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ポンコツ王太子のモブ姉王女らしいけど、悪役令嬢が可哀想なので助けようと思います〜王女ルートがない!?なら作ればいいのよ!〜【WEB版】  作者: 諏訪ぺこ
第三章

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170.もやもや、もやもや

 流石に初日から呼び出すのはまずいのかしら?と二日目、三日目、と後宮の仕事を手伝いながらサリュー様からの呼び出しを待つ。

 しかし一向に呼び出されることはない。もちろん鱗を早く渡したいので、オルヘスタル魔術師長からウィズ殿下にお願いはしている。だがどうも返事が芳しくない。


「さ、ルー次はこのシーツを持って行くわよ」

「はい!」


 思わず元気よく返事をしてしまうと「さすがカティアの子ね」と先輩侍女達に笑われてしまう。気をつけているのだけど、なかなかどうして静々とはいかないのだ。


「女官長にも注意されるのですけど、咄嗟に返事をすると大きくなってしまうんですよね」

「まあ、子供が元気なのは良いことよ」

「でも後宮で働く以上はこう、楚々とした動きができるようになりたいです」

「そうは言ってもねえ」

「そうねえ」


 先輩侍女二人は私の顔をジッと見る。姿変えの魔法石はきちんと発動しているけれど、それでもドキドキしてしまう。

 後宮の侍女達はそこまでルティア姫()の顔をじっくり見たりはしないけど、ルーの顔であるなら別だ。ヘラリと笑いを浮かべて首を傾げれば、先輩侍女達は「やっぱり将軍そっくりねえ」と笑った。


「お姉様に、ですか?」

「姉妹だから似ているのは当然なんだけど、ほら、カティア将軍は性格もサバサバされていらっしゃるじゃない?」

「そう。あの方は女性だけど格好いいのよね」

「足捌きも大胆だし」

「そうそう。だから似てるって悪い意味じゃないんだけど、似てる分、楚々とするのは難しいかしらって思うのよねぇ」

「そうでしょうか?」

「だってなんかこう、ルーも勢いがあるじゃない?」


 アリシアだったら楚々とした動きもできるのだろうけど、私はまだ物珍しさの方が勝ってしまうからちょこまかと動き回ってしまうのだ。それを勢いがある、と捉えられたのだろう。ぐうの音もでない。


「あ、でもね!ほら!!将軍よりは、女の子らしいから!!」

「お姉様も女性らしいところがありますよ?」

「それは家族の前だからよ!稽古中の将軍を今度こっそり見てごらんなさいな。すごーく格好良いわよ」

「そ、それはとても興味があります……!!」

「でしょう?」


 キャラキャラと話しながらシーツを運んでいく。運ぶ先は、後宮内で侍女達が住む宮。まだ入ったことのない場所に思わずキョロキョロすると「こっちよ」と手招きされる。


 私は慌てて追いかけた。こんな場所で迷子になったらちょっと戻れる自信がない。ファティシアの後宮と違って、建物の見た目がどこもほぼ一緒なのだ。


 ファティシアだと後宮、小離宮と建物のデザインが違う。そして後宮は正妃であるリュージュ様の部屋が南側で一番広く、他の側妃達の部屋は後宮内の東西北に同じ広さの部屋を持っている。なので間違えることもない。

 それに住み込みの侍女達の部屋は別棟で用意されている。


 ラステアの後宮はほとんどが同じ作り。違うのは部屋の中だけ。それに入り口の脇に下げられている札も、札に花が彫ってあるだけで名前とかはない。なんとも迷いそうだ。


「なんだか、迷子になりそうです……」

「ああ、最初はそうかもね。ここに花を彫った札が下がっているでしょう?で、私達が運んできた籠。これにも花が彫ってある」

「あ、本当だ。もしかしてこの花と同じところにシーツを配って行くんですか?」

「その通りよ。後宮に入りたての子の中には文字がまだ読めない子もいるのよ」

「文字が読めない子がいると言うことは、後宮の侍女の応募は民間からも幅広く行なっているんですね」


 ファティシアだと、後宮内の侍女は実家が爵位持ちでなければなれない。これは王に見初められた時のためだ。一夫多妻が許されていると、侍女に手を出す人もたまにいる。ある程度、爵位がある家の娘であれば教養も身につけているし、侍女から側妃になっても問題ないのだろう。


 一般の人だと後宮内の派閥にのまれて大変なことになりかねないしね。それに後宮で働いていた、となると結婚の時にも多少有利に働くらしい。

 後宮の侍女になる人は、婚約者が決まっていない場合が多いからね。子供が多いとそうなるのですって。


「女官はねールーみたいに貴族の令嬢がなるんだけど、後宮の侍女と言っても殆ど下働きなんだけど、そういった子は民間から取るのよ。何年かここで勤めて、お金を貯めて自分で仕事を始めるもよし、後宮の侍女という肩書で結婚相手を捕まえるもよし、って感じね」

「手に職をつける、的な感じですか?」

「そう。ここで働けば、交代で勉強を見てもらえるし。数年後には字も書けるし、計算もできる立派な淑女のできあがりよ」

「なるほど」

「流石に貴人に仕えるには、民間からの子をつけるわけにはいかないけどね。でも仕事はいっぱいあるし!」


 手仕事の多いラステアでは確かに人手が多い方が助かるだろう。なんせあの素敵な刺繍や織物は全部手で作られているのだ。機織り機と言うのがあるのだけど、繊細な模様を入れて織っていた。ファティシアでも布を作るのは似た工程ではあるけど、あんなに繊細な模様は入れていない。刺繍だってものすごく細かいのだ。


 あれを全部手でやるのは本当に大変だし、食事もファティシアとは全く違う。魔法石のない生活なので、人の手を介することが大半なのだ。


「……私も長く勤めたら、織物とか刺繍とかできるようになるかしら?」

「うーん……女官だとそれ系の仕事はしないからどうかしら?」

「あ、そうか。妃殿下様のお手伝いが主なんですよね」

「そうね」


 あんなに素敵な織物や刺繍ができたらすごく自慢できるだろうけど、習得するのはとても時間がかかりそうだ。というか、習得できるほどラステアにいられるわけでもないし。ちょっと難しいわね。


「さ、そういうわけだから、ルーはここの札からあっちの方を配ってきて」

「はい」

「私達はこっち側を配ってくるから、終わったらここで待っていてね」

「はい」


 二人の先輩侍女と別れると、私は自分のカゴに彫られた花と同じ札が下がっている部屋にシーツを届ける。一度に全部洗うのではなくて、順番に洗っているのですって。洗う日は前日にカゴを用意して、朝にカゴの中に入れていくらしい。


 札の部屋に行くと、誰か人がいて人数を聞いてシーツを渡す。みんな私の髪色を見て「カティアの子ね」と話しかけてくるので、一般の人達にも将軍は名を知られているみたいだ。それが良い方の知られ方なのか、何かで暴れたからなのかはちょっと聞けなかった。


 全部配り終わり、元来た道を戻る。

 物珍しくてキョロキョロしながら歩いていると、中庭の奥の方に人影が見えた。真紅の髪はこの後宮では一人しかいない。サリュー様だ。


 私はあたりを見回し、誰もいないことを確認すると手すりを乗り越えてサリュー様の元へ向かう。だって誰も連れていないのだ。目が見えていないのに!

 玉砂利をザリザリと音をさせながら走っていくと、サリュー様がこちらに気がついた。


「何者です!」

「あ、えっと……申し訳ございません!カティアの、ルーと申します。先日ご挨拶をさせて頂いた……」

「ああ、そう」


 そういうとサリュー様は手を周りに伸ばし、私を探す仕草をする。思わずその手を取ると、耳元に小さな声で「捕まえた」と言われた。


「ルティア姫、ね?」

「え?」

「わかるわ。だって今は目が見えないのだもの。声に聞き覚えがあったけれど、挨拶だけではなんとも言えなかった。でも今はちゃんとわかるわ」

「えっと、その……色々と事情がありまして」

「そうね。わたくしに鱗を渡すため、でしょう?」


 殿下から聞いています、と言われ私は小さく頷く。でも知っているのならどうして呼んでくれなかったのだろう?カティア家の者なら側にいても害はないと思われるはずなのに。それに(ルティア)では?と疑っていたのなら尚更だ。


「サリュー様、この鱗受け取っていただけますか?」


 懐からデュシスの鱗を取り出し、綺麗な白い手に乗せる。すると、サリュー様の瞳の色が元に戻った。


「見えますか?」

「ええ、見えるわ。少し気分も良くなってきた。でもこれをもらうわけにはいかないの」

「え?」

「お願いよ、ルー。わたくしにはわたくしのやるべきことがある。その時まで、わたくしが貴女に手を貸してと望むまで待っていて」


 そう言うと、サリュー様は私の手に鱗を戻す。そして袂から鈴を出すとチリリと鳴らした。その音に反応するように、どこかに控えていた女官が姿を現す。


「わたくしが一人で歩いているのを心配して駆けてきてくれたのよ。お説教はなしにしてあげてね」

「承知いたしました。ルー、妃殿下様には私が付いています。仕事に戻りなさい」

「は、はい。失礼いたしました」


 私がそう言って頭を下げると、サリュー様は女官の手を借りて自分の部屋へと戻っていった。

いつもご覧いただきありがとうございます。

公式発売日は15日ですが、ちらほら発売してますよ〜というツイートを見かけるようになりました。

書店さんでお見かけの際には、ゆた先生の素敵なイラストカードが付く店舗もありますのでよろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ルティア姫の天真爛漫さでしょうか。 あと文章も読み易く、いつも更新されているとすぐに読んでいます。 [気になる点] すみません。 どうしても気になってしまったのが殿下様という呼び方です。 …
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