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23.王女、畑に出没する

 体が弱い、と言う設定のアリシアを頻繁に王城に呼びつけるわけにもいかず……それならば!と私達は畑の一角に作った休憩所で落ち合うことにした。


 とは言え、週に一回ぐらいの割合で王城にきて妃教育を受けてはいるのだけど。それはそれ、だ。

 今日のように人目を気にしないで話すのはマナー的に問題がある。

 一緒に来ている侍女のユリアナは渋い顔をしているけれど、王城の外の畑なのだから少しぐらい大目に見て欲しい。


「一応ね、アリシアが言っていた薬草の種と苗は買ってきたの」

「ハスラ草とカテラの実ですね」

「そう。これをたくさん育てて、今のうちから取って置けないかしらと思っているのよね」

「備蓄するってことですか?」

「びちく?」

「ええっと……倉庫とかに保管しておくことです」


 アリシアが私にもわかるように言葉を置き換えてくれる。私はそれに頷き、大きなマジックボックスがあれば良いのに、と呟いた。


「大きなマジックボックス……でもアレって作るの大変なんですよね?」

「そうみたいね。作り上げるのに魔力が沢山いるって聞いたわ」


 作り方自体はわからないけど、消費する魔力量がとても多いので王侯貴族か物凄く稼ぎの良い商人しか持っていないそうだ。

 アレも沢山の人が持てるようになれば、作った生産物を保管しておくのに便利ではなかろうか?


「みんながマジックボックス持てたら良いのに……」

「うーん……でもそれをすると、税申告が曖昧になりそうですね」

「どうして?」

「マジックボックスの中身って契約した本人しか取り出せませんよね?そうすると本当は沢山取れたのに、少なく申告して税金を納めるのをごまかそうとする人が出るかもしれませんよ?」

「……単純にみんなが楽になれば良いと言うのではダメなのね」


 そう言うとアリシアは困ったように笑った。その笑い方がマリアベル様のようで、なんとなくだけど子供扱いされた気分になる。


「ルティア様?」

「なんでもないの。なんとなく、その……子供扱いされた気分なだけ」

「ああ、それは……仕方ないかと。私、前世の記憶を含めればもうアラフォーですし」

「あらふぉー?」

「……40代ってことです」


 言いづらそうに自分の年齢を自己申告してきた。

 40代であるのなら、マリアベル様よりももっと上だ。下手するとおばあさまと同じぐらいでは?と考え、それなら子供扱いされても仕方ないなと諦める。


「私も、早く大人になりたいなあ」

「ルティア様……私も今はルティア様と同じ8歳です……」

「そうだけど……」

「そんなに焦って大人になっても良いことないですよ?」

「そうかしら?」

「そうですよ。できれば時間は長くある方が良いです。だって色々できるでしょう?」


 アリシアの色々は断罪されない為の準備的な意味合いが強いのだけど、その中に私と一緒に過ごす時間も入っているといいな、と思う。





 ***


 話もそこそこに、私達は畑に向かう。

 今日のメインは畑仕事だからだ。アリシアと一緒に土と水の魔法を使って畑をキレイに地ならしする。

 それから買ってきたタネや苗木を植えるのだ。

 庭仕事をするのと同じ動きやすい格好をしている私はきっと王女には見えないだろう。でもそれで良いのかもしれない。その方が畑の管理人ぽい気がする。

 まあ普段世話をしてくれる管理人は別にいるが。

 少し離れた場所で私達を見ている本物の管理人を視界の隅に捉えつつ、私はアリシアと一緒に畑の真ん中につくとその場に腰を下ろした。


「では、ルティア様よろしいですか?」

「え、ええ。大丈夫よ……多分」


 マリアベル様に教えてもらって簡単な土と水の複合魔法は使えるようになった。ただ、目の前に広がる畑のように広い場所で使うのは初めてなのだけど。


 私はアリシアの合図で魔術式を展開する。

 その魔術式は三角形の形が重なり合いふわりと周りに広がって、徐々に畑全体を埋め尽くした。

 これってどのぐらいやれば地ならしされるのだろう?素朴な疑問を思い浮かべつつ、アリシアがまだ地面から手を離さないので同じように手をついていた。


「ひ、姫殿下!」

「はいっ!!」


 後ろで見ていた畑の管理人が悲鳴のような声をあげる。その声に反応して私は思わず地面から手を離した。

 後ろからパタパタと私に走り寄る足音。何か失敗してしまったのだろうか?と辺りを見回してしまう。


「姫殿下!た、体調は悪くありませんか!?」

「え?」


 思いもよらない言葉に私は首を傾げる。

 隣にいたアリシアも同じで、お互いに私達は顔を見合った。管理人は若干青い顔で尋ねてきたけど、本当になんともない。元気そのものだ。


「姫殿下、本当になんともありませんか?」


 再度同じように問われ、私はなんともないわよ?と言ってその場に立ち上がるとぴょんぴょん跳ねてみせる。

 体のふらつきも何もない。うん。大丈夫だ。


「一体どうしたの?私、何かおかしなことした?」

「本当に……なんともないんですね?」


 念を押すように聞かれ、私は頷く。すると畑の管理人————ベルはホッとした表情を浮かべ、地面に腰を下ろした。

 そして私に地面の土を掬って見せる。


「大変立派な土です」

「立派な土……?」

「ええ。こんなにふかふかで良質な土地は滅多にありませんよ!」

「と言うことは私とアリシアの魔術式はきちんと作用したのね?」


 そう言うとベルは満面の笑みを浮かべた。


「大変素晴らしいです!」

「それなら良かったわ」


 ホッとしてアリシアを見ると同じように頷く。

 どうやら離れていた場所から見ていたベルにはアリシアよりも私の魔術式の方が広い範囲に一気に展開して見えたようで……一度に広範囲に魔術式を展開したことを心配してくれたようだ。

 普通は広範囲に素早く魔術式を展開するのはとても魔力がいる。私が勝手がわからず魔力を使いすぎたのではなかろうかと驚いたらしい。

 自分達だけではさっぱりわからなかったが、確かに初めて使う魔術式を土地一杯に広げてたら驚くだろう。

 なんだか申し訳ないことをしてしまった。


「姫殿下は初めてこの魔術式を使われるのですよね?」

「離宮の庭で何度か試してみたわ。でもこんなに広い場所ではないけれど」

「離宮の庭ですか?」

「ええ、シートの上にある土を柔らかくしたの」


 その時は庭師達に上手だと褒められたのだけど……と言うと、彼は軽く首を傾げ唸っている。


「何かマズイことをしたかしら?貴方の方が詳しいのだから、間違っていたら正直に言ってちょうだい?」

「いいえ、大変立派な土です。畑の土としては最上級に良いと思います」

「それじゃあ、何か問題があるんですか?」


 アリシアがベルに問いかけた。


「正直申し上げまして……本当に体調は悪くないのですね?魔力切れは起こされていない?」

「ええ。全然平気よ?」

「……魔力量はまだ測られてないですよね?」

「いいえ、この間測ったわ」

「殿下の数値を私などが聞くのは失礼なので、その……平均より多いか少ないかでお伺いしても?」

「マリアベル様からは多いと言われました。ただ、私の年代の平均が分からないのでなんとも言えませんけど」

「そうですかあ……」


 私の魔力量が多いと聞いて彼は感嘆の声をあげる。


「魔力量が多いと何か問題がある?畑を作るのに適さないとか?」

「いいえ!まさか!!殿下がいらしたら、その日のうちに見渡す限りの土地が畑になってしまいます」

「それは……ちょっと困るかしら?」

「いえ、広い土地なら全く。ここまで良質な土を作るのは魔力量が多くても実は大変なので」


 そう言われて私はしゃがみ込むと土を手に取ってみた。ふかふかの土。

 離宮の庭で普段使っているのよりも柔らかい気がする。


「この土なら、薬草は元気に育つ……?」

「薬草だけでなく、花も野菜も全部元気に育ちますよ。きっと収穫量もいいでしょう」


 土がふかふかになるだけでそこまで変わるのかと驚いてしまう。

 もしかして離宮の庭の土もこっそりふかふかにしたら、沢山花が咲くのかしら?とそんなことを考えてしまった。



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