県の塾に泣きついたからだ。

こうして無理矢理塾に通うことになった僕は、初め面倒くさいということもあって周りに言わないまま通い、塾が終わる九時半からダッシュで地下鉄に駆け込んで帰るのが常だった。だが通い初めて一か月くらい経った頃のこと。


その日も僕は塾からダッシュで地下鉄に駆け込んだ。そこまではいつもと同じ。だが、息を切らせて座席に身体を投げ出して下を向いていた僕に

「おっ、お前……。」

嘲笑うような声が聞こえた。前を向き返ると、いつもクラスで訳もなく遊び半分で僕をいじるクラスメートがニヤつきながら立っている。

「誰かと思えば【害悪キッズ】じゃん!」

何の反応も示さない僕に構うことなく、彼は半笑いで続ける。【害悪キッズ】。それがそのまま僕のクラスでの立ち位置だ。彼は更に、

「お前塾に通ってんのか?馬鹿だな。」と、言いたいことだけ言い切って向こうに行ってしまった。

僕はその時こそ平静を装えたが、あとから悔しさが込み上げて来て地団駄踏んだ。それと同時にトラウマにもなったため、それ以降は塾が終わったら近くのカフェで宿題などをしながら時間を潰し、終電で帰るという生活スタイルの変更をした。このスタイルは結構良い。なぜなら終電だと知り合いに会う確率はないに等しい。その上、孤独が好きな自分にはおあつらえ向きの車内・誰もいない車内だ。おかげで、終電の中だけでは学校や塾であった嫌なことを全て忘れることができた。

そんな日々が続いていたある日、僕は誰もいない世界を望む事になった。


その日も、いつものようにカフェで宿題をして時間を潰して終電に乗り込んだ。発車を知らせるメロディーが流れ、ドアが閉まる。そして車体が動き出すと同時に緊張の糸が切れ、僕は座席シートに倒れた。同時に発した「あ〜。」という無気力な声は、誰もいない車内の空気をかき鳴らして虚しく消えていく。僕は無機質な天井を眺めながら今日、学校であった事を思い出す。今日はいつもよりストレスが溜まっていたのだ。天井から視線を下ろし、今日一日の事を思い出して嫌な気持ちになった僕は、そのストレスを叫ぶ事で晴らそうとも考えたが、人がいないとは言えさすがに気が引けて恥ずかしいので、逆に一人黙々と考えることで晴らすことにする。そう決めた僕は、振り返ってガラス窓に手で触れてみる。当たり前だが、手にはひんやりした感覚が伝わってくる。それを感じた僕は、急に永遠の孤独を感じてしまった。これまでの人生を振り返って見ても、僕には小三以降人と上手く交流出来た記憶がない。ここから考えるに、僕はこれからの人生もまた同じであろう。毎日なんて所詮『昨日』というモノを死ぬまでループするだけのものだ。それが分かっているのに、何故人はその無限ループを我慢して過ごしているのだろう。僕にはそれが不思議でしょうがない。そして僕にとっての『昨日』というモノは、周りに嗤われて勝手に『害悪』化される。そんなものでしかない。それに初めて気付いた時はショックというよりも落胆したという方が正しい。そして今、それを理解しているのにも関わらず動けない自分を歯がゆく思っていた。今すぐ死ぬ事も考えた。そうすればこの耐えきれない無限ループから逃げられると。そう思ったからだ。だが最近になってようやくわかった。急がなくてもその内みんな死ぬんだと、そんな小学生でも分かることが。だから僕はこれからの人生に期待などせず、出来ればウザいクラスメートも教師もいない、誰もいない世界で過ごしたいと。この瞬間、切にそれを望んだ。


『あの日、僕は誰もいない世界を望んだ』完


※この物語はフィクションです。本作品に登場する人名・地名・組織名等は、実際のものとは全く関係ありませんのでご了承下さい。


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