172.突撃王都のカティア家 1
カティア将軍は十人兄妹の七番目で、下は全員弟さんだそうだ。上はお姉さんが二人、お兄さんが四人。七番目ぐらいになってくると、ほぼ上の兄妹達が親代わりになってくるらしい。
そしてこのうちの三番目のお兄さんが、人形師になるべく叔父さんの家に養子に入ったと教えてくれた。王都の家は四番目のお兄さんの家で、お互いに王宮で働いているから一緒の家の方が楽、と言うことで一緒に住んでいるのだとか。
お兄さんにお嫁さんが来たら別の家に引っ越す予定なの、と言うけれどお兄さんはとても忙しい人らしくなかなか良縁に恵まれないのが悩みの種だとも。
今は領地からすぐ上のお姉さんが遊びに来ていて、そのお姉さんは買い付けの仕事をしに来ていると教えてもらった。
「お姉様、急に行っても大丈夫ですか?」
「平気平気。むしろルーちゃんに会いたがってたから」
「そ、そうですか?」
「そうそう。うちは女が三人だけだし、姉妹って言っても男勝りなのばっかりだからねールーちゃんの話を聞いて、すごく会いたがってるのよ」
一体どんな話をしたのだろう?一応、カティアの名前を名乗る時にランカナ様から通達をしてもらったが、その内容を私は知らない。
そして同じく王宮内で軍人として働いているすぐ上のお兄さんは、魔物討伐の遠征中でまだ一度も会えていないのだ。そのうち戻ってくるとは言っているけれど、私がラステアにいるうちに会えるといいな。
将軍と一緒に馬に乗り、ゆっくりと道を進んでいく。まだ普通に人々が行き交っているから、馬から下りて歩いても良いのでは?と思ったけど、あまりそれは良くないらしい。
「スリとかいるからね」
「スリ……?」
「お金をこっそり盗むの。すごく手早くてね。それにルーちゃんは歩き慣れてないから馬の方が安全」
「そうなんですね?人が多いから馬だと邪魔になるかなって」
「馬の方がみんな気を付けてくれるから。それにこれでも人通り少なくなってるのよ。昼間はもーっといっぱい人がいるの」
屋台とかもたくさん出てるのよ。と将軍は教えてくれる。どうやら将軍の家のある近くの通りは昼間が一番賑やかな通りらしい。
昼の屋台通りと夜の屋台通りと分かれているなんて驚きだ。夜の屋台通りは酔っ払いが多く出るから、憲兵の屯所が近くにある通りの方が安全なのだとか。
「ラステアの人は魔力が多いし、身体強化も何も考えずにできちゃうのね。そうなると止めるのに訓練された人達の方が安全に止められそうだわ」
「そういうこと。制圧にもコツがあるからね」
「だから通りが違うのね。でも屋台の人はその度に移動するの?」
「昼と夜と両方やる店は移動するわね。もちろん普通のお店もあるけど、そういうところは一日開いてるわよ」
他にも市場や、職人通りと呼ばれる道もあるそうだ。できるだけ同じ通りに、同じように店を構えた方がギルドとしてもやりやすいのだろう。それに買い物に来る人も便利だしね。
「明日は屋台が開いている時間に来る?姉上と一緒なら大丈夫よ」
「お姉様のお姉様も強いの?」
「もちろん。うちの領地までの道も魔物が出るからね。そこを商隊を任されてくる人よ?」
「そ、それはすごい」
「まあ出るのは魔物だけじゃないけど、カティアの紋を見て襲ってくるお馬鹿さんはいないわね」
それもある意味すごいのでは?むしろ何をしたらそこまで忌避されるのだろう?怖いもの見たさで聞いてみたい気もするけど、ちょっと言えないことをしたと言われたら怖いのでやめておく。
しばらく馬に揺られていると、住宅街に入ってきた。そしてちょっと大きめな囲いの家が見えると、そこが家だと教えてくれる。
この辺では一番大きな家なのではなかろうか?区画の半分は使われていそうだ。だって囲いの先が見えない。
「すごい広い……」
「そうねえ。この辺では広い方かな。あんまり広いと手入れが行き届かないし、どのみち住んでるのも私と兄だし。もっと狭くても良かったんだけどね」
「でも素敵なお家です」
「そう?ふふふ〜このままうちに住んでも良いのよ?」
「あ、それはダメです。流石に怒られます」
「ちえっ」
そういうと将軍は馬からおりて、私を下ろしてくれる。将軍は片方では私の手を繋ぎ、もう片方では手綱を持つと門の前に立った。
「たーだーいまー!」
大きな声で将軍が叫ぶ。いやいや、普通は門に門番がいるのでは!?どうして叫ぶの!?わけがわからず、目を瞬かせるとバタン!と門の奥の方から音が聞こえた。
そしてバタバタバタバタと駆けてくる音。一体何が始まったのかと身構えていると、炎のような赤い髪を上に結い上げた女性が「おかえりなさーい!」と言いながら、門をひらりと飛び越えたかと思うと私に抱きついてきた。
***
熱烈な抱擁をしてきた人は、もちろん将軍のお姉さんだ。名前をステラ・カティア。将軍よりはいくぶん柔らかい表情の持ち主だが、身長をゆうに超える門を軽々と飛び越えるあたり、カティア家の人なのだろう。
「ごめんなさいねぇ。ネイトさんから知らせが来ていたから、つい……」
「いえ、その、大丈夫です!」
「もう!ルーちゃんはうちの筋肉ダルマ達とは違うんだからね!!」
若干背骨が軋んだ音がしたけれど、将軍の抱擁とさほど変わらないので多分大丈夫だ。私にも耐性ができたのだと思う。
馬を使用人に預けると、私は屋敷の応接間に通される。そこではもう一人、将軍と同じ炎のような赤い髪の男性が待っていた。
「ルーちゃん、こっちが三番目の兄上よ。オルフェ・カティア。養子に出た人形師の」
「えっと、初めまして、ルティア・レイル・ファティシアです」
「わあ。確かに僕らと同じ髪と瞳の色にしていると、本当にうちの子って感じだねえ」
そう言うと、オルフェさんは私の顔や頭を撫でる。それを見ていたステラさんはずるい!と言い出す始末で、私はおもちゃにでもなった気分だ。
将軍は将軍で、私も撫で回す〜と始まるし、誰もこの惨状を止める人がいない。どうしよう!このままでは、撫で回されて一日が終わってしまう!!
誰か助けてくれないかと、部屋中に視線を巡らせるがカティア兄妹以外誰もいないのだ。これは詰んだのでは!?そう思っていると、控えめなノックの音と一緒に部屋に人が入ってくる。
ふくよかな体型の年嵩の女性は揉みくちゃにされている私を見、事情を察したのかスタスタと近づいてくると将軍達の頭をゴン、ゴン、ゴンと叩いたのだ!!
「坊ちゃま、お嬢様!そんなにしたら可哀想ではありませんか!!」
「ううう、ごめん。メルゼ」
「ひさびさのメルゼのゲンコツ……」
しおしおと萎れる三人を見て、思わずメルゼさんと呼ばれた人に尊敬の眼差しを向けてしまった。その人はにこりと私に微笑むと、私の頭を撫でてくれる。
「さあさあ、お嬢様。お腹が空いたでしょう?料理長が腕によりをかけてご飯を準備していますから、皆さんで食べましょうね」
「はい!ありがとうございます」
「元気でよろしいですね。さ、坊っちゃまもお嬢様もよろしいですね?」
その場にいる全員を見回し、うむ、と頷くとメルゼさんは私達を食堂に案内してくれた。食堂のテーブルの上には所狭しと料理が並んでいる。
王宮の食事で見たものもあれば、全く見たことのない料理もあった。
「わあ!美味しそう!!」
「うちの地元の料理もあるからたくさん食べてね」
「うちの領地の料理は美味しいわよ」
椅子に座ると、少しずつ色々な料理がサーブされる。それらを食べながら、カティア家のことを教えてもらった。領地ではどんなものが採れるのか、流行りはなにか、盛んな産業諸々……私が王宮で困らないようにとの配慮だろう。
きっとネイトさんが事前に連絡してくれていたに違いない。流石ネイトさん!と心の中で手を合わせながら、とても楽しい夕食の時間を過ごせた。
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