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27.王女、魔術師団長に会う

 次の日、早速ロックウェル魔術師団長は私の元へやってきた。

 それもかなりハイテンションで。


「姫、でん、かあぁぁぁあ!!!!!」


 バーンッッと勢いよく扉が開き、丁度ランドール先生の授業を受けていた私は突然の訪問にビックリしてしまう。

 いや、この登場を驚かない人がいるだろうか?先生ですら驚いて固まっていた。


「姫殿下!姫殿下!大変素晴らしいです!!一体何をどうやったらあんなに素敵なことになったのでしょう!?」


 呆然と固まっている私の手を握り、ユリアナが止めるのも聞かずに捲し立てる。


「ああ!なんて素敵なんでしょう!!これだけ広い魔力過多の土地!しかも薬草を育ててる!!これで私の研究が捗るわああっっ!!」


 我が主神に感謝を!と神様に感謝をしているが、それよりもこの状況をどうすればいいのだろう?

 困っていると、扉の向こうからこっそりとリーンとシャンテが覗いている。どうすればいいの?と口をパクパクと動かしてみるが、二人は項垂れた状態で頭を振るのみ。

 つまり暫くはこのハイテンションな状態は止まらない、と言うことだろうか?


「ロックウェル魔術師団長、その……姫殿下が驚いてらっしゃいますから、少し落ち着かれては?」


 ランドール先生が恐る恐ると言った感じで魔術師団長に声をかける。

 自分の夢を熱く語っていた魔術師団長は、ようやく我に返ったのか誤魔化すように「ほほほほほ」と笑った。

 悪い人ではない。だが研究に対する熱量がすごいのだ。



 ひとまず、私は勉強中なので終わるまで待ってもらうことにした。魔力過多の土地のことも、ぽーしょんと言う薬のことも気にはなるけど、私に課せられたことはきちんとこなさなければならない。

 リーン、シャンテ、魔術師団長にはお茶を飲んでいてもらい、私はランドール先生の授業を再開する。


「ではその、授業を再開しましょうか」

「はい。お願いします」


 後ろからの視線が痛いがこればかりは仕方がない。事前に知らせてくれれば時間をずらせたが、急に来られては流石に難しいのだ。

 先生の授業を受け、わからないことを質問し、紙に綴っていく。先生は私に学ぶ意欲があるとわかると、どんどん新しいことを教えてくれるのでとても助かっている。

 知らないことを知るのはとても楽しい。だから本当は、魔術師団長と早く話したいのだけど……と思っていると先生と目があった。


「姫殿下、すこーし集中が削がれてますね?」

「うっ……ごめんなさい」

「いえ、こればかりは……仕方ありませんね」


 今日はここまでにしましょう、といつもより少し早く切り上げてくれる。

 私が先生にお礼を言うと、お茶をしていたはずの魔術師団長が分厚い本を持って後ろに立っていた。


「さ、姫殿下。次はこちらです!ええ、是非とも!!」

「ロックウェル魔術師団長……私、全く何もわからないのだけどよろしいかしら?」

「ええ、問題ございません。この国で魔力過多の土地のことやポーションについて研究をしているのは多分、私ぐらいですからね。リーンくんが興味を持ってくれているので……騎士団長の許可があれば弟子にしたいぐらいです」

「騎士団長はダメだと言っているの?」

「今の所、断られてますね。未知の分野に息子を放り込むわけにはいかん!と」

「初めてのことはいつだって未知の分野だと思うけど……」

「そうですよね?そう思いますよね?何事も挑戦する心が大事ですよ!!」


 グッと拳を握りしめて、天井に突き上げる。

 余程断られているのだろう。もちろん騎士団長の気持ちも分からなくはない。

 男の子なら自分の跡を継いで騎士になって欲しいと思うものだし。でも不思議なのは自分の子供であるシャンテを弟子にしたいとは思わないのだろうか?

 チラリと本人を見ると、また頭を左右に振る。本人にその気はないようだ。


「魔術師団長、私も後学の為にお伺いしても?」

「ええ、是非!知ってくださる方が増えるととても嬉しいです」

 

 私達はお茶をしながら魔術師団長の講義を受けることになった。






 ***


 ロックウェル魔術師団長が若かりし頃、とある国へ留学に行ったそうだ。

 そこは我々の国であるファティシア王国よりも魔力が充満している国で、10年単位でスタンピードが起こる。そんな国だそうだ。

 どうやらスタンピードの原因は局所的に魔力が溜まり、そこに魔物が入り込むことで起こるらしい。

 魔物が入らず、人が手を入れれば上手い具合に魔力過多の土地になる。そこで薬草を育てれば発育も良く、ぽーしょんの材料になるらしい。


「国によって魔力の量が違うの?」

「魔物がよく出る国はそうですね。なので、我が国の平均よりも向こうの国の魔力平均値の方が高いです」

「ああ、ラステア国ですね。龍が守護すると言う」

「ええ、その通りです」


 ランドール先生がラステア国と言う国のことを簡単に教えてくれた。

 風土はうちの国と変わらない。ラステア国の人達は温和な人が多いが、みんなそれぞれが魔力値が高いので戦闘要員としても優秀なのだとか。

 普段は普通にお仕事をして、有事の際は戦う。龍に守護された国の人なので、戦闘において負け知らずとも言われている。


「なんだかすごい人達ね」

「とても気の良い人達ですよ」

「ねえ、魔術師団長はどうしてラステア国に留学したの?」

「私は魔力量が多かったのですが、上手く使いこなせませんで……で、たまたまラステア国からこちらに仕事に来ていた人がそれを聞いて、招いてくれたんですよ」


 招いてくれた、と言っても貴族の女性が単身で留学に行くのはきっと大変だったに違いない。

 見知らぬ土地で自分の力を使いこなす為に大変な努力を重ねたはずだ。

 それを感じさせない魔術師団長はとてもすごいと思う。そんな感想を抱いていると、シャンテの顔が暗くなっていることに気がついた。

 丁度視線も合い、私が軽く首を傾げるとシャンテは何でもないと首を振る。


「ねえ、魔術師団長。私も魔力が多いようなの。今はマリアベル様にお願いして見てもらっているのだけど……」

「魔力数値はどのぐらいですか?」

「最初測った時は18だったの。でもマリアベル様に教えてもらっているうちに20まで上がったわ」

「……その測定はいつ?」

「視察から戻って直ぐかしら?その後は授業の度に測ってるわ」


 私の言葉に魔術師団長は少し難しい顔をした。何か問題があるのだろうか?ランドール先生は魔術方面の勉強は専門外なので、私と同じように不思議そうな顔をしている。


「その、姫殿下……失礼ですが、今後もマリアベル様に教わる予定ですか?」

「マリアベル様のご予定がつけばそのつもりよ?それにマリアベル様もお父様から頼まれてのことだし」

「陛下が?ああ、でもそうですね。マリアベル様はアカデミーでの魔術の成績は大変良かったはず。なるほど……」

「とてもわかりやすく教えてもらっているわ」

「姫殿下、初歩の魔術式を教えてもらうのならマリアベル様でも問題はありません。ですが、これから殿下の魔力数値が上がっていくとマリアベル様では教えきれないかと」

「どうして?」

「まだ姫殿下はお小さいですからね。ご自分の魔力に振り回される可能性があります。その時に咄嗟に止める相手としては、マリアベル様では不十分かと」


 つまり、私の魔力が暴走した時にマリアベル様では止められないと言うことだ。今はまだ初歩的な魔術式だけでそこまで魔力を注ぐこともないけど、これから先、たくさんの魔力を注ぐ魔術式を使うようになったら……

 マリアベル様は現在妊娠中。赤ちゃんが産まれたら、赤ちゃん中心の生活になるだろうし、そんな時に暴走でもしたら大変なことになる。


「マリアベル様とお父様に相談してみます」

「ええ、その方が良いかと。今、リーンくんも私が見てますし、姫殿下もご一緒にいかがですか?そうすれば何かあっても止められますし、それにポーションの研究も捗りますしね!」


 多分最後のが本音だな、と思ったけどそこはあえて口を噤む。斜め向かいのシャンテが両手で顔を覆っているので、これ以上彼の胃に負担をかけてはいけない。


「何はともあれ、実際に魔力過多の土地を見に行きましょう!現場で教えた方がわかりやすいですからね」

「今から行くの?」

「ええ、もちろん!」

「ええっと……動きやすい服装に着替えて良いかしら?流石にこの姿ではみんなに怒られてしまうわ」


 チラリとユリアナを見ると澄ました顔をしている。それがちょっとおかしかった。


「ランドール先生はどうされますか?四阿(あずまや)があるので、そのままでも大丈夫ではあるんですけど」

「もし動きやすい服があればお貸しいただければと。私も気になります」

「ユリアナ、お願いできる?」

「畏まりました」

「じゃあ、みんなは先に行っていてもらえるかしら?管理人のベルがいるから話せば入れてもらえます」

「ええ、ではお待ちしてますね!」


 ウキウキとしている魔術師団長を筆頭に、リーンとシャンテも後を付いていく。

 心なしか疲れているように見えるのは気のせいではないだろう。


「では姫殿下、着替えましょうか」

「はい!」


 侍女達に着替えを手伝ってもらい、王城から少し離れた場所にある薬草畑に馬車で向かう。

 先についていた三人を窓から窺うと、リーンとシャンテは少し離れた場所でベルと話をしているようだったが、魔術師団長だけは両手を広げて大喜びしていた。

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