213.姉妹 3
結論の出ないまま、二日が過ぎた。
コンラッド様にお願いして、立ち会いは保留という形になっている。
もう会うことができないなら、会った方がいい。でも、会うことでサリュー様に何かあっても困る。しかしサリュー様の本心もわからない。
それなら直接サリュー様に会って、話をしようと思ったのだけど……
ウィズ殿下から丁寧な断りがきてしまった。
コンラッド様が言うには、番と判明したばかりの時期はよくあるらしい。
しばらくすれば落ち着くというのだが、そのしばらくとはいつまでなのか?待っている間に、サティ嬢が王都を離れてしまう可能性もある。
みんなで私の部屋に集まり、どうするべきかと話しあう。
一人で考えるには無理があるもの。
「基本的には、反対ね」
「私もです。サリュー妃が何を考えているのかわからないですし」
「私は……最後になるなら、少しの時間ならとは思います」
カーバニル先生、シャンテ、アリシア、三人とも意見が違う。
アリシアは少しの時間なら賛成、シャンテは反対。でもカーバニル先生は理由があれば考える余地ありと、いうこと。
「私は……サリュー様が何をしたいのか知りたい。サリュー様のやるべきことがわからないもの」
「でも今は会えないんですよね……?」
「そうなの。ウィズ殿下がベッタリなのですって」
「仕事……大丈夫なんですかね?ウィズ殿下はお忙しい方だと思っていたのですが」
シャンテがちょっと渋い顔になる。まあ心配にはなるわよね。サリュー様にベッタリなウィズ殿下があまり想像つかないのだけど。
「なんというか、スチルで見る分には膝の上にのせてお仕事とか素敵に見えるんですけど、現実だとちょっとないですよね」
「すちる?ってなんです??」
「あ、えっと挿絵的な?」
アリシアの説明に、シャンテは両手で顔を覆った。想像してしまったのかもしれない。
私もウィズ殿下が膝の上にサリュー様をのせて仕事している姿を想像する。
「……仕事、しづらそうだよね」
「そう、ですね……」
「さすがにそんな風に仕事してたら、ちょっとやだなぁ」
三者三様に私たちはそんな感想を口にした。
そんな私たちをカーバニル先生がお子様ねと、笑う。
そりゃあ二人は婚姻関係にあるから、問題ないといえば問題ないかもしれないけど。サリュー様は拒絶しそう。そんなことではいけませんって。
あ、でもサリュー様も番だって気がついたなら、ベッタリしていたいものなのかな??
番って本当に謎だ。
私にもラステアの血が流れてるけど、番の感覚だけはきっとずっとわからないままだろう。
一生会えない可能性もあるっていってたものね。
「サリュー様に会えればなあ……理由を聞けるんだけど」
「そうですね。理由がわからないと同席しようもないですし」
「結局そこに戻ってきますよね。サリュー妃は何を考えているのか、に」
「アタシ的には、会いたいけど、会いたくないとも聞こえるのよね」
カーバニル先生の言葉に私は首をかしげた。会いたいけど、会いたくない。それはなぜ?
「サリュー妃がやらなければいけないことって、どう考えても自分の家の権力を削ぐことなんじゃない?」
「レイティア侯爵家の?でも、自分の家でしょう?」
サリュー様を冷遇していたレイティア侯爵家。その力を削ぐ理由はなんだろう?
外戚としての発言力をなくすためとか?
でも今回の件で、レイティア侯爵家の力は弱まる。わざわざサリュー様が何かする必要はない気もするけど。
「レイティア侯爵家は、サリュー様を冷遇している以外にもなにかあるのかしら?」
「ある、というより……サティ嬢の発言を聞いてるとそうなんじゃないかなって思うわけよ」
「サティ嬢の発言?」
「アンタ自分で教えてくれたじゃない」
「私が……?あ、えっとサティ嬢に子供が生まれなくてもサリュー様とウィズ殿下の子供なら愛せるとかそういう??」
「そう。それ。もしものときはサリュー妃に丸投げしちゃうところ。それって、常にそういう風にいわれたからじゃない?」
体の弱いサティ嬢。レイティア侯爵家に残ったただ一人の女の子。
それなのに侯爵夫妻は、婿を迎えるではなく嫁がせる選択をしていた。
家のことを考えれば、それでも婿を迎えるはずだ。
どうしても生まれなかったら養子を取る選択が出てくるけど、可愛がっている娘を嫁がせる理由にはならない。
それに自身をウィズ殿下の番だといっていたサティ嬢よりも、王家より求められたサリュー様を優先するのもおかしい。同じ嫁がせるなら、それこそサティ嬢でも良いはず。
普段は姉であるサリュー様のものであっても、何でも与えていたのに――――
「なん、か、こう……言葉にしづらい、もやっと感があるかも」
「でしょう?アタシもよ。レイティア侯爵家にとって、サティ嬢はなにかあるのかも」
「なにかって……」
「たとえば、サティ嬢とサリュー妃の血が繋がっていない」
「血が繋がってないって……」
「サティ嬢は後妻の子供なんでしょう?瞳の色こそ似ているけど、見た目は全く似てないわよね」
血のような赤。サリュー様は自分の髪の色をそう表現した。
私はサラサラで深紅のきれいな赤い髪だと思う。温かみのある素敵な色。
サティ嬢は金糸のきれいな髪。
夢の中では侍女たちが神経をとがらせながら、丁寧に髪を梳いていた。きっと絡まりやすい髪質なんだろうなって。
瞳の色は……二人とも翡翠の色だけど、サリュー様は濃い翡翠色でサティ嬢は明るい翡翠色。
サリュー様はスラリとしていて、サティ嬢は小柄。
確かに違うところはたくさんある。でもそれだけで血が繋がっていないとはいえない。
「で、でも……コンラッド様とお見合いしたでしょう?」
侯爵家と血が繋がっていないとして、それなのに王弟であるコンラッド様に嫁がせようとするだろうか?だって嫁がせる意味があるから、嫁がせるのだろうし。
「すでにサリュー妃とウィズ殿下の間には子供が生まれている。跡継ぎはいるじゃない?もちろん、何事もなく大人になる保証はないけれど……でも一人生まれたということは、次も望める」
「サティ嬢がコンラッド殿下に嫁いだとしても、子供はそこまで重要じゃないと?」
「その通りよ。逆にコンラッド殿下ほど好条件はないかもね。他の家なら子供を求められるけれど……」
「王弟であるコンラッド殿下なら、逆に子供はほしがらない可能性がある?」
「そうよ。どちらかといえば、コンラッド殿下は王権から一歩引いてるし」
カーバニル先生とシャンテの言葉に私は衝撃を受ける。
血を残さないのなら、確かにサティ嬢は家の役に立つ。王家に二人も娘を嫁がせた家として、レイティア侯爵家は外戚としての地位を確立するだろう。
「サティ嬢がレイティア侯爵の娘じゃないってバレたら問題にならない?」
「事前にそのことを知っていた上で妻にするならまあ……でも知らないで妻にすると問題あるわよね」
「じゃあ……」
「でも子供を産まないなら……ってなるじゃない?」
「あとあとすごく問題になると思う!!」
「だから、サリュー妃は自分の家をどうにかしたいって思っているのかもしれないわね」
可能性の話だとカーバニル先生はいうが、レイティア侯爵家の力を削ぐ理由としては有り得ない話ではない。
でももう、サリュー様がレイティア侯爵家に直接何かする必要はないのではなかろうか?レイティア侯爵家は今回の件で責任を取ることになる。
たとえ王太子妃の実家とはいえ侯爵家から家格が落ちることは確実だ。外戚として発言力を得られるとは限らない。実家の力が落ちたとしても、サリュー様はウィズ殿下の番。その立場を追われることはないのだし。
それに私たちの推測が事実だったとして、レイティア侯爵に直接確かめるわけにはいかない。血が繋がっているなら、私たちの推測はとても失礼な話だしね。
「……世の中には、似てない兄弟も姉妹もいるわ」
「そうね。だから、そうでないことを祈りたい話ね。これは」
「もういっそのこと、私がサティ嬢に会って話せればいいのに」
そう。別にサリュー様を同席させる必要はないのでは?ウィズ殿下はサリュー様を離さないだろうし、サリュー様への伝言を私が預かるのはどうだろう??
それなら危険も少ないと思うのだ。それにアイゼンについても聞きたい。
操られていたとはいえ、アイゼンと直接話をしているのはサティ嬢なわけだし。
「それ、いいわね……」
「え!?」
「だから、サリュー妃同席で会うとなると身分をいう必要がある。でもアンタは一度会ってるじゃない?ラステアの服を着たままで」
「それはそうですけど……いつもなら止めません?」
「ルティア姫を危険な目に遭わせるわけにはいかないけど、カティア将軍の妹ルーなら将軍が絶対に守ってくれるでしょう?」
「それは、でもカティア将軍に確かめないと」
「大丈夫よ」
それはもう自信たっぷりにカーバニル先生は頷く。アリシアとシャンテも同じように頷いた。
カティア将軍に対する信頼の表れなのかもしれないが……
でもルティアとして会うより、ルーとして会う方が危険度が下がるのは事実。サリュー様の侍女をしてるとかいえば、サティ嬢も話をしてくれるだろうか?
「あ、いっておくけど、ちゃーんと周りは固めるわよ?」
「か、かためる?」
「コンラッド殿下にも同席はお願いするし、鱗もちゃんと持って行く。カティア将軍がいるからってひょいひょい乗り込まないでちょうだい」
わかったわね、と迫力のある顔でいわれ私はコクコクと何度も頷いた。
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