22.王女と魔力測定
アリシアがライルの婚約者候補に挙がってしまったのはもう仕方がない、と割り切る事にした。
彼女にはとても悪いとは思うし、個人的にもライルの婚約者候補にすらしたくないけど、リュージュ妃の思惑から外すのはお父様でも至難の業なのだ。
だって……他にいないんだもの。
歳のわりにしっかりしていて、マナーも良くて、お父様の覚えもめでたく、王太子の婚約者として見劣りしないだけの家柄の令嬢が!
多少体が弱くとも、側妃を持てるこの国では正妃の体が弱い事イコール正妃には相応しくないと言うことにはならない。
しかも王女にも王位継承権がある。
本人がベッドから起き上がれない程、体が弱いと言うのでもない限り……リュージュ妃は諦めないだろう。
ただ今回の話に限っては、お父様もライルとアリシアが結婚したくないと知っているし、直ぐに婚約者にするよりは様子を見ようと思って下さったのでなんとかなっているとも言える。
お父様が生きているだけでアリシアにとっては防波堤になっているのだ。
もしも————亡くなっていたら、予定通り2年後の魔力測定でアリシアは婚約者になっていただろう。
それを考えればアリシアの言うシナリオの強制力とやらもそこまでではないのではなかろうか?
私はアリシアから書き出してもらった今後起こり得る出来事の一覧を見る。
「まずは、5年後の流行病よね……」
それまでにお父様から頂いた薬草畑で薬草を育てなければいけない。それも国中に行き渡るぐらいに。
「問題は、その為の労働力……あとお金、かしら?」
王城から近い土地を頂いたけれど、できればもっと拡大したい。でも拡大するには薬草を育てることは国にとっても有益だとわかってもらわなければいけないのだ。
5年後に疫病が流行るから今から薬草を育てましょう、と言ってもそれを証明する手立てがない。今の所、私が植物を育てるのが好きだから、薬草を育てるのもその延長線上だと思われている。
「貧困層の人達の仕事になると言っても、働いてもらった人達に払うお金を私は持っていないもの」
疫病に有用となっている薬草は2種類。
ハスラ草とカテラの実。
ハスラ草は多年草で、カテラの実は秋口に収穫するものだ。その二つを合わせて有益な薬となる。
両方とも視察に行った場所から買ってきているが、どうせなら他の薬草もたくさん育てて何か万能な薬が作れれば良いのにな、と思う。
それ一つあれば怪我にも病気にも効く。そんな夢みたいな薬があれば良いのに!
無い物ねだりとわかっていても、そう言う薬があれば神殿まで行くのに時間がかかる時でも応急処置できたりするんじゃないかなって思う。
大怪我は流石に神殿治療かもしれないけど……それでも70%ぐらい治して連れて行くのと、瀕死の状態で連れて行くのとでは生存率だって変わるはず。
「でもそんな薬、あったら既に作られてるわよね」
私はアリシアから書き出してもらった表を見ながらため息を吐いた。
***
アリシアがライルの婚約者候補として決まってから数日。
リュージュ妃はお披露目をしたいとお父様にお願いしていたようだけど、アリシアの体が弱いことを理由に引き伸ばされていた。
「体の弱いアリシア嬢に何かあったら困るだろう?」
と言われては流石のリュージュ妃も折れるしかなかったみたいで、当人達はきっと喜んだことだろう。
そして今日からマリアベル様が私の住む離宮に移って来られる。
私はユリアナと一緒にまだかまだかとマリアベル様が離宮に来られるのを待っていた。
マリアベル様は数人の侍女達と一緒に離宮に姿を見せる。私はユリアナが止めるのも聞かず、マリアベル様に駆け寄った。
流石に抱きつく寸前で赤ちゃんのことを思い出し止まったけれど、行き場のない手がマリアベル様の前で彷徨う。
そんな私の手をマリアベル様はそっと握ってくれた。
「姫殿下、今日からよろしくお願い致しますね」
「はい!マリアベル様、私こそよろしくお願い致します」
私とマリアベル様が話をしていると、マリアベル様の侍女長と私の侍女長が打ち合わせを始める。ふと、マリアベル様が後宮からお連れになった侍女の数が少ない事に気がついた。
「……マリアベル様、後宮からお連れになった侍女達は彼女達だけですか?」
「ええ、私の実家から付いてきてくれてる者達だけです。後宮の侍女達は後宮で仕事をすることが義務付けられていますから」
マリアベル様がお連れになった侍女達は、侍女長を含めて6人だけ。妊娠中のマリアベル様のお世話をするのに少ないように感じる。
それは私の侍女長も感じたのか、マリアベル様に侍女の増員をするが良いかと確認しに来た。
「いいえ、私の侍女達は皆とても良く働きます。ですのでこれ以上の増員は必要ありません。そして姫殿下の侍女を私に割く必要もありません」
「マリアベル様、私は陛下よりご事情を伺っております。信の置ける者を推薦させて頂けないでしょうか?」
「でしたらその方達は姫殿下のお側に。私は大丈夫です」
私は本当に大丈夫だろうかとマリアベル様を見上げると、マリアベル様は優しく微笑み心配いりませんよと仰る。
侍女長は少し困った顔をしたけれど、側妃であるマリアベル様にそれ以上言うわけにもいかず、必要な時はどうぞ自分達を使ってくださいと言うに止めた。
マリアベル様は侍女長の言葉にありがとうと笑顔で頷く。
本当はもう少しいた方が良いのでは?と私も思うけど、何か事情があるのなら私にできることは自分のことは自分でやる!と言うことだけだ。
私にそんなに手がかからなければ、私の侍女達もマリアベル様の侍女達をお手伝いすることができるだろう。
侍女達が引越しの準備をしている間、私とマリアベル様は私の部屋で魔術の勉強をすることになった。
「姫殿下は魔力測定と属性の判定をまだ受けてはいらっしゃいませんよね?」
「はい。この間、お父様が鑑定してくださいましたけど……細かいことは伺ってません」
「ではこちらを……この石板は魔力の大まかな数値と属性を教えてくれます」
そう言って机の上に置かれた石板は、六角形の台に丸い球が埋め込まれている。
「中央の大きい球が魔力数値を周りの小さな球が属性を表します。そっと中央の球に魔力を流してみてください」
私は言われるままに台の中央にある球に魔力を流してみた。
玉は私の魔力に反応してふわりと光りだす。
そして台の周りにある小さな球も幾つか光りだした。
マリアベル様はその様子を見て驚きの声をあげる。
「素晴らしいです!姫殿下。魔力量が15〜20、それに聖属性以外にも風と水と土、闇も少し適性がありますね」
「そんなに?」
ロイ兄様の魔力量が18と言っていたはず。私は兄様よりも魔力量が多いのだろうか?思わず首を傾げると、マリアベル様はもう一つ別の道具を取り出した。
「今度はこちらに魔力を注いでいただいても?」
「はい!」
細長い筒状の中に丸い石が入っている。そして筒にはメモリが記されていた。その道具に魔力を注ぎ込むと、丸い石がグングンと上がっていく。
「姫殿下の、現時点での魔力量は19……ですね。これから訓練をしていけばもっと上がると思います」
「そんなに私の魔力量はあるの?兄様よりも多いわ」
「ロイ殿下もまだ発展途上ですから、きっと20は直ぐに超えてしまいますわ。魔力量が増えるのは20歳ぐらいまでですから」
「じゃあ私ももっと伸びる?」
「ええ。もちろんです。それに5つも属性を持っている方は大変珍しいですよ。流石は陛下のお子様ですね」
マリアベル様はお父様が聖属性以外の5属性全て持っていると教えてくれた。あと魔術師団長も持っているそうだ。
現状の王宮では聖属性を持っているものはおらず神殿にいる神官のみ。しかし魔力のコントロールに関してはどの属性も基礎が同じなので問題ないと言う。
「……本当に聖属性って少ないのね」
「そうですね。ですが学べない訳ではありません。しっかり学んでいきましょうね」
「ええ、それに水と土の属性があるってわかったもの!お庭と薬草畑仕事の役に立つからいっぱい勉強するわ!!」
そう言うとマリアベル様は楽しそうに笑った。
異世界転生/転移ランキングで日別251位 週間232位に入っていました。
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