表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ王太子のモブ姉王女らしいけど、悪役令嬢が可哀想なので助けようと思います〜王女ルートがない!?なら作ればいいのよ!〜【WEB版】  作者: 諏訪ぺこ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/218

154.お留守番中のよもやま話 3(カーバニル視点)

 アタシの名前はフォルテ・カーバニル。ファティシア王国魔術式研究機関の主席研究員よ。つまりはまあ、そこそこ偉い立場ってわけ。

 それもこれも五年前から姫殿下や王子殿下や他のちびっ子たちを指導しているからなんだけどね。


 その中の一人。アリシア・ファーマン侯爵令嬢はアタシが見ている中でもそれなりに優秀で、年齢の割に落ち着いた()なのよ。

 どこかアンニュイとした、それでいて猪姫殿下のストッパーにもなってくれる。アタシの苦労を軽減してくれる存在。


 その娘が今現在、突然アタシの部屋に飛び込んできたと思ったら、アタシの襟首を引っ掴んでガクガクと揺さぶってきたってわけ。しかもあのアンニュイとした表情は何処に行ったの!?ってくらいに目をキラッキラさせちゃってさあ。


「ひとまず、落ち着きなさいよ!」

「だって先生!!お米です!お米が見つかったんです!!精米する魔術式教えてください今すぐに!!!!今逃したらお米が食べられません!!!!」


 アリシア嬢の額をベシッと叩き、アタシから引っぺがすと衣服を整える。すると「おこめ!おこめ!!」といいながら手に持っている麦に似た穀物をブンブンと振り回し始めたのだ。それが顔に当たって若干痛い。


「というか、アタシの玉の肌に傷でもついたらどうするのよ!?」

「その時はポーション飲んでください。大丈夫です。疲れも吹っ飛びます!」

「あーもう!ホントに落ち着きのない娘ね!!アタシは逃げないんだから落ち着きなさいよ!!」

「せ、先生には私が長年求めていた物が見つかった喜びがわからないんですよー!!これがあれば、領地で水田作って量産します!!」

「ああ……それは確定事項なのね?」

「ちゃんとランカナ陛下からも了承は頂きました!!」


 普段のあの大人しさからは全くもって想像がつかない。まるでお姫様が二人に増えたような感覚に頭が痛くなる。アタシはふう、とわざとらしくため息を吐く。それからようやく、その「おこめ」という穀物を受けとった。


「なあに?コレを?せいまい?したいの??」

「そうです。これは籾殻付きでは食べられないんです。この表面の籾殻を!!取り除いて玄米にします!!そこから糠と胚芽を取り除いて白いお米になるんです!!!!」

「はあん……??」


 アタシは話を聞きながら小麦の穂に似た穀物から実を一つプチッと取る。

 小麦は実を穂から取り、それを水車小屋で水の力を借りて石臼で細かくしていくわけだけど……


 それとは違うからこそアリシア嬢はアタシに「せいまい」とやらの方法を聞いてきたわけなのよね。麦に比べると小さい実。これから殻を取れと?


「先生……これが精米できるようになれば、小麦にも応用してもっと柔らかいパンが食べられるようになります!!」

「もっと柔らかいパンねえ」

「そうです!小麦は石臼で挽いたものから、更に不要な皮をふるいにかけてますよね?その手間がなくなります。余分な皮がなくなって、粉だけになるのでフワフワで柔らかいパンになるんです!!たぶん!!」

「たぶんなのね……」

「でもその工程があればパンが柔らかくなるはずなんです……」


 尻すぼみになる言葉にアタシはうーんと頭を捻る。ファーマン侯爵領では、侯爵が色々と新しい魔術式を開発していた。それはもしや、アリシア嬢の突飛もない言葉をそのまま実行に移した親バカのなせる技だったのだろうか?


 でも親バカにできてアタシにできない。と思われるのも癪ね。そう。ものすごく癪。アタシはこれでもたくさんの魔術式を監修、そして改良してきた。

 魔術師団長アマンダ・ロックウェルにだって負けないと自負している。それなのにできないなんて!あるわけないわ!!


「いいわ。作ってあげる。アンタもちゃんと協力するのよ!!」

「もちろんです先生!!」

「そうと決まれば研究室を借りに行くわよ!!」

「はいっっ!!」


 喜びのあまりぴょんぴょんと跳ねるアリシア嬢と一緒に、研究室を借りに行く。そこではすでに話が通っていたようで、ラステアの研究員たちも興味深げにアタシたちの手元を覗き込んでいた。


「これって、そもそもどんなものなの?」

「あーこれは龍の餌、ですね」

「龍の餌!?……アンタ、龍の餌をもらってきちゃったの?」


 テーブルの上に「おこめ」を置いて実験の準備を進めていると、研究員の一人にそう言われた。アタシは呆れた視線をアリシア嬢に向ける。


 すると「元々は違うんですよ!」と彼女から抗議の声があがった。元々違っていても、現在は龍の餌であることには変わりないと思うんだけどね!龍の餌をもらってきちゃう令嬢ってどうなのよ……


「あーまあ、その……それを仕入れてきた者が精製方法を伝える前に亡くなったみたいなんですよ。それに、その時には仕入れ先との交流も途絶えてまして」


 別の研究員がそう教えてくれる。アタシはその話に首を傾げた。仕入れ先と交流が途絶えた、となるとラステアに元々あったものではない、ということだ。

 アタシの知る限り、流石にトラットと交流なんてないだろうし……もしあるとすれば、東の————レイラン王国ということになる。


「もしかして、仕入れ先はレイラン?」

「その通りです。あの当時はごく僅かな者がレイランと交流がありまして……ですが、その交流のあった家の娘さんがレイラン手前の領地に嫁入りしたとかで後継者がいなくなってしまったらしいんですよ」

「あらぁ……どこかで聞いた話ねぇ。その手前の領地ってカタージュじゃない?で、嫁に行った娘の名前はリリア?」

「流石にそこまでは……ですが、確かカティア家の傍流だったはずです」


 やだビンゴ〜と内心で思いながら、アタシは遠い目をしてしまった。何を隠そう、アタシの祖母がそのカティア家出身のお嬢様に仕えていた人なのだ。

 ルティア姫にとってみればひいお祖母様にあたる方で、そりゃあもう強い方だったと聞いている。そして同じく豪腕で名を馳せていたレイドール伯爵に一目惚れし、押しかけ女房になってしまったのだ。


 祖母たちが何故カタージュに来ていたのか、その理由までは知らなかったけれどレイランとの交易を目的にしていたのか。それならばカタージュは最後の物資補給の場所。ついでに魔石が取れれば一石二鳥とでも思ったのかもしれない。


 後継が嫁に行き、レイランとの交易が絶えた。本来なら別に人を送れば良い話だけど……レイランは他国に対して門戸を開いていない。ごく限られた者のみが出入りを許されている。


 限られた者をどう選別しているのか、その基準も謎だ。レイランはとても謎の多い国なわけよ。それに理由はわからないけど、リリア様はレイランとの繋がりを継続しなかったみたいだし?もしあればレイドール領を中継地としてレイランとの交易は続いているはず。でも現在そんな話は聞いたことがない。


 兎も角、そのせいでこの「おこめ」という穀物の精製方法がわからなくなったのか……なるほどねえ、と考えていると横からグイグイと服を引っ張られる。


「先生、この中身だけを取り出せれば良いんです!!白い、白いお米食べたいです先生!!」

「あーもう!落ち着きなさい小娘!!」

「長年の夢なんです〜〜!!ご飯食べたいです!!!!」

「はいはいはいはい!!アンタのパパと違ってそこまでポンポン面白い魔術式が思い浮かぶわけじゃないのよ!!もっと事細かに精製方法を教えなさい!!」


 もう一度おでこをペシンと引っ叩くと、アリシア嬢は実を一粒指にとり周りの殻がない状態を「げんまい」といった。そしてそこから周りの「ぬか」と「はいが」というものを削りとって精製するのだと。


「それってだいぶ中身が小さくならない?」

「ええっとーたしか、精米すると一〜二割は減りますね」

「つまり、一〜二割程度の減りに留めなきゃいけないってことね?」


 頬がヒクリと震える。この小娘!アタシをためしてるのかしら!!内心でそんなことを考えながら、この小さな実から殻と不要な部分を取り除く魔術式を考えていく。


 ハッキリいって、ものすごい精巧な技が必要だ。そもそもこんな小さな実から中身を取り出そうなんて正気の沙汰じゃない。

 それがわかったのか、ラステアの研究員たちもちょっとゲンナリした表情を見せた。


「せんせ〜……」

「ちょっとお黙り!レイランにできてアタシにできないわけないわ!!」

「レイランは……そもそも魔術式あるんですかね?」

「それは知らないわ」

「そうですよね」


『…………』


 ラステアの研究員たちと目が合う。アタシはにっこりと笑って、視界の隅から逃げようとした研究員の襟首を掴んだ。


「もちろん手伝ってくれるわよね?」

「いやあ……」

「龍の餌が人の食事に変わるなら、龍が食べるほど美味しい!とかいって売れるわよ?」

「あーそれは、まあ……」

「ーーーー手伝いな?」


 ドスのきいた声を出すと、ヒッと小さな悲鳴が聞こえたが知ったこっちゃあない。こうなりゃ共同研究だ。そもそもラステアでは生産しているものなのだから、新しい食べ物が増えるのは良いことのはず。


「さーどんどん試していくわよー!!」


 そういって空いてる手を振り上げると、アリシア嬢も同じように手を挙げて「おー!」と声を上げた。食って人間の性格まで変えるのかしら……??






 数日後ーーーー無事に精製して「はくまい」とやらになった「おこめ」。それをアリシア嬢が(くりや)を借りて作った「おむすび」というのは、まあ、美味しかったわね。


 それと、龍に乗るたびに気絶していた彼女が「龍と食の好みが似てるなら乗れるはずー!」と騎乗の練習をし出した。騎乗できる人間が増えるのは良いことだわ。これでアタシの苦労も少しは報われたってものね。


 それにしても、レイランの食べ物をなーんで知っていたのかしら……?

いつもご覧いただきありがとうございます!


【アリシア ハ セイマイ ヲ オボエタ……!!】

な感じで、アリシアは精米を覚えましたね。ファティシアでは大豆作ってますし、上手くいけばお味噌汁も飲めるようになる日も近いかもしれません(笑)

たまにはハイテンションなアリシアでした。次のリーナ視点でよもやま話はお終いになります。

ラステアにルティアが帰ってきますよ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] あとは卵焼きですかねえ魚は敵対勢力海に面してるから吹っ掛けてきそうだし
[気になる点] 『それにしても、レイランの食べ物をなーんで知っていたのかしら……?』 119.でアリシアが前世の記憶を持っているのを知っているはずですが? カーバニルが連想できないほど愚鈍とは思えない…
[一言] 一升瓶と棒と腕白坊主と怖いオカンを生成すれば解決だな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ