230.悪役令嬢vs悪役令嬢 1
今回の件はアリシアたちには秘密だ。
大事なお友達に秘密を作るのは、正直心苦しい。きっとアリシアたちも困惑するかも……でもこれは私たちにとって必要なこと。もっと、広い目で周りを見れないと。
それは未来で私たちの役に立つはず。
いくつかの条件を思いだしつつ、私は学園に向かう。
イザベラ嬢のように上手くいくだろうか? いや、上手くいくだろうか? ではなく、上手くやれるようにならなければいけない。まずは顔に出さないように。
イザベラ嬢から借りた鉄扇をギュッと握りしめた。
何かあったらこれでサッと顔を隠す。そしていわれっぱなしにならない。
あとは、あとは……グルグルと考えていると、アリシアとシャンテに声をかけられた。
「おはようございます。ルティア様」
「おはようございます、姫殿下」
「おはよう、ふたりとも」
そうだ。二人とは別々に過ごすことも伝えなきゃ…… でもちょうどいい言い分けが思いつかない。急に一人で過ごしたいの! といったら、二人は驚くだろう。
「あの、あのね……」
「どうかしましたか?」
「あの…… 私、昨日から色々考えているんだけど」
「もしかして……友人を増やす件、ですか?」
察しの良いシャンテの言葉に小さく頷く。これは私たち全員の問題だもの。
きっとシャンテも考えてくれたのだろう。
「そうなの。私たち、固まりすぎているのよね。たぶん。だから他の子たちから声をかけてもらえない」
「そうですね。一応、私は話しをする男子生徒がいますけど……姫殿下の護衛のような立場に思われてるのか、やはり親しくというほどは話せていないです」
「そ、それはなんていうか……ごめんなさいね」
「いえ。それはいいんです。確かに姫殿下に何かあったら、とは思いますし」
「私じゃ、ルティア様をお守りできませんものね」
アリシアもしゅんと項垂れた。
カレッジにいる以上、危険なことはそうないけれどあの縦ロールの子のように思い違いをしている子がいないわけではない。
とくにフィルタード派の、親の影響を強く受けている子たちは顕著だ。
王族だろうと、高位貴族相手だろうと自分たちが偉いと勘違いしている。その点だけはエスト・フィルタードはマシな方なのだろう。
表向きはちゃんと注意しているもの。
裏で何を言っていようと、こちらに伝わらなければ知らない話しですむのだから。
表で堂々と言われたら、今後は注意していかないとダメなのよね。
イザベラ嬢に「事実として王族は偉い。それを正しく伝えることは大事だ」といわれ、偉ぶることとは違うのだと認識したし。
「あのね、私考えてみたの……授業や移動中は一緒にいて、昼や放課後は別々の場所で過ごしてみない?」
「授業中や移動中まで離れると、何かあったのかって逆に噂になりそうですものね」
「でしょう? 別に私たちは仲が悪くなったわけではないし、それに授業の合間の時間なんて10分程度だもの。離れる方が不自然だわ」
「でもすぐに昼食まで別は……一人で食べることになりませんか?」
「そ、それは確かに……私たち上手く声をかけられるかもわからないものね」
アリシアとシャンテと顔を見あい、お互いにため息を吐く。なんとも人見知り集団だ。
本当にダメダメでは? でもこのままではいけない。私は心の中で自分を鼓舞する。
「じゃあ、暫くお昼を食べるときは一緒。食べ終わったら即解散……はどう?」
「そのあと各々で過ごしましょうか」
「そうですね。急には……心細いです」
「それじゃあ、そうしましょう。ちょっと遅くなっちゃったけど、お友達作戦開始ね」
私たちはその日のお昼から、作戦を開始した。
***
作戦は順調、とは言いがたい。
もちろん声はかける。中立や、王家派の子たちを中心に。貴族派は派閥が別れていて、ちょっと難しい。
もう名札をつけておいてほしいぐらいだ。
とはいえ、フィルタード派の子供たちは私が一人だとこれ見よがしに悪口を言ってくる。
応戦するか、しないか。そのタイミングも大事だ。
何にでも応戦していたら、直ぐに噛みついてくる気の短い王女だと思われるし。そんな噂が流されても困る。
アリシアや、シャンテはどうしただろう? いつも一緒にいた二人のことを考える。二人とも昼食のときに話すけど、ちょっと暗い顔をしていた。
放課後も二人とは直ぐに別れて、私は図書館に向かう。
本なら……好みの合う子と話せるのではないかと思ったからだ。ただ生憎と、今日はフィルタード派の子たちが図書館でたむろしていた。
用がないなら帰ればいいのに。内心で思いつつ、私は借りていた本を返し新しい本を探しに本棚の間をさまよい歩く。
「この作者の本は……あ、これ……」
手を伸ばすと、同じタイミングで手が伸ばされる。思わず手を離すと、そこには見知らぬ女の子がいた。
「あ、ごめんなさいね」
「え、あ、いえいえいえいえいえ。わ、私こそ申し訳ございません!!」
「いいのよ。気にしないで。それより……貴女もこの作者の本が好きなの?」
「あ、えっとその……はい……」
「そうなのね! 私もよ。この話と、この話はもう読んだのだけど……貴女は?」
「私も! 読みました!!」
いくつかの歴史書を指さすと、彼女は嬉しそうに頷く。
もしかして、共通の趣味を持つお友達ができるかしら!? 威圧感を与えないように、なるべく自然に話をふってみよう。なんとなくだけど、貴族ではない気がするから。
私は自分がよく読む本の話を彼女にしてみた。その本を彼女は知っていて、どうやら同じような読書歴をもっていることがわかる。
二人で本の話しに花を咲かせていると、その中で彼女、ファラ・カステールは、一般からの特待生なのだと教えてくれた。
「それは凄いわね! 特待生は人数が決まっているから……その中に入るのが大変なのに」
「いえ、そんな…… 勉強しか取り柄がなかったので」
「そんなことないわ。勉強ができるって凄いことよ? 私、未だに算術が苦手だもの。もちろん必要なのはわかっているのよ? 数字がね、グルグル回ってしまうの……」
「私は……算術が一番得意です。数字は裏切りませんから」
「裏切る……?」
「答えが決まっていますでしょう?」
「確かに……!」
そう言ってファラは何でも数字で考えるのが好きだと教えてくれた。
ファラの話しはとても面白くて、ずっと聞いていたいくらいだ。
「ファラの話しを聞いてると、算術も楽しくなりそうだわ」
「ふふふ。そうでしょうか?」
ちょっと仲良くなれたのでは? と内心で思いつつ、私は借りようとしていた本を先に借りるよう勧めた。
彼女のように常日頃頑張っている人が先に読むべきだと思ったからだ。
「……あの、よろしいのですか?」
「ええ。私は面白そうだなって、思ったから手を伸ばしただけだから」
「あ、ありがとうございます! その、うちのクラスで課題で出てまして……」
「なら尚更よ! そんな事情があるなら、断然借りていくのは貴女の方だわ」
ファラは嬉しそうに本を抱えている。その姿にホッとした。
私は別の本を借り、二人で司書カウンターに向かう。
するとその途中で、フィルタード派の子たちがニヤニヤとこちらを見ていることに気がついた。なんともイヤな態度だが、何もされてないのだから無視するにかぎる。
彼らの横をすり抜けようとすると、ボソリと聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「三番目のお友達は地味女かよ。お似合いだな」
馬鹿にするような言い方にカチンとくる。
普段なら、聞き流した。でも私の隣には地味といわれてしまったファラがいる。
チラリとファラに目をやれば、本を抱きしめて小さくなって下を向いていた。きっといつもいわれているのだろう。そうでなければこんな怯えたりしない。
こんな良い子に失礼なことをいうなんて……! 私は持っていた鉄扇をスッと開いた。
「……あらイヤね。着飾るばかりで中身がないなんて、とても残念」
「は?」
「あら、別に貴方たちのことではなくてよ? それとも、中身がない自覚がおあり?」
喧嘩は瞬発力と語彙力。
私とフィルタード派の子たちの間に、対戦のドラが鳴り響いた瞬間だった。
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