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199.守ためにできること

 私にできること。


 一つ、デュシスの鱗に聖属性の力を入れること。

 二つ、何かあった時のために、サリュー様の側にいること。

 三つ、自分一人で動かないこと。


 当たり前といえば当たり前だが、最後の一つはユリアナとリーナに「絶対に約束ですよ」と言われた言葉。

 コンラッド様がレイティア侯爵邸に向かえば何かが動くかもしれない。もちろん、疑わしいからと言って悪いことをしているとは限らないけど。


 レイランの術者が隠れ蓑にしているだけかもしれないし。そこも含めて調べるのだけど不安は尽きない。

 カーバニル先生に相談して、ポーションを飲みながら作った鱗は五つ。一つはサリュー様に、もう一つはウィズ殿下に、残りの三つはコンラッド様たちに。


 コンラッド様たちがレイティア侯爵邸に向かう時はどうしても少人数になる。

 人が多すぎても少なすぎても相手に警戒感を抱かせてしまうらしい。その匙加減が難しいのだけど、同行者の中にネイトさんもいるから大丈夫、とはカティア将軍の言葉だ。


 将軍自身は私と一緒にサリュー様の側に控えることになっている。

 公務がある関係上、ウィズ殿下はサリュー様の側にはいられない。でもウィズ殿下は大勢の人が、それこそオルヘスタル魔術師長が側に控えているならそう危ないことはないだろう。


「大丈夫かな……」


 コンラッド様がレイティア侯爵邸に向かう当日。私の心は不安で押しつぶされそうになっていた。

 レイランの術者が何を考えているかわからないのが一番怖い。聖属性の力なら呪いも何とかできると思い込んでいた私に、万能なものなどこの世にはないのだと知らしめた相手。


「予定通りなら、もうそろそろ着くわね」

「そう、ですね」


 人払いのされた部屋には私と将軍、そしてサリュー様しかいない。

 ソファに座り、黒い瞳を彷徨わせているサリュー様はそっと私のいる方へ手を伸ばしてきた。私はその手をそっと握る。


「ルティア姫、コンラッド様にはわたくしからもお願いしていることがあります。それが手に入れば、きっと……」

「何か頼まれたのですか?」

「ええ、たぶん……私の呪いの元となる形代」

「形代……?」

「ああ、人形が……あるんですね?」

「ええ。もう私のものでなくなって随分経つけれど」


 人形、と聞いて私はオルフェさんが作ってくれた物を思い出す。私にそっくりな人形。私の身代わりになってくれる物。

 あの人形も使い方によっては呪いの元となると、オルフェさんが教えてくれたっけ。


「あの、人形ってサリュー様が病気や怪我をしないように作られた物なのでしょう?それなのにどうして置いてきてしまったの??」

「ああ、ルティア姫は人形のことをご存知なんですね」

「カティア将軍のお兄様が、人形師なんです。それで、えっと……」

「私が髪を提供しまして、見た目はうちの子なルティア姫の人形があるんです」


 ふふふと嬉しそうに笑いながら将軍がサリュー様に教える。それって普通に言って良いものなのかしら?困惑した空気をサリュー様から感じるのだけど。


「ええっと……それで、どうして家に?」


 話を戻そうと、サリュー様に問いかける。サリュー様はちょっと困った顔をして、妹のものになってしまったの。と教えてくれた。


「妹君というと、今回の見合い相手……ですよね?なぜ?」

「そう。普通は、不思議に思うわよね。私も、どうして妹の人形を作らないのかしら?と思ったわ。でも……あの子はすぐに私の物を欲しがる子だったから」

「つまり、侯爵が先手を打って渡せと?」

「ええ。妹が欲しがったわけではないの。ただ、良いなと言っただけ。アレはきっと、自分の人形も欲しいという意味だったのだろうけど」

「侯爵はそう思わなかった」

「はい……」


 俯く姿に、今まで何度も同じやりとりがあったのかなと感じる。

 侯爵家ならお金がないわけではないと思う。それなのにどうして同じ物を買い与えなかったのか?どうしてもそれ一つしかないのなら……姉なのだから妹に譲りなさい、と言われて譲る可能性もある。


 でも渡すように要求したのは、サリュー様を思って作られた人形なのではないのだろうか?

 幸せを願って作ったはずの人形をそう簡単に妹に渡せだなんて……酷い話だ。サリュー様のことなんてまるでどうでもいいと言われている気分になる。


「何というか、噂程度に聞き及んでおりますが……侯爵は随分と妹君を甘やかしておられますね」

「あの子は、体が弱かったから……」

「兄弟は平等であるべき、というのが我が家の方針なので体が弱いからは言い訳になりません」

「カティア将軍の家はきっと過ごしやすいわね」

「おかげで個性派揃いになりました。私含めて」


 サリュー様はふふふと小さく笑う。


「私も、強く出られたら良かった。でもその勇気はなかったの」

「理由をお伺いしても?」

「私は、今も――――なぜ、ウィズ様の結婚相手に選ばれたのかわからない」


 そう言ってサリュー様は当時の様子を話し始めた。



 ***



 侯爵家の長女、次期女侯爵ということで厳しく躾けられたそうだ。体の弱い妹さんの要求は全部通り、自分の、ほんの小さな願いすら通らない日々。

 それでもいずれレイティア侯爵家を引き継ぐ身であれば仕方ないと。夫を迎え、さらなる繁栄を家にもたらすために仕方のない。争いようのないものなのだと、サリュー様は語る。


「姉なのだから、健康な体を持っているのだから、妹を羨んではいけない。そう思って生きてきました」

「まあ、体の弱い妹さんが家督を継ぐことは難しいでしょうしね」

「ええ。いつか、どこかの殿方の元へ嫁ぐと……でも現実は、私がウィズ様の婚約者に選ばれてしまった」

「急に妹さんにお鉢が回ってきてしまったのね」

「ええ……」


 今まで散々甘やかされてきた妹が、厳しい淑女教育や領地経営についていけるのか?そんなことを考えていたら、父親である侯爵から言われたのは「女侯爵にするつもりはない」との言葉。


 妹さんにそんな無理はさせられない。それどころか、サリュー様に子供が生まれたら養子としてレイティア侯爵家によこすように言ったそうだ。そのためにもウィズ殿下に気に入られるように完璧な淑女になれ、と。


「それってでも……優秀な人を入婿として迎え入れれば良いだけなんじゃ?」

「私もそう思いました。でも父は妹に苦労をさせたくないと。我が国では実子が爵位を継ぎますし」

「サリュー様の苦労は苦労じゃないとでもいうんですか!?」

「そう言う、人なんです。私だけ……家族ではないから」

「え?」

「私は父と前妻との間に生まれた子、そしてサティは後妻との間に生まれた子なんです」


 だからって蔑ろにして良い理由にはならない。サリュー様には確かに侯爵の血が流れているのだから。私の憤りが伝わったのか、サリュー様は私の手にそっと自分の手を重ねる。


「サティは……とても美しい子で、父の自慢なんです。私のように血のような赤ではなく、とても美しい金糸の髪を持っていて、肌の色も透き通るように白い」

「サリュー様の髪の色は温かみのある赤だわ。それに!サリュー様の肌だってとても綺麗だもの」

「ありがとう、ルティア姫。でもね……ずっとそう言われてきたの。気味が悪いって、父や他の人にも」

「でもその色はレイティア侯爵家特有の色でしょう?」

「ええ、そうね。父と同じ色。でも……父はだからこそ、サティの色が好ましいの」


 髪の色や肌の色ひとつで何が変わるのだろう?私は、お母様と同じ茶の髪。ファティシアだと何処にでもいる、一般的な髪色。肌はたぶん、年頃の令嬢に比べれば日に焼けているだろう。手入れをしてもらっても、外で畑仕事をする私はどうしたって日に焼ける。


 それでもライルやアリシアの髪色と比べて、自分の髪色を残念だなんて思ったことはない。肌の手入だって、今できることをしているからもうこれは自分の責任だし仕方ないと思っている。


 レイティア侯爵は生まれながらの色に、どんな意味を持っているのだろう?


 侯爵家の色が、サリュー様の髪の色であるなら誇るべきだ。その上で妹さんの色を褒めればいい。違っていたとしても、どちらも素敵な色なのだから。


「私は、サリュー様が大好きだから……サリュー様を悪く言う人は好きではないわ」


 ぽつりと呟くと、重ねられた手に力が籠る。


「私はね、ずっと家のためだけに生きてきて……家のために死ぬのだと思ってた。ウィズ様に選ばれても……」

「サリュー様は……ウィズ殿下の妃に選ばれて、苦しいの?」

「いいえ。とても嬉しかった。小さな姫君に嫉妬するほど、私は彼の方をお慕いしているわ」

「じゃあどうして?」

「私でなければいけない理由がないの」


 その言葉に、私はどう答えてあげるべきか考え込む。ウィズ殿下はまだサリュー様が番であると気がついていない。無自覚にサリュー様を選び、妃に据えた。


 そのことが自信のないサリュー様を苦しめている。


 サリュー様の心を守ためにできることは何だろう?コンラッド様は自分たちで気がつかなければいけないと言った。

 周りから言われても、それは猜疑心を生むだけだと。


 ただでさえ一度こじれた二人だから、私が「二人は番なんですよ」と言ったところでどうにもならない。


「――――自信、というのは努力の結果なんだと思います」

「え?」

「私の目から見ても、サリュー様は王太子妃として十分に仕事をなさっている。それは自信になりませんか?」

「でも、私はただ言われたことをしているにすぎないわ。それに今はルティア姫がいなければ何もできないもの」

「言われたこと、と申しましてもその良し悪しを判断するのはサリュー様でしょう?」

「それは……」

「サリュー様が今まで必死に学んでこられたことが、現在のサリュー様を助けている。そうは思いませんか?」

「私、私は……」


 言い淀むサリュー様に私も将軍も顔を見合わせる。

 これはアレだ。サリュー様の良いところを一つずつ上げていけば良いのでは?だってこんなに素敵な方なのだもの。


 レイティア侯爵や、他の心無い人たちの言葉でダメにしてはいけない。心無い言葉よりも、サリュー様を大事だと、好きだと言ってくれる人の言葉に耳を傾けてもらいたい。


 そうすれば、それは自信になって……何かが変わるかもしれないのだから。


モブ姉王女4巻の加筆修正脱稿しました…!

ボチボチと更新再開します

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